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炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯0uy2
学園編

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38/40

保守派の動き


 学園という場所は、情報の流れが早い。


 だがそれは、事実が正確に伝わるという意味ではない。

 むしろ逆だ。

 断片だけが、都合よく増殖する。


 決闘の詳細は伏せられたまま。

 公式発表は「規定違反があった」「処分は適切に行われた」の一点張り。

 それ以上は、何も語られない。


 だが――語られないからこそ、埋められる。


 誰が何機倒したとか、

 実戦装備だったとか、

 教官が止めに入れなかったとか。


 尾ひれは日を追うごとに増え、

 真実よりも“納得しやすい物語”が選ばれていく。


 そして、その中心に置かれる名前は決まっていた。


 ハイド。


 彼自身は、それを望んでいない。

 だが、望まなくても名前は使われる。


 朝の訓練場。

 生徒たちの視線が、わずかにズレている。


 正面から見る者はいない。

 だが、背中には感じる。


 計測されるような、

 距離を測るような視線。


 「……」


 ハイドは、気づかないふりをして準備を進める。

 城で叩き込まれた癖だ。

 見られることに意味を与えない。


 だが、イーリスは違った。


 彼女は、全てを見ている。

 視線の角度、密度、滞留時間。

 誰が、どの立場で、何を考えているか。


 「ハイド」


 控えめな声で、後ろから呼ぶ。


 「周囲の緊張度が上昇しています。敵意ではありませんが、好意でもありません」


 「……つまり?」


 「理解が追いつき始めています」


 ハイドは、少しだけ眉をひそめた。


 それは、一番厄介な段階だ。

 恐怖でも、敵意でもない。

 “どう扱えばいいか分からない存在”として見られる状態。


 授業中も同じだった。


 教官は、必要以上にハイドを指名しない。

 かといって、無視もしない。


 扱いに困っているのが、はっきり分かる。


 貴族の子息たちは、二極化した。

 一部は露骨に距離を取り、

 一部は、媚びるほどではないが、妙に丁寧になった。


 そして――保守派。


 彼らは、沈黙している。


 それが、何より不気味だった。


 昼休み。

 食堂の隅で、マリーは一人、スープを飲んでいた。


 周囲の会話が、否応なく耳に入る。


 言葉が濁る。

 名前を出すのを、皆が無意識に避けている。


 マリーは、スプーンを止めた。


 ――これ以上、広がらないで。


 そう願うのは、きっと自分勝手だ。

 だが、彼女は知っている。


 真実が完全に共有された時、

 この学園はもう“安全な場所”ではなくなる。


 訓練後、ハイドは一人で機体のチェックをしていた。

 量産型鉄騎。

 オレンジの塗装。

 胸部と肩部のない、簡素な姿。


 それでも、彼の手は丁寧だった。


 イーリスは、その様子を少し離れて見ている。


 「ハイド」


 「ん?」


 「この環境は、長くは続きません」


 「……だろうな」


