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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
サクスへの帰還

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噂の確認

学園では、数日経っても妙な噂が消えなかった。


「湖から鉄騎が出てきた」


「夜中に森を歩いていた」


「空から落ちてきた」


話す人間によって内容が変わる。

中には、


「デュークが星から来た」


などと言い出す者までいた。


ハイドは食堂で頭を抱えていた。


「なんでそうなるんだよ……」


向かいに座るマリーが困った顔をしている。


「でも、実際どうやって帰ってきたんですか?」


「いやだから」


ハイドは手を動かす。


「長いレールで」


「はい」


「飛ばされて」


「……はい?」


「パラシュート開いて」


「……はい?」


「湖に落ちて」


「……」


「歩いて帰ってきた」


マリーは数秒考えた。


「……疲れてます?」


「違うって!!」


イーリスが横で静かに茶を飲んでいる。


「事実です」


マリーはますます困惑した。


そんな中。


学園正門前に、王家の紋章を掲げた鉄騎が現れた。


周囲がざわつく。


「女王陛下……?」


「また来たのか?」


量産型鉄騎が四機。

その中央。

王家専用機クラウン。


巨大な鉄騎が学園前で停止する。

ハイドは窓からそれを見て固まった。


「……なんで?」


イーリスが言う。


「女王です」


「見れば分かる」


数分後。


応接室。

ハイドは妙に緊張して座っていた。

正面にはシャルロット女王。

隣にイーリス。


部屋には護衛もいるが、女王自身は静かだった。


シャルロットは単刀直入に言った。


「帰還方法を説明しなさい」


ハイドが固まる。


「え?」


「ヒノクニから、どのように戻ったのですか?」


静かな声。

だが圧がある。

ハイドは困った顔をした。


「……飛びました」


女王は無言。

ハイドは慌てて続ける。


「いや、本当に」


「続けなさい」


「レールみたいなのに固定されて」


手を動かす。


「バァンって」


シャルロットは眉一つ動かさない。


「それで?」


「空飛んで」


「……」


「パラシュート開いて」


「……」


「湖に落ちました」


沈黙。


護衛の一人が若干困惑した顔をする。

ハイドは必死だった。


「そのあと歩いて帰りました」


シャルロットはイーリスを見る。


「補足を」


イーリスは静かに答える。


「電磁投射式長距離輸送装置」


室内の空気が変わった。

護衛たちが顔を上げる。


シャルロットだけは表情を変えない。


「……詳細を」


「旧人類規格大陸間輸送装置です」


イーリスは続ける。


「大型質量体を超長距離射出可能」


「射程は?」


「海洋横断可能」


一瞬、沈黙が落ちた。


シャルロットは指を組む。


「着水地点が海ではない理由は?」


ハイドが言う。


「確かになんで海じゃなかったんだ?」


イーリスが答える。


「人工衛星による位置特定が不可能であったため、安全性確保のため既存射出履歴を利用しました」


シャルロットの視線が鋭くなる。


「履歴?」


「過去に使用された安全弾道データが保存されていました」


「つまり」


「以前にも同様の射出実績があります」


ハイドが言う。


「実験で部下を飛ばしていました」


シャルロットが初めて少しだけ眉を寄せた。


「……そう」


イーリスは淡々としている。


「安全性は確認済みです」


ハイドが小声で言う。


「基準がおかしいんだよなあ」


シャルロットは続ける。


「再現は可能ですか?」


イーリスが答える。


「設備が必要です」


「サクス国内で建造可能?」


少し沈黙。


「射出設備だけでは不十分です」


「続けなさい」


「受け入れ側にも着水設備、回収設備、減速装備が必要です」


シャルロットが聞き返す。


「減速装備?」


ハイドが答えた。


「パラシュートです」


護衛の一人が思わず言う。


「鉄騎に?」


「はい」


「鉄騎に?」


「だからそう言ってるだろ」


イーリスが補足する。


「大型減速傘による終末減速を実施」


「終末減速……」


「着水直前に切り離します」


ハイドが即座に言った。


「そこが一番怖かった」


「想定通りです」


「説明なく切るな」


護衛の一人が吹き出しそうになる。

シャルロットは気にせず続けた。


「つまり射出後も制御が必要なのですね」


「はい」


「完全な砲撃ではない」


「輸送システムです」


その一言で部屋の空気が変わった。

砲撃ではない。

輸送。


それはつまり。


鉄騎を遠距離へ送るだけではない。

人員。

物資。

補給。

それら全てを超長距離で移動させる可能性を意味していた。


シャルロットは窓の外を見る。

学園。

量産型鉄騎。

空。


そして静かに言った。


「空から鉄騎が来る」


誰に向けた言葉でもない。


だが。


その意味は重い。


現在の鉄騎戦は、基本的に陸路前提だ。

巨大兵器である以上、移動には時間がかかる。

だから国境。


港。

街道。

防衛線が存在する。


だがもし。


海を越え。


国境を無視し。


上空から鉄騎が降ってくるなら。


しかも着水可能な湖や湾が国内に存在するだけでいいのなら。

防衛概念そのものが崩れる。


さらに。


それは単なる奇襲兵器ではない。

ヒノクニが実際に行ったように。

人と鉄騎を送り届ける輸送網にもなり得る。


シャルロットはそれを理解していた。


