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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
学園編

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重量の暴力

 掴まれた。


 それを、クニヒトは即座に理解した。


(――来る)


 桜色の機体に走る、わずかな遅延。

 肩部フレームに、圧が集中している感触。


 このままなら――引き寄せられ、潰される。


 判断は、一瞬。


 クニヒトは、迷わなかった。


(切る)


 左肩部、腕部ごと。


 パージ。


 ロック解除。

 強制分離。


 ロックボルトの外れる音と共に、左腕が肩から切り離される。


 装甲の破片が、空中に散る。


 同時に、クニヒトは“前を向いたまま”後方へ跳んだ。


 逃げではない。

 姿勢を崩さないための跳躍。


 掴むものを失ったハイドの腕が、空を切る。


「……っ」


 ハイドは、思わず息を詰める。


 だが、追わない。


 その手には――既に、奪った刀があった。


 重量。

 長さ。

 バランス。


 剣でも、斧でもない。

 だが、投げるには十分。


(脚だ)


 倒すためではない。

 止めるため。


 クニヒトの機体は、軽い。

 跳躍力はあるが、着地の安定性は装備に依存している。


 ハイドは、一歩踏み込む。


 新調された足裏が、地面を確実に捉える。


 振りかぶる。


 肩から、背中から、腰から――

 全身の質量を、一本の動きに集める。


 そして。


 投げた。


 刀は、回転しない。

 直線。


 狙いは、脚部。


 関節ではない。

 脛と足首の中間。


 機動を殺す位置。


 クニヒトの視界に、刃が迫る。


(来たか)


 だが、恐怖はない。


 むしろ、わずかに――笑う。


(なるほど。やはり、真っ直ぐだ)


 右脚で、地面を蹴る。


 左脚は、既に不安定。

 肩を失った影響で、重心がズレている。


 回避は、最小限。


 刃は――当たる。


 避けきれない。


 だが。


 角度を、変える。


 刀は、脚部装甲の外側を削り、火花を散らしながら通り過ぎる。


 完全な破壊には至らない。

 だが、衝撃は確かだ。


 桜色の機体が、着地の瞬間、わずかに傾ぐ。


(効いた)


 ハイドは、すぐに次の動きへ移る。


 槍は失った。

 盾もない。


 だが、距離は詰まっている。


 そして、相手は――片腕だ。


 クニヒトは、体勢を立て直す。


 左肩は、空。

 そこから、内部フレームが露出している。


 痛覚はない。

 だが、機体が“軽くなりすぎている”のを感じる。


(王家の鉄騎……いや、あの緑の機体。重いな)


 ハイドは、歩みを止めない。


 一歩。

 また一歩。


 逃げない。

 煽らない。


 ただ、詰める。


 観戦席は、静まり返っていた。


 誰もが、理解している。


 これは、派手な技の応酬ではない。

 勝敗を分ける、“決定力”の時間だ。


 イーリスの声が、低く、淡々と響く。


『クニヒト機、左腕完全喪失。脚部装甲に軽度損傷。ただし、戦闘継続能力あり』


「……分かってる」


 ハイドは、答える。


 視線は、クニヒトから逸らさない。


 クニヒトは、刀を構え直す。


 片手。


 だが、姿勢は崩れない。


 むしろ、研ぎ澄まされている。


(ここからは……気合だな)


 彼は、心の中で呟く。


 国を賭けた戦い。

 退く理由は、ない。


 ハイドも、同じだ。


 不安はある。

 恐怖も、ある。


 だが、それ以上に――


(負けたくない)


 理由は、言葉に出来ない。


 炭鉱。

 暗闇。

 鞭の音。


 それら全てが、背中を押している。


 デュークが、一歩、踏み込む。


 クニヒトも、前へ出る。


 両者の距離が、再び縮まる。


 次の一撃が、

 この決闘の――本当の終わりを告げる。

 距離が、消える。


 デュークの一歩は、重い。

 桜色の鉄騎の一歩は、軽い。


 だが――同時だ。


 踏み込みの瞬間、地面が震えた。


 クニヒトは、残る右腕で刀を引き絞る。

 切り結ぶためではない。

 “置く”ための構え。


(ここだ)