 即答だった。


 「敵対が顕在化するか、

  完全に距離を置かれるか、

  あるいは――利用されます」


 イーリスは淡々と言う。

 感情はない。

 だが、冷たくもない。


 「女王は、まだ動いていません」


 「動いたら、終わりだろ」


 ハイドは、工具を置いた。


 「学園が“戦場になる”」


 それは、彼が一番避けたい未来だった。


 だが、もう歯車は回っている。


 誰かが止めなくても、

 誰かが望まなくても。


 理解が追いつく音は、

 もう、この学園の至るところで鳴り始めていた。


 そしてそれは――

 次の事件の、予兆でもあった。


 ——————⸻


 保守派は、沈黙していた。


 だがそれは、諦めではない。

 声を上げるべき瞬間を、待っているだけだった。


 夜。

 学園から馬車で半日ほど離れた、古い別邸。


 石造りの会議室には、七人の貴族が集められていた。

 全員が、代々続く家系の当主、あるいはそれに準ずる立場にある。


 ここに集まる理由は一つだった。


 「……まず、確認しておく」


 最年長の男が口を開く。

 白髪、痩身、だが声には衰えがない。


 「決闘の記録映像は、我々の手元にはない。女王直属の管理下だ」


 誰も異論を唱えない。

 分かりきった事実だ。


 「だが、“現場を見た者”は存在する」


 沈黙が、少し重くなる。


 市民の立ち入り。

 屋台。

 観戦。


 本来、あってはならない。


 「情報は、もう漏れている」


 別の男が言った。

 中年、声に苛立ちが滲む。


 「詳細は歪められているが……

  “勝った”という事実だけは、覆せない」


 「八機を相手取った、という噂もあるな」


 「過剰だ。盛られている」


 「だが、五機以上だったのは確実だ」


 会話が噛み合わない。

 それ自体が、彼らの混乱を示していた。


 ここに集まった全員が、

 同じ前提を共有できていない。


 それが致命的だった。


 「問題は、強さではない」


 また別の貴族が、静かに言う。


 「“例外”が、制度の内側に入り込んだことだ」


 その言葉に、皆が黙る。


 炭鉱奴隷。

 出自不明。

 教育歴なし。


 それが、近衛騎士。

 学園生。


 前例がない。

 そして、前例がないということは――


 「我々の正しさを、証明できなくなる」


 誰かが、唇を噛んだ。


 保守派の思想は単純だ。


 秩序は血統によって維持される。

 教育は選ばれた者のもの。

 鉄騎は、家の象徴。


 それら全てを、

 一人の少年が、無言で踏み越えている。


 「女王は、意図的だ」


 低い声が響く。


 「偶然ではない。

  あれは……試金石だ」


 学園。

 量産型鉄騎。

 貴族の長子を集める制度。


 改革という名の、再編。


 「このままでは、“家”の意味が薄れる」


 「近衛騎士団が、女王の私兵になる」


 「我々の発言力は、形式だけのものになる」


 危機感は、確かだった。


 だが――方向性は、定まらない。


 「……なら、どうする?」


 誰かが問う。


 即答はない。


 武力で排除する?

 不可能だ。

 近衛騎士団、そしてあの機体。


 学園から追い出す?

 女王の裁可なしでは無理だ。


 事故?

