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炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯0uy2
学園編

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27/40

沈黙する評価


 王城中枢、執務棟最上階。

 高窓から差し込む午後の光が、石造りの床に長い影を落としていた。


 女王シャルロットは玉座ではなく、執務用の椅子に腰掛け、机上に置かれた数枚の報告書に目を通していた。

 書面の端には、鉄騎学園の正式印章。

 その中でも最も新しい一通が、つい先ほど届けられたばかりのものだった。


「――応用操縦訓練中の不規則事態、ですか」


 抑揚の少ない声で呟き、女王は紙面を追う。


 想定外の対人演習への乱入。

 実戦用ランスの使用。

 本来の訓練目的を逸脱した行動。

 そして――


「量産型鉄騎における、非搭乗者のコクピット侵入……」


 一瞬、女王の視線が止まった。


 報告書には淡々と事実のみが記されている。

 だがその裏にある緊張感は、容易に想像がついた。


 教官の一人が、机の前に控えている。

 老練な騎士であり、鉄騎操縦の実戦経験も豊富な人物だった。


「詳細を、口頭でも」


「はっ」


 教官は一歩前に出て、簡潔に説明を始める。


 保守派貴族の子息ルートヴィヒとその同調者による訓練妨害。

 実戦兵装を用いた威圧行為。

 そして、標的とされたのが――ハイドであったこと。


 女王は表情を変えない。

 だが、その名が出た瞬間、空気がわずかに引き締まった。


「ハイドは、対応できたのですか」


「完全ではありません。しかし――」


 教官は言葉を選びながら続ける。


「量産型鉄騎の操作に不慣れでありながら、致命的な一撃を回避しています。

 姿勢制御、重心移動、判断速度……いずれも、事前評価より高い」


 女王は小さく頷いた。


 それ自体は、想定の範囲内だった。

 彼が城で受けていた訓練内容を、女王は把握している。


 だが――問題は、その次だった。


「加勢した存在については?」


「……はい」


 教官の視線が、わずかに揺れる。


「イーリスです。

 量産型鉄騎のコクピット開閉レバーを操作し、搭乗。

 操縦権限のない補助レバーのみで、機体制御に介入しています」


「補助レバーだけで?」


「はい。

 本来はグリップ破損防止用の簡易入力装置です。

 しかし彼女は――」


 教官は、そこで一度息を吸った。


「機体の挙動を、まるで自分の身体のように扱っていました」


 女王は、その言葉を否定も肯定もしなかった。


 報告書の末尾には、別の生徒の名前も記されている。

 マリー・エルヴェシア。

 混乱の中で同乗したまま、恐怖に硬直していた女生徒。


「死者、重傷者はいない、と」


「はい。

 結果として、演習は中断。

 問題の生徒には、現在処分を検討中です」


 女王は報告書を机に置き、指先で軽く縁をなぞった。


 量産型鉄騎。

 マスタースレイブ式。

 本来、誰でも操縦できるよう設計された代物。


 ――だが、“誰でも使いこなせる”わけではない。


 ハイドは、まだ未熟だ。

 それは事実である。


 だが、あの場で致命的な破綻が起きなかった理由。

 それを支えた要素が何であったかは、女王には見えていた。


「イーリスについて、他に所見は?」


「……操縦技量、判断速度、状況認識。

 いずれも、同年代の生徒の水準を大きく逸脱しています」


「それだけですか」


「それ以上は……評価が難しい、と」


 教官は正直に答えた。


 女王は、わずかに口角を上げた。


 ――評価が難しい。

 それは、能力が不足している場合ではない。


 規格外。

 想定外。

 分類不能。


 そういう存在に対して、人はそう言う。


「……よろしい」


 女王は立ち上がり、窓際へと歩み寄る。


 遠く、王都の向こうに連なる学園の尖塔が見えた。


 ハイド。

 そして、イーリス。


 二人の関係性。

 役割分担。

 戦場での配置。


(――イーリスが、機体の“かなめ”なのではないか)


 その考えが、脳裏をよぎる。


 だが、女王はそれを口にしなかった。


 今この段階で、それを明文化する意味はない。

 むしろ、余計な注目を集めるだけだ。


「本件は、訓練中の不測事態として処理します」


「よろしいのですか?」


「ええ。

 生徒間の摩擦も、学園という閉じた環境では避けられません」


 女王は振り返り、教官を見た。


「ただし――」


 その視線は、鋭かった。


「次に同様の行為があれば、

 “教育”では済ませません」


「……承知しました」


 教官が深く頭を下げる。


 女王は再び窓の外へ目を向けた。


 まだ、時ではない。

 だが、確実に歯車は回り始めている。


 ハイドという存在。

 そして、その隣に立つイーリス。


 それが何をもたらすのか――


 女王シャルロットは、静かにその行方を見据えていた。

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