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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
学園編

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48/51

重量と軽量


 鐘の余韻が完全に消える前に、桜色の鉄騎――クニヒトが動いた。


 初動は、あまりにも静かだった。

 重いはずの鉄騎が、まるで地面を滑るように間合いを詰める。関節の駆動音がほとんど聞こえない。


『来ます』


「見えてる」


 次の瞬間、刀が振るわれた。


 横薙ぎ。

 人型兵器の質量を感じさせない、鋭く、無駄のない一閃。


 ハイドは反射的に盾を前に出す。


 ――ギィン、という鈍い金属音。


挿絵(By みてみん)


 刀身が、盾の表層装甲に深く食い込んだ。

 衝撃が腕を通してコクピットに伝わる。慣性制御がなければ、腕ごと持っていかれていた。


「重っ……!」


『盾装甲、貫通しかけています。保持は三秒が限界です』


 クニヒトは、躊躇しなかった。


 刀を、即座に持ち替える。

 食い込んだ刃を“捨てる”ように引き抜き、逆手から正手へ。

 次の斬撃が、間を置かずに飛んでくる。


「――っ!」


 今度は、盾を間に合わさない。


 ハイドは、あえて装甲で受けた。


 刀が、デュークの胸部装甲を擦る。

 衝撃を斜めに逃がし、フレームに伝わる力を分散。


『装甲表面、損耗。内部フレームは無事』


「さすがっ」


 受け流した、その瞬間。

 ハイドは槍を突き出した。


 一直線の突き。

 重装備の質量を活かした、正面突破の一撃。


 だが――


 クニヒトは、避けた。


 最小限の後退。

 ほんの半歩、体軸をずらしただけで、槍の切っ先は空を裂く。


「……っ!」


 槍は重い。

 突きが外れた瞬間、体勢が前に流れる。


『隙が発生しています!』


 分かっている。

 分かっているが止まらない。


 その刹那。


 ハイドは、盾を“後方”に回した。


 まるで身を隠すように。

 背中側へと、盾を置く。


 次の瞬間、背後から衝撃。


 クニヒトの斬撃が、盾に吸い込まれる。


 ――盾が、悲鳴を上げる。


 だが、それでいい。


「今だ……!」


 ハイドは跳躍した。


 推進器ではない。

 脚部フレームを限界まで駆動させた、純粋な跳躍。


 盾に斬撃を吸わせている“その上”を飛ぶ。

 クニヒトの視界の外側へ。


 デュークの影が、桜色の鉄騎に覆いかぶさる。


 肩部へ、着地。


 ――ドンッ。


 鉄騎同士の接触音。

 ハイドは、迷わず両脚を踏み込んだ。


 両肩、腕部付け根。

 関節と装甲の境目。


 踏み潰す。


 ――ミシ、という嫌な音。


『敵機、肩関節部に過負荷!』


「このまま……!」


 だが、クニヒトは、止まらない。


 桜色の鉄騎が、無理やり体を捻る。

 常識外れの可動域。

 人型兵器として“やってはいけない動き”。


(っ、こいつっ……!)


 瞬間、強烈な反動。


 クニヒトが、自らの機体を犠牲にするように跳躍蹴りを放った。


 肩の破損を承知で、脚部を最大出力。


 デュークが、弾き飛ばされる。


「――ぐっ!」


 視界が回転する。

 空。観戦席。石壁。


 そして――


 ――轟音。


 デュークの背中が、観戦席下の壁に激突した。

 石材が砕け、粉塵が舞う。


『背部装甲、破損、姿勢制御一部エラー』


 衝撃が、遅れて身体に来る。

 歯を食いしばる。


「……くそ」


 だが、意識は途切れない。


 粉塵の向こうで、桜色の鉄騎が、再びこちらを見据えていた。

 肩部からは、わずかに異音。

 だが、それでも立っている。


 観戦席が、静まり返る。


 誰もが理解した。

 これは、演習でも、見世物でもない。


 ――本物の、殺し合いだ。


『ハイド』


 イーリスの声が、いつもより少しだけ低い。


『目標は、こちらの内部構成を理解しています』


「つまり……」


『真正面からでは、削り合いになります』


 ハイドは、ゆっくりとデュークを起こす。


 壁の破片が、装甲から落ちる。


「上等だ」


 視線を、クニヒトへ。


「削り合いなら……俺は慣れてる」


 鉱山で、

 学園で、

 決闘で。


 生き残るための戦いしか、してこなかった。


 桜色の鉄騎が、再び刀を構える。


 デュークは、盾を前に、槍を引き戻す。


 次の衝突で、

 どちらかが、確実に壊れる。


 その予感だけが、

 不思議なほど、はっきりと胸にあった。

 瓦礫を踏みしめながら、ハイドが体勢を立て直す、そのわずかな間。


 クニヒトは、動いていた。


 盾に突き刺さったままの刀――先ほどの横薙ぎで食い込ませた刃に、視線をやることもなく、腕を伸ばす。

 関節が悲鳴を上げるのを無視し、指先で柄を掴み、引き抜いた。


 ――ギリ、と嫌な音。


 刃が盾から離れると同時に、クニヒトは盾を蹴り飛ばす。


 後方へ。

 まるで邪魔な布切れを払うように。


 重い盾が地面を転がり、観戦席下の壁にぶつかって止まった。


 クニヒトの視界の片隅に、警告が走る。


 補助パワーシリンダー、破砕。

 肩部、メインフレームのみ正常。


(やはり、踏み潰してきたか)


