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炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯0uy2
学園編

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自称代表

王都外縁、旧街道に沿って敷設された石畳の大路。


王都の城壁から外へ延びるこの旧街道は、かつて王国がまだ若く、幾度も戦を繰り返していた時代に整備されたものである。石を敷き詰めた幅広の道は、馬車だけでなく軍勢の行軍を想定して造られており、現在でも王都周辺で最も整備の行き届いた街道のひとつだった。


街道の両脇には、低い丘とまばらな林が続いている。遠くには小さな農村が点在し、昼間であれば農夫たちの姿が見えたはずだった。しかしこの時間、街道にはほとんど人影がない。王都の外縁という土地柄、夜間の往来は自然と少なくなる。


それでも、この道だけは例外だった。


王家の紋章を掲げた馬車が通るときだけは。


その中央を、王家の紋章を掲げた重装馬車が進んでいた。


白と金を基調とした装甲板で覆われた車体。通常の貴族馬車とは比べ物にならないほど厚い装甲。車体の各所には補強された鉄枠が走り、窓には細かな格子が組まれている。外見だけを見れば豪奢な儀礼車にも見えるが、その実態はまったく別のものだった。


この馬車は、王族専用の移動要塞である。


車体の内部には衝撃吸収構造が組み込まれ、矢弾や投石程度ではびくともしない。車輪には補強された鉄帯が巻かれ、多少の障害物ならそのまま踏み砕いて進むことができる。さらに車体の床下には簡易の燃焼装置が仕込まれており、万一敵に包囲された場合には煙幕を展開することすら可能だった。


儀礼用というより「戦場を想定した輸送具」に近い。


王族が乗る馬車としては過剰とも言える構造だったが、王国の歴史を考えれば決して不自然ではない。王権とは、常に刃の上に置かれてきたものだからだ。


その馬車を護衛するのは三機の鉄騎。


いずれも王家直属部隊の精鋭であり、平時の移動にしては過剰とも言える陣容だった。


三機の鉄騎は、馬車を中心に三角形の陣形を保ちながら進んでいる。先行する一機が進路を確認し、左右後方の二機が警戒を担当する形だ。機体の装甲は磨き上げられた白銀色で、肩部には王家の紋章が刻まれている。


その歩行は重く、そして静かだった。


巨大な鉄の脚が石畳を踏みしめるたび、鈍い振動が大地に伝わる。だが三機とも歩幅と間隔を完全に揃えており、無駄な音をほとんど出さない。熟練の操縦者でなければ不可能な歩行だった。


この部隊は、王家直属鉄騎隊。


王国でも最精鋭とされる部隊である。


平時の王都周辺で、この戦力が出動することは滅多にない。ましてや王族の単なる移動のために投入されるなど、本来であればあり得ない。


だが――女王は、それを命じた。


それは護衛の判断ではない。参謀の提案でもない。


女王自身の命令だった。


それほどまでに、今回の移動は慎重に扱われていた。


馬車の内部は、外とは別世界のように静かだった。


厚い装甲と緩衝構造が、外部の音と振動をほとんど遮断している。鉄騎の足音すら、ここでは遠い雷鳴のようにしか聞こえない。


(……動かざるを得ない、か)


シャルロット女王は、馬車の中で静かに目を閉じていた。


背もたれに深く身体を預け、両手を膝の上で組んでいる。王冠は外しており、代わりに簡素な髪留めだけが金色の髪を束ねていた。


視界の隅には、先刻まで再生していた記録映像の残像が焼き付いている。


鉄騎戦闘の記録。


学園の訓練場で行われた、あの決闘の映像だ。


本来であれば、王が直接見る必要のないものだった。報告書だけで十分なはずだった。しかし彼女はあえて全記録を確認するよう命じ、自らその映像を最後まで見た。


何度も、何度も。


ハイド。


あの少年が操る鉄騎の動き。


女王の脳裏には、まだはっきりと残っている。


速さでも、力でもない。


「判断」と「割り切り」が異常だった。


訓練機八機。


学園の訓練用とはいえ、正規の鉄騎である。操縦者も将来の騎士候補生であり、基本訓練は一通り終えている。実戦経験こそないものの、操縦技術は決して低くない。


それら八機が、連携して一機を包囲した。


普通なら、勝負はそこで決まる。


鉄騎戦とは数で決まるものだからだ。


だが彼は違った。


正規の実戦装備を与えられたそれらを相手に、彼は一切の躊躇なく敵の武装を奪い、叩き潰し、使い潰した。


槍を折り、盾を奪い、腕を破壊し、倒れた機体を踏み台にする。


そこに迷いはない。


そこに遠慮もない。


ただ勝つためだけの動き。


鉄騎を“兵器”として扱う者の動き。


そこに騎士の誇りも、貴族的な美学も存在しなかった。


(……強すぎる)


女王は小さく笑った。


声にならないほどの、かすかな笑いだった。


慧眼を誇ってきた自分自身を、嘲るように。


彼女はこれまで、数多くの人間を見てきた。貴族、将軍、学者、商人、反逆者。王として国を治める以上、人を見る目は何より重要だった。


その自負があった。


だが、今回ばかりは違う。


(私が見抜いたのではない)