 露骨すぎる。


 沈黙が続く。


 そして、最後に一人が言った。


 「次は、“制度”だ」


 皆が、顔を上げる。


 「個人を叩くのではない。

  学園そのものを、揺さぶる」


 訓練の安全性。

 生徒の適性。

 危険な存在の排除。


 正論の皮を被せれば、

 民も、他派閥も、反対しにくい。


 「ルートヴィヒの件は?」


 名前が出た瞬間、空気が冷える。


 「あれは失敗だ」


 「だが、彼一人の暴走という形に出来た」


 「処分も軽い。

  まだ、使える」


 冷たい判断だった。


 血の繋がりも、

 親子の情も、

 ここでは関係ない。


 必要なのは、“駒”。


 「学園内で、再度“問題”を起こさせる」


 「決闘か?」


 「形式は問わない。

  重要なのは、女王が動かざるを得ない状況を作ることだ」


 会議は、そこで終わった。


 結論は出ていない。

 だが、方向だけは決まった。


 ――待つのは、終わりだ。


 一方その頃。


 学園の寮。

 ハイドは、静かに眠っていた。


 そのすぐ近くで、

 イーリスは目を閉じたまま、城の方向を“見て”いる。


 彼女は知らない。

 だが、理解している。


 人間の組織は、

 脅威を前にすると、必ず動く。


 それが、合理的かどうかに関係なく。


 そして――

 次に動くのは、保守派だ。


 それだけは、確実だった。



 保守派は、急がなかった。


 それが彼らの強さであり、同時に弱さでもある。

 剣を抜く前に、場を整える。

 声を上げる前に、逃げ道を塞ぐ。


 女王シャルロットが「動かざるを得なくなる」ためには、

 単なる事件では足りない。

 事故でも、陰謀でも、暴発でもない。


 制度が、女王自身を責め立てる形でなければならなかった。


 最初に動いたのは、学園の外だった。


 地方領主たちの元に、ほぼ同時に書状が届く。

 差出人はばらばら。

 文面も微妙に違う。


 だが、要点は一致している。


 ――学園の訓練内容が過激化している。

 ――貴族の子息が、危険な演習に巻き込まれている。

 ――近衛騎士に準ずる存在が、学園内で自由に行動している。


 決して「ハイド」という名は前面に出ない。

 あくまで、「制度の不備」「監督責任」という形を取る。


 地方の領主にとって、学園は“未来の人質”だ。

 長子を預ける場所。

 忠誠を示す代わりに、安全を保証される場。


 そこが揺らぐことは、

 女王への信頼が揺らぐことと同義だった。


 一方、学園内部。


 教官会議は、明らかに空気が変わっていた。


 「最近、生徒の緊張度が高すぎる」


 「実戦装備の使用基準が曖昧だ」


 「決闘演習の線引きが甘い」


 誰も嘘は言っていない。

 だが、全員が肝心な名前を避けている。


 議題は増え、

 記録は厚くなり、

 責任の所在だけが曖昧になっていく。


 そこへ、決定打が来る。


 訓練中の事故。


 致命的ではない。

 死者もいない。


 だが、貴族の子息が、鉄騎から降りる際に転倒し、骨折した。


 原因は単純だ。

 本人の不注意。

 補助レバーの使い方を誤った。


 それでも、書類上はこうなる。


 ――訓練内容の難易度上昇

 ――精神的圧迫

 ――過度な緊張状態


 全て、最近の学園の空気に起因するものとして。


 噂は、噂を呼ぶ。


 「決闘の影響らしい」

 「例の近衛騎士候補が原因だ」

 「女王のお気に入りだ」


 事実かどうかは、どうでもいい。

 重要なのは、“説明がつく物語”が生まれたことだ。


 そして、その物語は――

 女王の沈黙によって、補強されていく。


 城。


 シャルロットは、全ての報告を読んでいた。


 地方からの書状。

 学園からの正式文書。

 教官会議の議事録。


 一枚一枚、丁寧に。


 彼女は、気づいている。


 これは偶発ではない。

 誰かが、場を組んでいる。


 だが、証拠はない。

 いや、正確には――

 証拠として成立する形をしていない。


 「上手いわね……」


 誰にも聞こえない声で、女王は呟く。


 ここで強権を発動すれば、

 「強引な統治」として叩かれる。


 沈黙を続ければ、

 「管理不行き届き」として責められる。


 どちらに転んでも、

 女王が“動いた”という事実だけが残る。


 それこそが、保守派の狙いだった。


 ハイド本人は、何も知らない。


 訓練を受け、

 授業に出て、

 与えられた場所にいる。


 彼の周囲で何が起きているかを、

 正確には理解していない。


 だが、イーリスは理解している。


 彼女は、学園の通信、城の動き、

 噂の流速、文書の増加量――

 すべてを“傾向”として捉えていた。


 「ハイド」


 夜、寮の部屋。


 「このまま進行すると、女王は公的な判断を下す必要があります」


 「……悪い方?」


 「どちらとも言えません。ただし」


 イーリスは、少し間を置いた。


 「女王が選択を迫られる形になります」


 それは、

 庇うか、切るか。


 改革を進めるか、

 一度止めるか。


 どちらにせよ、

 ハイドは“象徴”として扱われる。


 そして翌日。


 学園に、正式な通達が届く。


 ――学園運営および訓練体制について、

 ――王家主導の臨時監査を行う。


 その一文を見た瞬間、

 教官たちは理解した。


 これは、もう内部で片付く話ではない。


 保守派は、静かに笑った。


 女王は、動いた。

 動かざるを得なかった。


 それが、勝利の合図だった。


 だが――

 彼らは、まだ知らない。


 女王シャルロットが、

 盤面を動かす時、必ず“次の一手”を用意しているということを。


 そして、

 その一手の中心にいるのが――


 ハイドでも、

 鉄騎でもなく。


 “理解している存在”

 イーリスであるということを。




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