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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
学園編

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前に立つ者



――会食は、城の奥。

昼の謁見とは別の顔を持つ場所で行われた。


案内された広間は、昼間に通された決断の間とはまるで違っていた。

天井は低く、梁が見える。壁は白木を主体とし、装飾は最小限。

だが、置かれている調度品は一目で分かるほどに手が込んでいる。


「……落ち着く」


思わず、私はそう漏らした。


サクスの城では、会食は政治の延長だ。

視線の交錯、言葉の裏、立場の確認。

だが、この場には、そうした張り詰めた空気がない。


あるのは――

腹を割って話すための空間。



クニヒトは、自然に中央付近に腰を下ろしたが、

それは誰かに指示されたものではない。


ハナコは、その斜め後ろ。

背筋は伸びているが、視線は柔らかい。


我々サクスの使節団も、それぞれ空いている席に着く。

ハイドは、一瞬迷ってから、イーリスの隣に座った。


その様子を見て、クニヒトが口元を緩める。


「堅いな」


「……すみません」


「謝ることではない。

 剣を持つ者は、最初はそうなる」



料理が運ばれてくる。


魚、肉、根菜。

だが、見慣れない香りが混じっている。


「香草です」


ハナコが説明する。


「この国では、保存食が多いので、

 味付けで変化をつけます」


なるほど。

海に囲まれた国ならではの工夫だ。


私は一口食べ、驚いた。


「……これは」


「味が強いでしょう」


「ええ。だが、嫌ではない」


「鉄騎に乗る者向けです。

 汗をかくので」


思わず、ハイドを見る。


彼は、慎重に箸――いや、細い木の棒を使い、

ぎこちなく料理を口に運んでいる。


サクス式の食器ではない。

この国独自の作法だ。


イーリスが、そっと手元を見て助言する。


「力を入れすぎないでください。

 この道具は、はさむのです」


「……はさむ」


「はい」


ハイドは、何度か失敗しながら、

やがて上手く食べられるようになる。


それを、誰も笑わない。



会話は、自然に始まった。


最初は、旅路の話。

海の話。

港の話。


クニヒトは、よく話す。

だが、決して饒舌ではない。


必要なことを、必要なだけ。


「海は、好きか」


突然、彼がハイドに問いかけた。


「……分かりません」


正直な答えだった。


「そうか」


クニヒトは、少し考え、言う。


「海はな、

 奪えないものだ」


「……?」


「陸なら、囲えばいい。

 資源も、土地も」


だが、と続ける。


「海は、誰のものでもない。

 だから、争いは起きるが、

 支配はできない」


その言葉に、私は息を呑んだ。


これは――

この国の哲学だ。



話題は、自然と鉄騎へ移る。


「デュークは、重いだろう」


クニヒトが言う。


「はい」


ハイドは、即答した。


「でも、安心します」


「ほう」


「負けないって、分かるので」


クニヒトは、笑った。


「良い答えだ」


ハナコが補足する。


「ヒノクニの鉄騎は、軽量化を重視します。

 だが、その分、壊れやすい」


「だから、改修が多いのですね」


イーリスが言う。


「ええ。

 “完成”を目指さない」


「常に、途中」


「はい」


イーリスは、少し考えてから言った。


「合理的です」


クニヒトは、その言葉を聞いて、目を細める。


「……君は、面白い」


酒が出る。


透明で、香りが強い。


私は一口だけ含み、舌が焼けるような感覚に驚いた。


「これは……」


「米酒だ」


クニヒトが言う。


「強い。

 無理に飲む必要はない」


私は頷き、杯を置いた。


ハイドは、匂いだけ嗅いで、首を振る。


「無理です」


「それでいい」


クニヒトは、気にしない。