 彼は、刀を横薙ぎに振らない。

 突きでもない。


 刃を、低く。

 地面すれすれに、走らせる。


 狙いは、デュークの足首。


 重い機体ほど、脚を止められれば終わる。


 ハイドは、それを見た。


 だが、避けない。


 踏み出した脚を――止めない。


「……っ!」


 足裏の滑り止めが、土を噛む。

 刃が、脚部装甲を擦る。


 火花。


 装甲が削れ、振動が伝わる。


 だが、致命ではない。


 ハイドは、そのまま前に出る。


 腕を――広げる。


 掴むためだ。


 クニヒトは、即座に跳ねる。


 だが、遅い。


 左腕はない。

 重心の調整が、わずかに遅れる。


 デュークの右手が、肩の残る側――右肩を捉えた。


 次の瞬間、左手が、胴を抱える。


 完全に、捕まった。


(――しまった)


 クニヒトは、内心で歯噛みする。


 これ以上のパージはない。

 逃げる術は――


 ある。


 だが、それは――勝ちではない。


 ハイドは、力を込める。


 王家戦法のように、関節を狙う余裕はない。


 ただ、持ち上げる。


 持ち上げて――


 叩きつける。


 制御不能。


 クニヒトは、最後まで刀を離さない。


 だが、背中から――


 地面。


 轟音。


 地面に叩きつける。


 観戦席が、総立ちになる。


 砂埃が、ゆっくりと晴れていく。


 桜色の鉄騎は、仰向けに倒れていた。


 片腕なし。

 脚部損傷。

 背部フレームに、歪み。


 クニヒトは、しばらく動かない。


 内部で、警告音が鳴り続けている。


(……負け、か)


 悔しさはある。

 だが、不思議と――清々しい。


 これ以上、動かせば、機体は完全に壊れる。

 それは、敗北以上に恥だ。


 彼は、ゆっくりと、刀を地面に落とす。


 ――カラン。


 その音は、小さい。

 だが、決定的だった。


 審判役の鐘が、鳴る。


 勝者――ハイド。


 その宣告が、場に広がる。


 デュークは、動かない。


 ハイドは、すぐに追撃しなかった。


 ただ、倒れた相手を、見下ろす。


 胸が、激しく上下している。


「……終わった、のか」


 イーリスの声が、優しくなる。


『はい。戦闘継続能力、喪失を確認しました』


 クニヒトの機体のコクピットが、ゆっくりと開く。


 中から、長い髪の男が立ち上がる。


 顔には、汗。

 だが、笑っていた。


「見事だ、ハイド」


 その声は、よく通る。


「力に溺れず、真っ直ぐだった。あれは……真似できん」


 彼は、観戦席――女王のいる方角を見る。


「サクスの王よ。

 良い代表を選んだ」


 女王は、微笑んだまま、頷くだけだった。


 ハイドは、どう返せばいいか分からない。


 ただ、頭を下げる。


 それを見て、クニヒトは小さく笑う。


「そうだな……

 その顔の方が、らしい」


 彼は、最後に一度だけ、イーリスを見る。


「君も、だ。

 あの連携……人と機械の境を越えていた」


 イーリスは、一瞬だけ、言葉に詰まる。


 そして、丁寧に頭を下げた。


「過分なお言葉です。

 私は、彼の道具ですので」


 クニヒトは、目を細める。


「道具、か……

 いや。良い関係だ」


 そう言い残し、彼は担架で運ばれていった。


 歓声が、遅れて爆発する。


 だが、ハイドの耳には、少し遠い。


 デュークの中で、彼は深く息を吐く。


(勝った……)


 実感は、まだない。


 ただ、足が――震えていた。


『お疲れさまでした、ハイド』


 イーリスの声が、すぐそばにある。


「……怖かった」


 正直な言葉が、漏れる。


『それでいいと思います。

 恐怖を感じない戦いは、危険です』


 ハイドは、少しだけ笑った。


「次は……もっと、上手くやれるかな」


『はい。

 ですが――次も、私がいます』


 その言葉に、胸の奥が、少しだけ軽くなる。


 観戦席では、女王が静かに立ち上がっていた。


 その表情は、満足と――覚悟。


 国を賭けた戦いは、終わった。


 だが。


 この勝利が呼び込むものは、決して、静かな未来ではない。


 ハイドは、まだ知らない。


 自分が今、

 どれほど大きな渦の中心に立ったのかを。

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