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炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯0uy2
学園編

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30/43

矢文


その夜、王城は静かだった。


夜会もなく、謁見の予定もない。

城は、本来の「要塞」としての顔を取り戻している。


シャルロットは、執務室で一人、書類に目を通していた。


学園設立後の反応。

貴族からの抗議文。

形式だけ整えた賛同の書簡。


どれも想定内だ。


問題は、想定外がいつ来るか――それだけだった。


その時。


窓の外で、空気を裂く音がした。


次の瞬間、鈍い衝撃。


シャルロットは、即座に立ち上がる。


「……来たか」


護衛が動くより早く、彼女は窓辺に近づいた。


分厚い石壁に、一本の矢が突き立っている。

深くはない。

致命性は、最初から考慮されていない。


「非殺傷……」


その判断の正確さに、シャルロットは口元を緩めた。


矢を抜く。

先端に、紙が結び付けられている。


護衛が慌てて駆け寄る。


「陛下、ご無事ですか!」


「問題ない。下がれ」


短く命じる。


彼女は、紙を広げた。


文字を見た瞬間、

シャルロットは、ほんの一瞬だけ動きを止めた。


「……これは」


整いすぎている。


筆圧の揺れがない。

文字間の均一性。

線の入りと抜きの正確さ。


写本職人でも、ここまで揃えない。


「……フォント、か?」


思わず、そんな言葉が脳裏をよぎる。


内容は簡潔だった。


――演習において、当該鉄騎を使用する。

――目的は、操縦適合性の確認。

――非殺傷。

――学園規定内。


  署名。


 イーリス


その名を見て、シャルロットは息を吐いた。


「……やはり、あなたか」


彼女は、椅子に腰を下ろす。


ハイド。

そして、その傍にいる“存在”。


鉄騎と同一の自己認識を持つ人工知能。

外部行動用の人型ボディ。


それだけでも、異常だ。


だが、問題はそこではない。


「判断が……早すぎる」


申請ではない。

事前相談でもない。


事後報告に近い。


だが、無礼ではない。

むしろ、こちらの思考を読んだ上で、

最短のルートを選んでいる。


「ハイドを使っているのではない……」


シャルロットは、静かに考える。


「支えている。

 だが、前に出すぎない」


それが、最も厄介だ。


護衛の一人が、恐る恐る口を開く。


「……ご命令を」


「放っておけ」


即答だった。


「許可も、拒否も出さない」


護衛は戸惑う。


「しかし――」


「この状況で、拒否すればどうなる?」


シャルロットは、視線を向ける。


「彼らは、より“非公式”な手段を取る」


護衛は、黙った。


女王は、紙を机に置く。


「むしろ、使わせる」


低く、確信を込めて言う。


「結果を見たい」


ハイドが、どう戦うかではない。


イーリスが、どう“動かすか”


それを。


「完全な遺物は、当たりだと思っていた」


シャルロットは、独り言のように呟く。


「だが……これは、完全以上だ」


鉄騎だけではない。

人工知能だけでもない。


組み合わせ。


しかも、それが

炭鉱奴隷という、何の後ろ盾もない少年と結びついている。


「皮肉だな」


貴族たちは、血統を誇る。

家を誇る。

だが、本当に“価値あるもの”は、

いつも制御不能な場所から現れる。


シャルロットは、護衛に命じた。


「明朝、学園に伝えよ。

 演習における使用を黙認する」


「……黙認、ですか」


「そうだ」


そして、少しだけ微笑む。


「決闘という制度は、

 貴族のためのものだと思っていたが……」


視線を窓の外へ向ける。


「どうやら、試されるのは、こちらの価値観らしい」


矢が刺さった痕は、そのまま残した。


修復は、翌朝でいい。


それは、

この城に届いた“意思”の痕跡だった。


そしてシャルロットは、確信する。


この決闘は、

一人の少年の進退を決めるものではない。


時代の向きを、測るものだと。


——————


夜明け前から、王都は妙に騒がしかった。


学園の鐘が通常より早く鳴り、学生たちは制服姿のまま中庭へ集められていく。

今日は授業はない――というより、誰も授業などやる気がなかった。


「ほんとにやるんだよな、決闘……」

「公式だぞ。女王の裁可付きだ」


決闘は制度としては存在しているが、実際に行われるのは極めて稀だ。

それも近衛騎士候補同士の決闘となれば、学園全体が浮き足立つのも無理はない。


演習場の外周には、朝早くから人の列ができていた。

学園関係者だけでなく、特別に許可を得た一部の市民も入場を認められている。


簡易的な出店まで並び始めていた。


「焼きパンだよ!」

「決闘記念の護符、どうだい!」


祭りのような空気と、張り詰めた緊張感が奇妙に混ざり合っている。



ハイドは、いつもより静かな顔で格納庫を見上げていた。


機体は既に整備を終え、起動待機状態に入っている。

装甲には余計な装飾はない。演習時と同じ、実戦仕様。


「……騒がしいな」


独り言のように呟くと、背後から声が返ってきた。


「人間は“特別な出来事”が好きなのです」


イーリスの声は、いつも通り淡々としていた。


「本件は、観測価値が高い。

 ・個体間の名誉衝突

 ・制度上の合法殺傷

 ・女王による間接的介入」


「やめろ。縁起でもない」


ハイドは短く遮った。


「勝つ。それだけだ」


「了解しました。

 本日の私の優先目標は、ハイドの生存確率の最大化です」


その言葉に、ハイドはほんの一瞬だけ口元を歪めた。



一方、王城。


女王は玉座ではなく、執務机の前に立っていた。

窓の外からは、遠く演習場のざわめきが聞こえる。


「……学園総出、か」


側近が報告書を閉じる。


「はい。前例のない規模です。

 市民の立ち入りも、かなりの人数が許可されています」


女王は頷くだけで、評価も感想も口にしなかった。


脳裏には、先日の演習報告が浮かんでいる。

ハイドの操縦。

そして――イーリスの異常な判断速度。


(あの機体の要は、操縦者ではない……)


そう思いながらも、女王はそれを誰にも語らない。

今それを口にする意味は、まだない。


「決闘は予定通り執行します」


「御意」


女王は窓の外へ視線を向けた。


王都が一つの出来事に注目する朝。

その中心にいるのが、名もなき元鉱山奴隷であることを――

誰が予想しただろうか。



演習場に開戦のラッパが響いた。


決闘当日の朝は、もう始まっている。


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