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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
学園編

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湖の悪魔



夜の湖は、黒かった。


月明かりはある。

だが、それでも水面は底の見えない闇のように沈んでいる。


そしてその上空。


夜空を切り裂きながら、巨大な鉄騎が落下していた。


デューク。


全身を軋ませながら、音速を下回ったとはいえ凄まじい速度で降下している。


ハイドは歯を食いしばった。


「まだか!?」


イーリスが即答する。


「高度二千」


「まだ高い!」


「安全圏内です」


「全然安全じゃない!」


警告音が鳴る。


高度千五百。


イーリスが言った。


「減速シーケンス開始」


次の瞬間。


デューク背部の大型コンテナが炸裂するように開く。


ドンッ。


巨大なパラシュートが夜空へ展開した。


衝撃。


デューク全体が強烈に引っ張られる。


ハイドの身体がシートへ叩きつけられた。


「ぐぇっ!!」


急激な減速。


鉄騎全体が大きく揺れる。


だが落下速度は目に見えて低下した。


イーリスが淡々と言う。


「主減速成功」


「最初からそうしてくれ!」


「展開高度を守りました」


デュークは夜空でゆっくりと姿勢を安定させる。


巨大な黒いパラシュートが月明かりを遮る。


眼下には湖。


着水予定地点。


イーリスが確認する。


「進路正常」


「頼むから湖の真ん中にしてくれ」


「既に中央です」


高度五百。


三百。


百。


水面が迫る。


イーリスが告げた。


「パラシュート切り離し準備」


「え?」


「着水時の巻き込み防止です」


ハイドが嫌な予感を覚える。


「待って」


「切り離します」


「待っ――」


バンッ。


パラシュートのロックが解除。


巨大パラシュートが一瞬で分離される。


デュークは再び自由落下へ移行した。


「うわああああああ!!」


「想定通りです」


「説明してからやれ!!」


湖面が目前まで迫る。


そして――


巨大な水柱が上がった。


轟音。


湖面が爆発したように波立つ。


水鳥が一斉に飛び立ち、岸辺の木々が揺れる。


数秒後。


湖の中から、ゆっくりと巨大な影が浮かび上がった。


デューク。


全身から水を流しながら、白い鉄騎が湖面から立ち上がる。


ハイドはコクピットの中でシートに沈み込んでいた。


「……」


しばらく動かない。


イーリスが言う。


「着水成功」


ハイドは返事をしない。


「ハイド」


「……生きてる」


声が死んでいる。


イーリスは淡々としていた。


「骨折なし」


「うん……」


「内出血軽度」


「軽度で済むんだ……」


デュークはゆっくり湖を歩く。


水深は胸ほど。


巨体が岸へ近づくたび、水が大きく揺れる。


やがて岸へ到達。


デュークが湖から完全に上がる。


全身から大量の水が流れ落ちる。


時刻。


深夜零時。


周囲には誰もいない。


虫の声だけが響く。


ハイドはコクピットのハッチを少し開け、外を見る。


「……帰ってきた…さっきまで朝だったよな…」


イーリスが位置情報を確認する。


「時差です、現在地サクス国内」


「時差?」


「学園まで徒歩で約二時間」


ハイドは固まった。


「徒歩」


「はい」


「鉄騎で?」


「はい」


沈黙。


ハイドは深く息を吐いた。


「……帰るか」


デュークが歩き始める。


夜の森。


巨大な足音が響く。


ズシン。


ズシン。


木々の間を、二十メートル級の鉄騎が進む。


夜中でもこの巨体は目立つ。


ハイドは疲れ切っていた。


身体が重い。


頭も痛い。


だがデュークは安定して歩き続ける。


イーリスが言う。


「マスドライバー精度は良好でした」


ハイドが即答する。


「二度とやらない」


「成功率九十七パーセントです」


「三パーセント怖いんだよ」


夜道を進み続ける。


途中、街道脇の小屋から人が出てきた。


老人だった。


眠そうな顔で外へ出た瞬間。


森の向こうに巨大な鉄騎が見える。


しかも全身びしょ濡れ。


老人は固まった。


ハイドが気付く。


「……どうしよう」


イーリスが言う。


「問題ありませんそのまま通過しましょう」


デュークはそのまま歩く。


老人は震えながら十字を切った。


「み、湖の悪魔……」


ハイドが言う。


「違う違う」


だが届かない。


デュークは夜の街道を歩き続ける。


そして。


学園。


夜明け前。


巨大な門の前に、びしょ濡れのデュークが現れた。


見張りの生徒が目を見開く。


「……え?」


もう一人が言う。


「帰ってきた!?」


ハイドはコクピットを開ける。


疲れ切った顔。


「……ただいま」


見張りが呆然とする。


「ど、どこから!?」


ハイドは答える。


「ヒノクニ」


「え?」


「飛んだ」


沈黙。


「……飛んだ?」


ハイドは説明しようとする。


「なんかこう……大きい筒みたいなので」


手を動かす。


「バシュンって」


見張り二人が顔を見合わせる。


「……?」


ハイドも困る。


「いや、本当に」


イーリスが後ろから出てくる。


「電磁投射式長距離輸送です」


見張りが固まる。


「で、電磁……?」


ハイドが補足する。


「空飛んで」


「……」


「湖に落ちた」


「……」


「そこから歩いて帰った」


沈黙。


見張りの生徒が真顔で言う。


「疲れてるんだな」


ハイドが叫ぶ。


「本当なんだって!!」


だが。


あまりにも説明が下手だった。


結局。


学園内では翌日から妙な噂だけが広まることになる。


「ハイドが夜中に湖から出てきた」


「鉄騎ごと泳いで帰ってきたらしい」


「ヒノクニは人を空に飛ばす」


「イーリスは雷で鉄騎を飛ばせる」


どんどん変な方向へ話が広がっていった。


そして当のハイド本人は。


寮のベッドに倒れ込み。


「もう嫌だ……」


と言い残して、そのまま丸一日寝込んだ。

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