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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
サクスへの帰還

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不当な血統

王家の鉄騎が完全に見えなくなった後も、部屋の空気は少し重かった。


生徒たちは窓から離れ、それぞれ椅子へ戻る。だが誰もすぐには喋らない。


マスドライバー。


空から飛来する鉄騎。

それは学園の生徒たちにとっても現実感の薄い話だった。


最初に口を開いたのはマリーだった。


「……でも」


彼女は少し首を傾げる。


「なんでヒノクニの人たちは、わざわざこんな遠くまで来たんでしょう」


静かな疑問だった。


「決闘だけなら、自国でやればいいのに……」


アルノーも腕を組む。


「確かに」


「国を賭けるとか言ってたけど、実際には占領しに来たわけでもないしな」


ハイドは少し考えた。


「クニヒトはなんか……」


言葉を探す。


「観光みたいな感じだった」


アルノーが呆れた顔をする。


「国を賭けた決闘で観光するな」


ハイドは真顔で頷く。


「俺もそう思う」


その時。


イーリスが静かに口を開いた。


「おそらく目的は別です」


全員が彼女を見る。


イーリスは淡々としていた。


「技術確認」


「技術?」


マリーが聞き返す。


イーリスは頷く。


「諸外国の技術水準調査と推定します」


アルノーが眉をひそめる。


「そんなことのために国を賭けた決闘を?」


「決闘は接触理由として合理的です」


あまりにも平然と言うので、一瞬誰も反応できなかった。


ハイドが言う。


「合理的で済ませるなよ」


イーリスは続ける。


「ヒノクニは、旧文明の残滓が非常に濃い」


その言葉に、部屋が静かになる。


旧文明。


誰もが知っている言葉だ。


だが、その実態を知る者は少ない。

イーリスは窓の外を見る。


「サクス王国を含む多くの地域は、過去に絶滅級被害を受けています」


アルノーが小さく頷く。


それは歴史として学ぶ。


崩壊戦争。


大地を焼き、文明を滅ぼした時代。

鉄騎だけが遺物として残った。


イーリスは静かに続ける。


「しかしヒノクニは違う可能性が高い」


「なんで分かるんだ?」


ハイドが聞く。


「技術体系です」


イーリスは答える。


「保存状態が異常」


マリーが首を傾げる。


「保存状態?」


「マスドライバー」


「……あ」


「長距離通信設備」


「確かに……」


「さらに鉄騎改修技術」


イーリスは続ける。


「ヒノクニの鉄騎は、例外なく大規模改修されています」


アルノーが言う。


「言われてみれば」


格納庫。


あの大量の鉄騎。

どれも姿が違った。


同じ機体が一つもない。


イーリスは静かに言う。


「つまり、継続的技術継承が存在している」


マリーが少し青ざめる。


「じゃあ……」


「はい」


イーリスは頷く。


「ヒノクニは、他国ほど文明崩壊の被害を受けていない可能性があります」


沈黙。


それは重い話だった。

もし本当にそうなら。


ヒノクニだけが、他国よりはるかに多くを残していることになる。


ハイドがぼそりと言う。


「だからクニヒト強かったのか」


イーリスは少し考えた。


「個人技量もあります」


「ですよね」


「ただし」


イーリスの目が少し細くなる。


「ヒノクニの戦術思想は旧文明寄りです」


アルノーが聞く。


「どういう意味だ?」


「機体性能依存率が低い」


ハイドが首を傾げる。


「……?」


イーリスは説明する。


「サクスは生産性重視」


「うん」


「対してヒノクニは操縦技量重視」


マリーが思い出したように言う。


「クニヒトさん、すごく動きが変でしたよね」


「変って言うな」


ハイドが苦笑する。


「でも実際、あれ人間の動きみたいだった」


刀を滑らせる。

跳ぶ。

着地する。

片腕を捨てる。


あれは量産型鉄騎の動きではない。


イーリスが言う。


「ヒノクニは、鉄騎を兵器ではなく武術として扱っています」


アルノーが小さく息を吐く。


「面倒くさい国だな……」


「はい」


即答だった。

少しだけ空気が和らぐ。


だが。


イーリスは続けた。


「ただし危険です」


全員が再び静かになる。

イーリスは窓の外を見たまま言った。


「技術が残っている国家は、それだけで脅威になります」


ハイドが言う。


「でもクニヒト悪い奴じゃなかったぞ」


「理解しています」