 肩の可動域が、明らかに狭まっている。

 無理に動かせば、フレームごと逝く。


(だが、まだ戦える)


 クニヒトは、破砕した補助パワーシリンダーへの入力を切った。

 力を伝えない。

 代わりに、残ったメインフレームに全負荷を集中させる。


 刀を構え直す。


 両手。

 重心を低く。

 速度を殺さない。


(純粋な力押しと釣り合わない微細制御)


 まるで二人で一機を動かしているかのような動き。


(こちらから、止まらずに行くまで)


 クニヒトは、再度、前に出た。


 今度は、直線。

 斬撃ではない。

 突きに近い踏み込み。


 その動きを見た瞬間、ハイドは理解した。


(……当たらない)


 槍を構えたままでは、間に合わない。

 重さが、速度を殺す。


 一瞬の判断。


 ハイドは、槍を――投げた。


「行けっ!」


 槍が、空を裂く。

 質量の塊が、一直線にクニヒトへと向かう。


 観戦席がどよめく。


 投擲。

 近接戦闘で使うべき戦法ではない。


 だが――


 クニヒトは、完全には避けなかった。


 ほんの、少しだけ。


 肩を引き、腰を捻り、軌道を“ずらす”。

 槍の穂先が、装甲の縁を掠めて通り過ぎる。


 致命傷にはならない。

 だが、距離は詰まる。


(直進でいい)


 クニヒトは、そのまま真っ直ぐ進んだ。


 視界の中心に、デューク。

 盾は後方。

 槍は、もう手元にない。


(次で、決める)


 刀を振り上げる。


 その刹那――


 ハイドの声が、低く響いた。


「……イーリス」


『はい』


 デュークの脚部が、わずかに沈む。


 ――イーリスの返答が終わるより、わずかに早く。


 ハイドは、クニヒトが槍の軌道を“ずらした”その瞬間を、確かに見逃さなかった。


(今だ)


 デュークの両腕を、敵の正面へ。


 構える、というより――揃える。


 武器ではない。

 技でもない。


 ただ、真っ直ぐ。


 脚部の出力が一段、跳ね上がる。

 滑り止めが、地面を噛み、逃がさない。


 次の瞬間。


 デュークは、跳んだ。


 横でも、斜めでもない。

 真正面。


 装甲の塊が、空気を押し潰しながら進む。


 ――体当たり。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 だが。


 質量が、違った。


 クニヒトの桜色の鉄騎は、明らかに軽量だ。

 動きは鋭い。

 反応も速い。


 だが、空中でぶつかるには――相手が悪すぎた。


 鈍い衝撃音。


 金属が、金属に叩きつけられる、腹の底に響く音。


 クニヒトの機体が、跳ね飛ぶ。


 横ではない。

 後方へ。


 まるで、強風に煽られた紙細工のように。


(――っ)


 だが、クニヒトは終わらない。


 空中で、刀を反転。


 刃を、地面へ。


 ――突き刺す。


 火花。

 衝撃。


 刀身が地面に食い込み、それを支点に、機体が“回る”。


 回転。


 反転。


 勢いを、殺さず、乗せたまま。


(見事だ……!)


 観戦席の誰かが、息を呑む。


 クニヒトは、回り込みながら、デュークの後方へ。


 そして――


 ドロップキック。


 桜色の脚部が、弧を描いて迫る。


 直撃。


 デュークの背部に、強烈な衝撃。


 ハイドの視界が、大きく揺れた。


「――っ!」


 姿勢が、崩れる。


 完全ではない。

 だが、隙としては十分。


 クニヒトは、着地と同時に刀を振り上げ、切り掛かる。


 速い。

 迷いがない。


 勝ち筋が、見えている動きだ。


(間に合わない――!)


 観戦席の空気が、凍る。


 盾は後方。

 槍は、投げた。


 避けるには、距離が足りない。


 その瞬間。


 ハイドは、考えなかった。


 デュークの右腕を――前に出した。


 装甲の分厚い、手。


 指を開いたまま。


 ――掴む。


 刀身が、掌に食い込む。


 甲高い金属音。


 衝撃が、腕全体を駆け抜ける。


 だが。


 止まった。


 刃は、進まない。


 クニヒトの視界が、一瞬、凍りついた。


(……止まった?)


 あり得ない。

 本来なら、切り裂けているはずだ。


 出力が――足りない。


 補助パワーシリンダーは、破砕済み。

 残るのは、メインフレームのみ。


 桜色の機体は、軽さを武器にしてきた。

 だが、その軽さは、純粋な“力”では不利になる。


(力負け……だと?)


 ハイドは、歯を食いしばる。


 腕が、軋む。

 装甲の内側で、振動が暴れる。


 だが、手は――離さない。


「……止めた」


 声が、低く漏れた。


 それは、宣言ではない。

 確認だ。


 イーリスの声が、静かに重なる。


『クニヒト機、出力低下を確認。

 現在の状態では、これ以上の押し込みは不可能です』


「……あの肩か」


 ハイドは、そのまま、刀を掴んだ腕を引き寄せる。


 そして――


 もう一方の腕を、クニヒトの機体へ。


 掴むのは、装甲。


 王家戦法のような、精緻な技ではない。


 ただ、力。


 ただ、質量。


 ただ、真っ直ぐ。


「――終わりだ」


 観戦席が、息を止める。


 次の瞬間に起こることを、誰もが理解していた。


 クニヒトの機体は、初めて――完全な受け身に入った。

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