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炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯0uy2
学園編

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応用操縦訓練


応用操縦訓練は、これまでとは空気が違っていた。


訓練場の中央に引かれた白線。

その内側が、演習区域とされている。


「本日の訓練は、対人想定だ」


教官の声が、風に乗って響いた。


「殺傷は禁止。

 武装は模擬用、もしくは実戦用を鈍化処理したものを使用する」


その言葉に、生徒たちの背筋がわずかに伸びる。


“対人”。


それは、これまでの歩行や姿勢制御とは違う。

相手が動き、相手が狙ってくる。


鉄騎は、道具であると同時に、武器になる。


ハイドは、自分の量産型鉄騎の中で、静かに息を整えていた。


吊り下げ式のコクピット。

革ベルトが身体を固定し、視界の外縁で機体の内部フレームが揺れる。


(……相手、誰だ)


本来の対戦相手は、すでに決まっていると聞いていた。


マリー・エルヴェシア。


名前だけは覚えている。

馬車護衛のとき、同じ車両に乗っていた女生徒だ。


(……怖がってた)


鉄騎の外でのことだ。

揺れる馬車の中で、緊張した顔で窓を見つめていた。


その彼女が、今は隣の機体に乗っている。


「……よし、開始」


教官の合図で、演習が始まった。


ハイドは、一歩踏み出す。


足は滑らない。

城で新調された滑り止めが、地面を確実に捉えている。


(……ゆっくりでいい)


槍――模擬ランスを構える。

擬似グリップに手を添え、力を入れすぎないよう意識する。


量産型鉄騎の補助レバーは、あくまで“加減”のためのものだ。

握り潰せば、指が壊れる。

弱ければ、武器を落とす。


その感覚を、ハイドは必死に探っていた。


だが。


――違和感。


演習区域の外側が、ざわついた。


「……おい」


「何だ、あれ」


ハイドの視界の端に、別の機体が入ってくる。


一機、二機、三機。


オレンジ塗装ではない。

演習用ではない。


装甲をつけた量産型鉄騎。


その先頭に立つ機体から、明らかに“実戦用”のランスが突き出ていた。


(……え?)


思考が追いつかない。


教官の声が、遅れて響く。


「誰だ、許可を出した覚えは――」


「演習参加だ」


外部スピーカー越しに、冷たい声。


ルートヴィヒ。


その名を、ハイドはまだ知らない。

だが、その声に含まれる敵意は、嫌でも分かった。


「特別クラスの実力を、確認させてもらう」


次の瞬間。


ランスが、一直線にハイドへ向けられた。


(――来る)


考えるより早く、身体が動いた。


ハイドは、機体を後ろへ引く。

地面を蹴り、重心を下げる。


だが、相手は複数だ。


左右からも、動きがある。


(……囲まれる)


そのときだった。


「――失礼します」


イーリスの声が、どこか近くで聞こえた。


ハイドが視線を向けるより早く、彼女は動いていた。


自分の身一つで、マリーの量産型鉄騎に飛びつく。


外装フレームを掴み、関節を足場にして一気に登る。


「え……?」


マリーの、か細い声。


イーリスは、迷わない。


量産型鉄騎の外部にある、コクピット開閉装置。

誰でも触れる、単純なレバー。


それを回す。


ガコン、という音と共に、コクピットが開いた。


「っ!?」


マリーが声を上げる間もなく、イーリスは中に滑り込む。


「同乗します。安全は確保します」


落ち着いた敬語。


「え、え……?」


マリーは、怯えたまま固まっている。


吊り下げ式のコクピット。

二人分の設計ではない。


だが、イーリスは迷わず、補助レバーに手をかけた。


(……接続完了)


彼女は、機体に直接アクセスする。


重量分布、関節角度、駆動応答。


それらが、一瞬で把握される。


「ハイド様」


通信が、直接届いた。


「加勢します」


(……え?)


戸惑う間もなく。


マリーの機体が、動いた。


ぎこちなさはない。

むしろ、教本通りの、完璧な動き。


「な……」


ルートヴィヒの声が、乱れる。


「二人乗りだと?」


「違います」


イーリスの声が、淡々と返る。


「補助レバーを介したクラッキング制御です」


その言葉と同時に。


マリーの機体が、ランスを構えた。


マリー自身は、まだ怯えたままだ。

身体は強張り、声も出ない。


だが、イーリスが、すべてを支えている。


(……すごい)


ハイドは、そう思った。


同時に、理解する。


(……一人じゃない)


ランスが、ぶつかり合う。


金属音。


ハイドは、前に出た。


自分の機体で、真正面から受け止める。


滑らない足。

崩れない姿勢。


「っ……!」


力は、相手の方が上だ。

だが、押し負けない。


横から、マリー――イーリスの機体が、割り込む。


的確な角度。

無駄のない動き。


「く……!」


ルートヴィヒの機体が、わずかに体勢を崩す。


教官の怒号が、ようやく訓練場を支配した。


「全機停止!

 今すぐだ!」


だが、その時にはもう、勝敗は見えていた。


ハイドは、ランスを下ろした。


息が荒い。

腕が、震えている。


それでも、立っている。


マリーの機体も、静止する。


「……だ、大丈夫?」


ハイドが、通信で声をかける。


マリーは、しばらくしてから、か細く答えた。


「……は、はい……」


震えているが、無事だ。


イーリスは、淡々と続ける。


「恐怖反応は正常です。

 機体制御は、こちらで行っていました」


教官たちが、駆け寄ってくる。


怒りと、驚きと、困惑。


そして――評価。


誰もが、理解してしまった。


これは、事故ではない。


これは、

実戦に限りなく近い形での、実力の露呈だと。


ハイドは、まだ知らない。


今この瞬間、

学園の力関係が、決定的に揺らいだことを。。

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