だから直接来た。

噂で済ませなかった。


もっとも。

彼女はそれを口にはしない。


代わりに尋ねた。


「着水時の衝撃は?」


ハイドは即答した。


「その前です」


「?」


「パラシュート開いた時です」


護衛たちが首を傾げる。


ハイドは両手を広げた。


「落下してる鉄騎が急に止まるんですよ」


「……」


「内臓全部前に行くかと思った」


イーリスが補足する。


「減速は正常でした」


「正常であれなら異常は死ぬだろ」


護衛の一人がついに吹き出した。

慌てて咳払いをする。


シャルロットは少しだけ目を閉じた。

考えている。


ヒノクニ。


マスドライバー。


空から来る鉄騎。

そして。

デューク。


女王は静かに立ち上がった。


「……理解しました」


ハイドが言う。


「信じるんですか」


シャルロットは淡々と答える。


「イーリスが虚偽を言う理由がありません」


そして少しだけ視線を細める。


「それに」


窓の外を見る。


「あなたは、嘘が下手です」


ハイドは複雑な顔をした。


シャルロット女王が去った後。

応接室には妙な静けさだけが残っていた。


ハイドは椅子に深く座り込み、大きく息を吐く。


「……疲れた」


イーリスは窓際に立ち、外を見ている。


学園の中庭では、生徒たちが遠巻きに鉄騎の列を眺めていた。量産型鉄騎の威圧感は、それだけで空気を変える。


ハイドがぼそりと言う。


「なんか、変なこと言ったか?」


イーリスが振り返る。


「特には」


「絶対なんかやばい空気だっただろ」


「女王は考え事をしていました」


「それが怖いんだよ」


イーリスは少し考えた。


「マスドライバーの戦略的価値を計算していた可能性があります」


ハイドは頭を抱えた。


「やっぱりか……」


彼でも分かる。

空から鉄騎が来る。


それは、この世界の常識を壊す。


城壁、関所、港、街道。


全部無視できる。


「……ヒノクニ怖ぇ」


イーリスが静かに言う。


「合理的です」


「合理的で人飛ばすな」


その時、廊下の向こうが騒がしくなった。


「いたぞ!」


「本当に帰ってきた!」


「湖のやつだ!」


ハイドが嫌な顔をする。


「もうその呼び方やめろよ……」


扉が開く。


マリーとアルノー、それに数人の生徒が入ってきた。

みんな妙に目が輝いている。


アルノーが開口一番言う。


「本当に空から来たのか!?」


ハイドはげんなりする。


「またそれ……」


マリーは少し申し訳なさそうだ。


「すみません。でも皆どうしても気になってて……」


後ろの生徒が言う。


「夜中に湖から鉄騎が出てきたって本当なんだろ!?」


「見た人いるらしいぞ!」


「空が光ったって!」


どんどん話が盛られている。

ハイドは立ち上がった。


「違うって」


「じゃあ何なんだ!」


ハイドは説明しようとする。


「だから、レールみたいなので」


手を動かす。


「こう……飛んで」


生徒たちが真顔になる。


「……」


「パラシュート開いて」


「……」


「湖に落ちて」


「……」


「歩いて帰った」


沈黙。


アルノーが真剣な顔で言う。


「分からん」


「だよな!!?」


ハイドは半ばキレ気味だった。

イーリスが補足する。


「電磁投射式長距離輸送装置です」


全員が固まる。


アルノーが言う。


「もっと分からん」


「俺もそうだった」


生徒の一人が恐る恐る聞く。


「つまり……」


「うん」


「鉄騎を空に飛ばしたのか?」


ハイドは少し考えてから言う。


「飛んだっていうか」


「うん」


「投げられた」


沈黙。

次の瞬間。


「怖っ!!」


部屋がざわついた。


マリーが青い顔をする。


「そんなことして大丈夫なんですか……?」


ハイドは遠い目をした。


「大丈夫じゃなかった」


「ですよね!?」


イーリスが静かに言う。


「着水誤差は許容範囲内でした」


ハイドが言う。


「湖のど真ん中だったけどな」


アルノーが腕を組む。


「ヒノクニは頭がおかしいのでは?」


イーリスが即答した。


「技術的には極めて合理的です」


「合理的で済ませていいのかそれ」


その時、窓の外から重い足音が響いた。


ズシン。


ズシン。


量産型鉄騎が移動している。


王家の鉄騎が帰還を始めたのだ。

生徒たちが窓へ集まる。

ハイドも外を見る。


クラウン。


女王機が静かに歩いていく。


ただ歩く。


だが、その姿だけで空気が張り詰める。

アルノーがぼそりと言った。


「……女王陛下、怒ってたのか?」


ハイドは少し考える。


「怒ってたっていうか」


言葉を探す。


「考えてた」


イーリスが言う。


「脅威分析」


全員が彼女を見る。


イーリスは平然としていた。


「マスドライバーは見方を変えれば戦略兵器です」


部屋の空気が少し変わる。

誰も軽口を叩かなくなった。

イーリスは続ける。


「現在の鉄騎戦術は地上移動前提。しかし長距離射出が可能であれば、防衛線を無視できます」


アルノーが真顔になる。


「つまり」


「王都上空へ直接鉄騎を投射可能」


マリーが小さく息を呑む。

ハイドは頭を掻いた。


「やっぱやばいよなあれ」


イーリスは静かに頷く。


「はい」


そして窓の外を見る。

遠ざかるクラウン。


「だから女王は、直接確認しに来ました」


ハイドはその背中を見ながら思う。

シャルロットは多分、もう動き始めている。


マスドライバーという存在を知ってしまった以上。


あの女王が、何もしないはずがなかった。

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