あの少年を見出したのは偶然だった。炭鉱奴隷として処刑されかけていたところを、興味本位で調べさせただけだ。


そこに深い計算はなかった。


(あれは……世界が勝手に牙を剥いた)


その時だった。


護衛鉄騎の一機が、警戒信号を送ってくる。


車内の小さな警告灯が、静かに点灯した。


女王の目が開く。


続いて、地鳴り。


――重低音の振動。


鉄が大地を踏み砕く、規則的な衝撃。


それは護衛鉄騎のものではない。三機の歩行はすでに女王の感覚に馴染んでいる。これはそれとは違う、もっと重く、もっと荒い振動だった。


馬車が停止する。


車輪の軋む音が、わずかに響いた。


「……来たか」


女王は目を開いた。


馬車の扉が開かれ、外気が流れ込む。


夜の空気は冷たく、わずかに湿っている。遠くの草の匂いと、石畳の乾いた匂いが混ざっていた。


護衛の一人が片膝をつき、低く報告した。


「前方に鉄騎一機。進路を塞いでおります」


声は落ち着いているが、わずかな緊張が滲んでいる。


「所属は」


女王の問いは短い。


「――不明。ただし、貴族紋章を掲げています」


女王は、ゆっくりと立ち上がった。


椅子の横に置かれていた外套を肩にかける。その動作には一切の迷いがなかった。



街道の中央に、巨大な影が立っていた。


夜の薄い月明かりの下で、その輪郭だけが浮かび上がっている。


黒鉄色の装甲。


重厚な胴体。


肩部には意匠化された獅子の彫刻。


それは明らかに、王国正規の設計思想から外れた鉄騎だった。


王国の制式鉄騎は、白銀の装甲と細身のシルエットを特徴とする。騎士の鎧を模した優雅な外見が基本だ。


しかし目の前の機体は違う。


装甲は厚く、輪郭は角張り、関節部には無骨な補強が施されている。


実戦向けに改修された古式機体。


戦争を知る者が、戦争のために手を入れた鉄騎。


やがて、胸部装甲が開く。


重い音を立てて、装甲板が左右に展開した。


内部から、ゆっくりと人影が降り立った。


年齢は五十前後。


灰色の髪を後ろで束ね、上等な外套を羽織っている。歩き方には迷いがなく、足取りも安定している。


その立ち姿は、まるで戦場に慣れ切った将軍のようだった。


男は数歩前に出ると、堂々と胸を張り、声を張り上げた。


「――王国貴族代表」


一瞬の間。


そして、はっきりと名乗る。


「ヴァルター・フォン・グライフナー」


護衛鉄騎が即座に前に出ようとするが、女王は手で制した。


「……代表、ですか」


女王は馬車から降り、彼と正対する。


石畳の上に立つ二人の距離は、およそ十歩。


護衛鉄騎はその背後で静止している。


「王国貴族を代表する者は、評議会によって選出されるはず。

 自称で名乗るには、少々無礼が過ぎるようですが?」


ヴァルターは口角を吊り上げた。


「無礼? いいや、陛下。

 これは“現実”だ」


彼は背後の鉄騎を一瞥する。


巨大な機体が、月明かりの下で静かに立っている。


「貴女が抱え込んだ“異物”――

 あの少年と、その鉄騎。

 学園で起きた決闘。

 公式記録から消された映像。

 だが、市民は見ている。噂は、もう抑えきれん」


女王の目が、わずかに細まる。


「……だから、私に決闘を?」


「そうだ」


ヴァルターは一歩、前に出た。


石畳に靴音が響く。


「王国の秩序を守るため。

 そして、貴女が“選んだ”その存在が、王権を脅かすものでないと示すために」


彼の声は大きく、そしてよく通った。


街道の静寂の中で、その言葉ははっきりと響く。


「貴族代表として、王に決闘を申し込む」


空気が、凍りついた。


それは前例のない行為だった。


王に決闘を挑むなど、反逆に等しい。


だが――彼は、その一線を計算の上で踏み越えている。


女王は、しばらく沈黙した後、静かに口を開いた。


「……条件を」


ヴァルターは満足そうに笑う。


「鉄騎戦。

 代理は不可。

 貴女自身が乗るか――あるいは、あの少年を出すか」


その瞬間、女王の背後で、護衛の一人が息を呑んだ。


静かな音だったが、女王にははっきり聞こえた。


(やはり……ハイドを狙っている)


女王は、ゆっくりと微笑んだ。


それは怒りでも、嘲りでもない。


どこか楽しげな微笑だった。


「分かりました」


その言葉に、ヴァルターの目が細くなる。


「受けましょう。

 王国の王として」


そして――


「ただし、こちらの代理は、私が選びます」


女王は振り返り、馬車の中に向かって告げた。


「ハイドを呼びなさい」


この瞬間、


王国の歯車は、完全に噛み合ってしまった。


もはや誰にも止められない。


女王が動かざるを得ない状況は、


――“貴族代表”という名の反逆者によって、完成したのだから。


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