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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
学園編

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海賊の判断



 朝靄の向こうに、船影が見えた。


 見張り台の上で、男は目を細める。

 湿った風が頬を撫で、塩気が唇に残る。


 古びた望遠筒を持ち上げる。

 縁は擦り切れ、金具は錆びているが、レンズだけは磨かれていた。


「……船だ」


 低く落とした声が、甲板へと降りる。


 下ではすぐに反応があった。

 縄を締め直す音。帆を調整する掛け声。

 人が動き、船が生き物のように姿勢を変える。


「どこのだ?」


「旗は……サクスだな」


「積みは?」


「……でかい」


 望遠筒の中で、輪郭が少しずつ鮮明になる。


 大型輸送船。

 それも、かなり新しい。


 船腹は厚く、喫水も深い。

 重い荷を抱えているのは間違いない。


 だが――


「……速いな」


 思わず、そう呟いた。


 風は弱い。

 帆の張りも、それほどではない。


 それなのに、船は水を切って進んでいる。


 波が、船首から左右へ鋭く裂けていく。

 尾を引く水流が、妙に長い。


「風に乗ってねぇ」


 違和感が、はっきりした形になる。


 下から声が飛ぶ。


「どうした、何かあるのか」


 男は、すぐに答えなかった。


 もう一度、覗き込む。


 中央甲板。


 鉄の構造物。


 その上に――


「……待て」


 喉の奥で、声が引っかかる。


「寄るな」


 短いが、はっきりした言葉だった。


 甲板がざわつく。


「は? まだ距離あるぞ」


「様子見だろ、普通」


「違う」


 望遠筒を握る手に、力が入る。


「あれは……やめとけ」


 その声音で、空気が変わる。


 冗談ではない。

 経験で言っている声だった。


「何が見えた」


 船長が、ゆっくりと聞く。


 男は一瞬迷い、そして答える。


「鉄騎だ」


 一拍。


 そして、甲板が一斉にざわめいた。


「……は?」


「この海域で?」


「バカ言え、サクスの領海だぞ」


 そう。


 ここはサクスの支配海域。


 鉄騎は――隠すのが常識だ。


 運ぶなら船倉。

 分解して、固定して、外からは絶対に見せない。


 それが“普通”だ。


 だが――


「一機、丸ごと出してやがる」


 あり得ない配置。


 中央に据えられた鉄騎。


 膝を折り、座らされた状態。


 だが、それは「収納」ではない。


「見せてる」


 はっきりと言い切る。


 風が、一瞬止まったように感じた。


 船長が手を伸ばす。


「貸せ」


 望遠筒を渡す。


 無言。


 数秒。


 十秒。


 さらに、じっと見続ける。


 やがて――


「……チッ」


 舌打ち。


 それだけで、全員が理解した。


「距離を取れ」


 短く、しかし迷いなく。


「船長?」


「いいからだ」


 命令が飛ぶ。


 帆が切り替わる。

 舵が切られる。


 だが、まだ完全には離脱していない。


「ただの鉄騎一機だろ?」


 若い海賊が食い下がる。


「数で囲めば――」


「囲めねぇ」


 即答だった。


「ああいう置き方してる時点で、“使う気がある”」


 船長は望遠筒を返す。


「それに――速すぎる」


 誰かが顔を上げる。


「やっぱりそうか?」


「ああ」


 船長は目を細める。


「風じゃない。水を“掻いてる”」


 再び覗く。


 船尾付近。


 水面の乱れ。


 不自然な渦。


「……なんか回してやがるな」


 小さく吐き捨てる。


「鉄騎の部品か?」


「分からんが、普通じゃねぇ」


 つまり――


「逃げようとすりゃ逃げられるし、追おうとすりゃ追いつかれる」


 最悪の相手だ。


 若い海賊が、再び望遠筒を覗く。


 そして。


「……あれ」


 声が変わる。


 装甲の色。

 補修跡。

 重量感。


 そして――噂。


「これ……まさか」


「気づいたか」


 船長が低く言う。


「最近流れてる話だ」


 若者の喉が鳴る。


「国を賭けた……」


「ああ」


 船長は、はっきりと言う。


「その勝った奴だ」


 沈黙。


 誰も、軽口を叩かない。


 中央に座る鉄騎。


 動かない。


 だが、“動ける”。


 それが分かる。


「……乗ってるのは」


「決まってる」


 船長は望遠筒を閉じた。


「その“勝ったやつ”だ」


 風が強くなる。


 帆が鳴る。


「やめだ」


 断言する。


「割に合わねぇ」


 誰も反論しなかった。


 理由は、全員分かっている。


 勝てるかどうかじゃない。


 勝っても――残らない。


 船は壊れる。

 人は死ぬ。

 鉄騎は奪えない。


 そして相手は、逃げない。


「進路変更!」


「了解!」


 船が大きく旋回する。


 距離を取る。


 関わらない。


 それが、この海で生き残るための絶対条件だった。


 遠ざかる中、まだ見える。


 中央の鉄騎。


 静かに座っている。


 だが――


 目を逸らせない。


 まるで、こちらを見ているようだった。


「……なんだよ、あれ」


 若者が呟く。


 船長は答えない。


 ただ、心の中で吐き捨てる。


(あんなもん、隠さねぇ時点で終わってる)


 普通は隠す。


 見せない。


 守る。


 だが、あの船は違う。


 見せている。

 速く。

 逃げず。

 堂々と。


(襲う理由がねぇ)


 サクスの船は、そのまま進む。


 何事もなかったかのように。


 そして海賊船は、何事もなかったかのように離れていく。


 それでいい。


 それが、この海での“正しい判断”だった。

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