その様子に、私は気づく。


この会食には、強要がない。


飲まなくていい。

話さなくていい。

だが、ここにいること自体が、対話なのだ。



終盤。


料理も一段落し、空気が緩む。


クニヒトが、ふと真顔になる。


「――次に会うときは」


全員の視線が集まる。


「おそらく、戦場だ」


沈黙。


だが、誰も否定しない。


「それでも」


彼は続ける。


「今日、同じ卓で食事をしたことは、

 無駄にはならない」


「……」


「戦う理由を、

 互いに理解した上で、刃を交える」


それは、脅しではない。

宣言でもない。


約束だ。


女王の代わりに来た我々は、

その重さを、確かに受け取った。



会食が終わり、立ち上がる。


クニヒトは、最後にハイドを見た。


「次は、もっと話そう」


「……はい」


「海の話を」


「……はい」


その短いやり取りが、

奇妙に胸に残った。



部屋へ戻る途中、私は振り返る。


ハイドとイーリスが、少し遅れて歩いている。


イーリスは、何か小声で説明している。

ハイドは、頷きながら聞いている。


――道具と使い手。

――剣と手。


だが、それだけではない。


「……これは」


私は、心の中で結論づけた。


「新しい“対”だ」


国と国。

王と王。


その間に生まれつつある、

第三の関係。


それが、この旅の本当の意味なのだと――

この会食で、私は確信した。


——————


翌朝のヒノクニ城は、静かだった。


港町特有の喧騒は城壁の外に押し留められ、城内には規律だった空気だけが流れている。

朝日が瓦屋根を照らし、白と朱の壁面に柔らかな影を落としていた。


ハイドは早く目が覚めてしまい、与えられた客室の縁側のような回廊に腰を下ろしていた。

眠りが浅いのは、まだ慣れない寝台のせいもあるが、それ以上に頭の中が落ち着かなかった。


昨日の会食。

クニヒトの言葉。

そして、あの決闘。


自分が、あの皇帝の機体を壊したという事実。


「……」


罪悪感、という言葉が正しいのか分からない。

戦いで壊した。

それだけのことだ、と頭では理解している。


だが、あの時。

相手の機体が限界を超え、動かなくなった瞬間。

クニヒトが空を見上げ、笑っていたのを、はっきり覚えている。


――楽しかった、とでも言うような顔だった。


それが、余計に胸に残った。


「考えすぎです」


背後から声がした。


振り向くと、イーリスが立っている。

制服姿のまま、いつも通り感情の読み取りにくい表情だ。


「戦闘結果は、双方の合意の上です」


「……でも」


「破損率、想定範囲内。

 クニヒト個人の精神状態も安定しています」


そう言われても、気持ちは追いつかない。


ハイドが何か言いかけた、その時だった。


回廊の向こうから、足音が響く。

規則正しいが、どこか大股な歩き方。


クニヒトだった。


昨日と同じ装束。

だが今日は、剣もなく、手ぶらだ。


「早いな」


「……はい」


「悪いが、頼みがある」


その言い方に、ハイドは胸が少し重くなる。


クニヒトは、イーリスの存在を一瞥してから、続けた。


「キョウ城に行ってほしい」


「……城?」


「ああ。

 降伏文書を受け取りに」


ハイドは、一瞬言葉を失った。


降伏。

それは、戦争の終わりを意味する言葉だ。


「本来なら、俺が行くべきだ」


クニヒトは、あっさりと言う。


「だが、この有様だ」


彼は自分の手を見た。

そこに、かつて操縦桿を握っていた名残はない。


「鉄騎が動かせない以上、行けば無駄に時間を使う」


「……」


「だから、代役だ」


代役。

その言葉が、ハイドの胸に刺さる。


「俺の鉄騎を壊したのは、お前だろう」


責める口調ではない。

事実を述べているだけだ。


「その借りを返すつもりがあるなら、行ってくれ」


ハイドは、反射的にイーリスを見る。


イーリスは、小さく頷いた。


「合理的判断です」


「……」


「拒否する理由は、ありません」


そう言われてしまうと、逃げ道はなかった。


ハイドは、深く息を吸い、頭を下げる。