イーリスは頷く。


「しかし国家単位では別問題です」


そして。


「だから女王は警戒しています」


部屋に沈黙が落ちた。


遠くで、鉄騎の足音だけが響いていた。


_______


学園の上級生寮。


重い木扉の奥にある私室で、ルートヴィヒ・フォン・ヴァルデックは無言で机に向かっていた。

窓の外では、夜風が枝を揺らしている。

机の上には、開いたままの書類。


だが、視線はそこに向いていなかった。


決闘敗北以降。

彼の立場は確実に悪化していた。

以前なら周囲にいた取り巻きも減った。

保守派貴族の子弟たちは、表向きは変わらない。


だが。


視線が違う。


「あいつは負けた」


その空気がある。


八機。


それだけ揃えて負けた。

しかも相手は、元炭鉱奴隷。


それは貴族社会では致命的な失態だった。


ルートヴィヒは拳を握る。


「……」


その時。

扉がノックされた。


「失礼します」


入ってきたのは、同派閥の男子生徒だった。

どこか興奮した顔をしている。


「ルートヴィヒ様」


「何だ」


「ハイドが戻りました」


ルートヴィヒの目が細くなる。


「……戻った?」


「はい」


「ヒノクニからか」


「そうです」


ルートヴィヒは椅子にもたれた。


決闘後。


ハイドはヒノクニへ向かった。


外交。

大使。

国交。


女王直々の任務。

それ自体が気に入らなかった。


なぜ奴隷上がりがそこまで重用される。


なぜ王家はあれを特別扱いする。

ルートヴィヒは低く言う。


「どうやって帰った」


男子生徒が困った顔をする。


「それが……」


「何だ」


「空から来たらしいです」


沈黙。


「……は?」


「湖に落ちたとか」


「意味が分からん」


「鉄騎ごと飛んだと……」


ルートヴィヒは露骨に嫌そうな顔をした。


「馬鹿馬鹿しい」


「ですよね」


だが。

男子生徒は続ける。


「ただ、女王陛下が直接確認に来たそうです」


ルートヴィヒの表情が止まった。


「……何?」


「本当かどうか確認に」


静寂。


ルートヴィヒはゆっくり立ち上がる。

窓際へ歩く。

外を見る。


夜の学園。


遠くに見える格納庫。

そこには今も、デュークが立っている。


白い巨体。


まるで学園を見下ろしているようだった。


ルートヴィヒは舌打ちする。


「チッ……」


嫌な予感がしていた。


女王は、あの機体を特別視している。

それは以前から分かっていた。


だが最近は露骨だ。


決闘。

外交。

そして今回。


わざわざ女王自ら確認へ来た。

つまり。


あの機体は、王家にとって無視できない存在になっている。


男子生徒が小声で言う。


「噂では、ヒノクニには空を飛ばす技術があるとか……」


「黙れ」


低い声だった。


男子生徒が肩を震わせる。

ルートヴィヒは苛立っていた。


ヒノクニ。


またその名だ。

決闘の時もそうだった。

クニヒト。

あの武士じみた男。

あれも気に入らない。


王に対して無礼極まりない態度だった。

だが。


実力だけは本物だった。

そして、その男がハイドを認めた。

それが余計に腹立たしい。


ルートヴィヒは窓の外のデュークを見る。


「あれは何なんだ……」


量産型とは違う。

明らかに違う。


動き。

出力。

反応。


全てがおかしい。


王家すら把握していなかった遺物。


それを。


なぜハイドなんかが起動できた。

納得できなかった。


男子生徒が恐る恐る言う。


「どうされますか」


「……何をだ」


「ハイドへの対応を」


ルートヴィヒはしばらく黙っていた。

以前の彼なら。

即座に動いていただろう。


嫌がらせ。

圧力。

決闘。


だが今は違う。


もう軽々しく手を出せない。

王家が見ている。

しかも。

ハイド自身が強すぎる。


八機で負けた。


その事実は、想像以上に重かった。

ルートヴィヒは低く呟く。


「……今は動くな」


男子生徒が驚く。


「ですが」


「馬鹿か」


ルートヴィヒは振り返る。


「今あれに手を出せば、王家が動く」


以前とは違う。

もう単なる炭鉱奴隷ではない。


ヒノクニとの外交。

女王直轄。


そしてデューク。


今のハイドに何かあれば、確実に問題になる。

ルートヴィヒは苛立たしげに髪をかき上げた。


「クソが……」


男子生徒は何も言えない。

ルートヴィヒは再び窓を見る。


格納庫。

白い鉄騎。


そして。


その機体に乗る男。


「……なんでお前なんだ」


答える者はいなかった。

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