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炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯
序章

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7/20

完全な遺物


城内は、目に見えない形ではっきりとざわつき始めていた。


原因は一つしかない。

白と緑の鉄騎が、城の外――それも、王の居室に隣接する区画の窓の向こうに立っている。


それだけで十分だった。


鐘が鳴ったわけでも、命令が下ったわけでもない。

だが、城という閉じた空間の中で、「異変」は瞬く間に共有される。


騎士たちが歩みを止める。

工房の人間が気まずそうに視線を逸らしながらも、確かめずにはいられない。

近衛は槍の位置をわずかに修正し、使用人たちは息を潜める。


誰も声を上げない。

だが、全員が同じものを見ていた。


王家の色。

それも、過去に記録のない組み合わせ。

白を基調にしながら、関節部に残る緑――

旧来の系譜を否定せず、同時に塗り替えている色。


「新型」

「再塗装」

「王家直轄」


どの言葉も正確ではない。

だからこそ、誰も言葉にしなかった。


ハイドは、その中心にいた。


だが、彼自身は何も言えない。

何も分からないまま、ただ窓の向こうを見ている。


あの巨体が、自分のものだという実感はまだ薄い。

だが、炭鉱で触れた冷たさと重さが、確かに記憶として残っている。


視線を外すことができなかった。


その横に、イーリスが立っている。


人混みの中でも、彼女は不思議と目立たない。

動かず、喋らず、主張しない。

だが、気づけば必ずそこにいる。


「判断は未確定」

「了解しました。保留ですね」


あまりにも淡々とした声だった。


少し前まで見せていた、感情を模倣するような口調は消えている。

抑揚は最小限。

情報伝達に最適化された、初期状態の音声。


イーリスは一歩、ハイドに近づく。


距離は、近すぎず、遠すぎず。

肩が触れないぎりぎりの位置。


「私は質問を撤回します」

「決断が必要になった時、再度お伺いします」


それだけ言って、彼女はもう鉄騎の方を見ない。


ハイドではなく、周囲でもなく、

“今は見る必要がない”と判断した対象から、完全に意識を切り離した動きだった。


周囲の視線が、二人に集中しているのがはっきり分かる。


好奇でも、警戒でも、畏怖でもある。

それらが混ざり合った、扱いづらい視線。


だがイーリスは、まるで存在しないかのように振る舞い、

自然にハイドの隣に立ち続けた。


まるで――

そこが最初から決められていた“定位置”であるかのように。


誰かが、声をかけようとした。

だが、近衛騎士が一歩前に出ただけで、その動きは止まった。


理由は単純だ。


王の隣の部屋。

王家の鉄騎。

そして、その横に立つ「人ではない存在」。


この組み合わせは、軽々しく触れていいものではない。


誰もが、直感的に理解してしまったのだ。

ここで踏み込めば、取り返しのつかない線を越える、と。


だから誰も、何も言わなかった。


⸻———


夜。


城は、昼とは別の顔を見せていた。


白い壁は月光を反射し、昼よりも冷たく見える。

照明の光は最小限に抑えられ、足音はさらに響く。


ハイドの部屋も例外ではない。


白を基調とした、簡素な部屋。

だが、簡素であることと、安全であることは別だ。


扉は厚く、内側からも外側からも開閉記録が残る。

外には常に二名の近衛が配置され、交代の時間すら厳密に管理されている。


窓は強化ガラス。


逃げ場はない。

だが、侵入もまた困難だ。


その部屋の中に――

イーリスもいる。


椅子に座るでもなく。

壁にもたれるでもなく。

ハイドから数歩離れた位置に、まっすぐ立ったまま動かない。


彫像のようでいて、

完全に“待機中”だと分かる姿勢。


「……出ないのか?」


ハイドがそう言うと、

イーリスは間髪入れずに首を横に振った。


「必要性がありません」

「現在、あなたの安全確率が最も高い位置はここです」


即答だった。

迷いも、検討の余地もない。


「俺が寝る間も?」


「はい」


言い切り。

当然の事実を述べるだけの口調。


ハイドはベッドに腰掛け、長く息を吐いた。


炭鉱では、寝るという行為は“気を失う”ことに近かった。

疲労が限界に達した時、倒れるように眠るだけ。


だがここでは、

眠る前に考えてしまう時間がある。


イーリスは、その様子をじっと見ている。

視線は固定されているが、圧迫感はない。


「不快であれば、視線を外します」


機械的だが、配慮の言葉だった。


「……いや、いい」


ハイド自身、理由は分からない。


ただ――

この部屋で完全に一人になるよりも、

この無機質な存在がいる方が、心が静まる気がした。


イーリスは小さく、ほんのわずかに首を傾ける。


「了解しました」


それきり、沈黙。


だがその沈黙は、

重くもなく、空虚でもない。


白い城の夜の中で、

ハイドとイーリスは、

誰にも踏み込めない距離を保ったまま、同じ部屋に存在していた。


守る者と、守られる者。

道具と、使い手。

だが、まだどちらとも言い切れない関係。


その夜、城は静かだった。

だが確実に、

何かが動き始めている気配だけが、白い壁の奥に残っていた。

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