「……分かりました」


クニヒトは、満足そうに笑った。


「助かる」


そして、少しだけ声を落とす。


「気にするな。

 あいつは――」


一瞬、言葉を選ぶような間。


「腰抜けだ」


はっきりと、そう言った。


「決闘を避け、代理を立て、負ければ“自分は戦っていない”と言い張る。

 負けていないから降伏しない。

 それを何度も繰り返している」


ハイドの胸に、嫌な想像が浮かぶ。


「……そんなの、通るんですか」


「通らせてきた」


クニヒトは、肩をすくめる。


「周囲が気を使いすぎた。

 城下が荒れ、交易が止まり、誰も得をしないのにな」


「……」


「だから、今回で終わらせたい」


その視線が、真っ直ぐハイドを射抜く。


「お前なら、できる」


理由は語られなかった。

だが、その言葉に、ハイドは否定できなかった。


自分は、確かに強い鉄騎を持っている。

そして、それを動かせる。


「……行きます」


クニヒトは、満足そうに頷いた。


「頼んだぞ、大使殿」


その呼び方に、ハイドは少しだけ苦笑した。


準備は、すぐに整った。


デュークは城の上級鉄騎格納庫から出され、港の外れで待機していた。

修復された装甲は、朝日に照らされて白く光る。


ハイドは、慣れた手つきでコクピットに乗り込む。

座席に身体を預けると、自然と背筋が伸びた。


その後ろ。

簡易的なアンドロイド用座席に、イーリスが座る。


背もたれも最低限。

固定具も簡素だ。


だが、彼女は気にしていない様子だった。


デュークが起動する。

低い振動が、コクピット全体に伝わる。


ハイドは、操縦桿を握った。


「行きます」


「はい」


デュークは、ゆっくりと歩き出す。


ヒノクニ城を背に、進路は内陸。

山を越え、平野を抜け、その先にある城――キョウ城。


道中、イーリスが淡々と説明を始める。


「キョウ城主は、過去三度、代理決闘を実施しています」


「……三回も」


「はい。

 いずれも代理が敗北。

 その都度、“自分は負けていない”を理由に降伏を拒否」


「……それ、恥ずかしくないんですか」


「主観的評価では、恥ではありません」


「……」


「彼の価値観では、“自分の身体が傷ついていない”ことが最優先です」


ハイドは、少し眉をひそめた。


「それで、城主をやっていられるんですか」


「城下の被害は、増加しています」


イーリスは、事実だけを述べる。


「治安悪化。

 税収減少。

 周辺国との関係悪化」


「……」


「しかし、本人は責任を代理に転嫁しています」


その言葉を聞きながら、ハイドは思う。


炭鉱の監督官と、何が違うのだろう、と。


鞭を振るうか。

代理に押し付けるか。


やっていることは、似ている。


「……」


デュークは、平野を進む。


遠くに、城下町が見えてきた。


高い塀。

だが、どこか荒れている。


活気がない。

人の動きが鈍い。


「……」


ハイドは、嫌な予感を覚えた。


「イーリス」


「はい」


「……この仕事」


言葉を探す。


「ちゃんと、終わるのか?」


イーリスは、少しだけ考えてから答えた。


「今回の目的は、“降伏文書の受領”です」


「……それだけ?」


「はい」


「決闘は?」


「まだ、発生していません」


その言い方に、含みを感じる。


「……まだ、か」


ハイドは、操縦桿を握り直した。


デュークの影が、城下町に落ちる。


人々が、顔を上げる。


鉄騎だ。

それだけで、空気が変わる。


誰も近づかない。

誰も叫ばない。


ただ、見ている。


その視線の重さを、ハイドは初めて実感した。


「……」


イーリスの声が、背後から聞こえる。


「城主は、面子を重視します」


「……」


「正面からの要求は、拒否される可能性が高いです」


ハイドは、頷く。


その先を、まだ聞かない。


まだ、知らなくていい。


今はただ、城門へ向かう。


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