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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
学園編

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27/79

慧眼の代償


王城の最上層。

塔の内部に埋め込まれるように設けられた記録閲覧室は、外界から切り離された静寂の空間だった。


分厚い石壁。

細く高い窓。

風の音さえ、ほとんど届かない。


照明を落とした部屋の中央には、プロジェクターが据えられている。

王家が管理する戦闘記録の閲覧装置――本来は、戦史編纂や軍事検証のためのものだ。


その前に、女王シャルロットは一人で立っていた。


侍従も、近衛もいない。


誰も入室を許されていない。


映像は、わずかに荒れている。

だが、決闘場全体の俯瞰映像と、複数角度からの補助記録が同期され、戦闘の流れは正確に把握できる。


「……再生」


静かな声。


これで、四度目だった。


それでも、目を離せない。


⸻


映像に映る。


円形区画。

対峙する二機。

そして――


外縁から現れる七機。


決闘が、決闘でなくなる瞬間。


シャルロットの視線は、その瞬間に固定される。


八機。


表示される敵影を、心の中でなぞる。


演習機を装った、明確な過剰戦力。


名目は決闘。

実態は、制圧。


「……愚かね」


声は冷たい。


怒りではない。


失望でもない。


確認だ。


自分が想定していた通り、保守派は動いた。

しかも、最も愚鈍な方法で。


「公衆の面前で」


しかも観覧席は満席。

市民まで入れて。


止められない形を作った上での強行。


自分を試したのか。

それとも、既成事実を積み上げるつもりだったのか。


どちらにせよ――


映像は、すべて記録している。


⸻


だが。


止まらなかった。


止まらなかったのは――

ハイドの鉄騎、デュークだ。


包囲。

挟撃。

多方向同時攻撃。


理論上は、崩せる。


それでも。


映像の中で、デュークは崩れない。


「……強すぎる」


思わず、声が漏れる。


誰に聞かせるでもない、独り言。


強い、ではない。


強すぎる。


想定を越えている。


⸻


シャルロットは、指先で映像を巻き戻す。


最初の回避。


ほんの数センチのずれ。


教本にある動きではない。


「型ではない」


貴族騎士たちが学ぶ操縦は、美しい。


姿勢が整い、軌道が整い、攻防が対になっている。


だが、これは違う。


削られ、

追い詰められ、

逃げ場がない中で選ばれた軌道。


“正解”ではなく、

“死なない選択”。


「……炭鉱で生きてきた身体、か」


かつて面会した少年を思い出す。


痩せていた。


骨ばり、傷だらけで、

栄養不足が見て取れた。


それでも目だけは、濁っていなかった。


怯えでも、野心でもない。


ただ――


状況を測る目。


損得を即座に計算する目。


生き残るための目。


あの目が、そのまま操縦桿を握っている。


⸻


映像が切り替わる。


挿絵(By みてみん)


敵機の武装を奪う場面。


ためらいがない。


通常なら、躊躇する。


重量。

重心。

照準特性。


慣れていない武装は、危険だ。


だがハイドは、迷わない。


掴み、

引き剥がし、

即座に使用。


しかも、別の敵に叩きつける。


「……使わなければ死ぬ、と理解している」


それは、教育では作れない。


学園で教える“応用力”とは質が違う。


生存に直結する判断。


それは、制度が与えるものではない。


奪われ続けた者が、やっと掴んだ選択権だ。


シャルロットは、わずかに苦笑した。


「皮肉なものね」


学園を作った。


制度を整えた。


だが、この動きは学園では生まれない。


自分の理想よりも、現実の方が先に完成している。


⸻


視線が、別の存在を追う。


イーリス。


映像には直接的な介入は映らない。


だが、挙動の変化は明確だ。


反応速度の段階的上昇。


同時処理の精度。


包囲の“内側”へ切り込む判断。


「二人で一機……」


呟く。


通常の鉄騎は単座。


だが、あれは違う。


思考が二重化されている。


人間の直感と、

遺物の演算。


それを、ハイドは拒絶していない。


支配もしていない。


「正しく、使っている」


そこに、シャルロットは安堵を覚える。


力を持った者が、力に酔っていない。


これは、為政者にとって何より重要だ。


⸻


映像は終盤へ。


三機が距離を取り、

怯え、

統制を失う。


恐怖が伝播している。


八機いた包囲陣が、

わずか数分で崩壊している。


「統制の脆さ」


保守派の問題点が、はっきり出ている。


数は揃える。


だが、思想は揃わない。


恐怖への耐性も揃わない。


対して、デュークは――


恐怖を持ちながら、前に出る。


映像の中で、最後の一機が降伏する。


そこで初めて、デュークは止まる。


追撃しない。


踏み潰さない。


「……そこも、評価できる」


止められる力。


制御できる意思。


これがなければ、怪物でしかない。


⸻


映像が停止する。


室内に、深い静寂が戻る。


シャルロットは、しばらく動かなかった。


「……私の慧眼も、捨てたものではない、か」


小さく笑う。


だが、その笑いはすぐに薄れる。


違う。


これは慧眼ではない。


運だ。


偶然、炭鉱で生き残っていた少年。


偶然、遺物と出会い。


偶然、自分の前に連れてこられた。


自分が見抜いたのではない。


ただ、拾っただけだ。


「……傲慢ね」


自嘲する。


自分は“選んだ”つもりだった。


だが実際は、選ばれた側かもしれない。


⸻


「強すぎる、というのも問題だな」


視線を上げる。


この力は、武器だ。


だが同時に、火種だ。


貴族は恐れる。


保守派は動く。


今日の件で、確実に焦る。


「学園を作って正解だったか……?」


一瞬だけ、迷いがよぎる。


だが、首を振る。


否。


必要だった。


枠がなければ、力は孤立する。


孤立した力は、やがて暴発する。


制度の中に組み込む。


責任と名誉を与える。


そうしなければ、この国は割れる。


⸻


映像の最後。


戦闘終了後のデューク。


動きが、異様に静かだ。


勝者の誇示がない。


威嚇もない。


ただ、止まっている。


「……あれは」


シャルロットは、静かに言う。


「あれは、ただ生き延びただけの男の顔だ」


勝った顔ではない。


安堵の顔でもない。


まだ終わっていないと理解している者の沈黙。


そこに、彼女は確信する。


あの少年は、権力に酔わない。


だが――


追い詰めれば、壊れる可能性はある。


「……使い方を、誤らぬようにしないと」


それは、ハイドへの警告ではない。


自分自身への戒めだ。


彼を剣として振るうのか。


それとも、国の柱にするのか。


決めるのは、女王だ。


⸻


シャルロットは背筋を伸ばす。


王家の鉄騎を象徴とする国家。


抑止力なくして秩序は保てない。


その象徴の中に、

一振り、異質な刃を迎え入れた。


「……怪物を迎え入れたのは、私」


ならば。


制御も、責任も、自分が負う。


静かな決意が、部屋を満たす。


映像板が暗転する。


王城最上階。


誰も知らない場所で、女王は一つの現実を受け入れていた。


守るために拾った剣は、

思った以上に鋭い。



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