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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
学園編

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25/79

学園決闘


演習場を囲む観覧席は、すでに埋め尽くされていた。


学園生徒、教官、近衛騎士、そして特別許可を得た市民。

誰もが同じ方向を見ている。

中央に設けられた、円形の決闘区画――巨大な鉄騎同士がぶつかるために拡張された、異様な空間だ。


空気は祭りのようでありながら、どこか冷えている。

歓声よりも先に、息を飲む音が広がっていた。


「……本当にやるんだな」


観覧席の一角で、学生の一人が呟いた。


決闘は制度上存在する。

だがそれは、実際にやるための制度ではない。

建前として残されているだけの、過去の遺物だ。


それが今日、現実として動いている。


しかも――

片方は、つい先日まで鉱山奴隷だった男。

もう片方は、名門貴族の出身で、近衛騎士候補として将来を約束された存在。


勝敗は、最初から決まっている。

そう考える者が大半だった。


⸻


決闘区画の端に、ハイドの鉄騎が立っていた。


起動状態。

主機は安定。

外装装甲に異常なし。


だが、ハイド自身は落ち着いているとは言い難かった。


視界の端に、観覧席が映る。

あまりにも多い人間。

全員が、自分を見ている。


「……正直、嫌だな」


思わず零れた言葉に、即座に返答が入る。


「緊張反応を検出。心拍数、平常値より上昇しています」


イーリスの声は、いつも通り平坦だった。


「問題ない。許容範囲です」


「観客が多すぎる」


「人間社会において、“公開性”は暴力の正当化装置です」


「やめろって」


ハイドは短く言った。


「今日の相手は?」


「貴族家出身、訓練成績上位。

 ただし実戦経験は皆無です」


「じゃあ、演習慣れしてるだけか」


「はい。

 そして彼の機体は“決闘用に調整された練習機”です」


その一言で、ハイドは察した。


――安全な決闘。

――死なない前提。

――負けても名誉は守られる。


「……なるほどな」


それに対して、自分の機体は実戦仕様。

鉱山遺物。

イーリスという、異物を抱えた存在。


条件が、そもそも噛み合っていない。


⸻


対峙するように、もう一機の鉄騎が歩み出てきた。


白を基調とした装甲、統一感のない形状。

過剰なまでに磨き込まれた外観。

塗り直されたばかりの機体であることが一目でわかる。


その手には、細身の決闘用レイピアが握られていた。


観覧席がざわめいた。


「あれが……」

「貴族様の機体か」

「勝負にならんだろ」


ハイドの視界にも、相手の識別情報が表示される。


「……随分、綺麗だな」


「目標は実戦想定ではありません」


「だろうな」


開始合図まで、残りわずか。


審判の乗る気球が上空に浮かび、音声を拡声する。


「これより、正式な決闘を執行する。

 勝敗は、行動不能、降伏、または審判による中止判断によって決する」


その言葉に、観覧席が静まり返った。


誰もが理解している。

これは中止されるべき決闘だということを。


だが、止める者はいない。


⸻


「ハイド」


イーリスが、わずかに間を置いて呼びかけた。


「提案があります」


「なんだ」


「本決闘において、私は通常よりも介入度を上げます」


「……つまり?」


「相手が“安全な決闘”を前提としている場合、

 それはハイドの生存確率を下げる要因になります」


「……やりすぎるなよ」


「“やりすぎ”の定義を確認します」


ハイドは一瞬、言葉に詰まった。


そして、ゆっくりと言った。


「殺すな。

 壊すのは……最小限でいい」


「了解しました」


その返答は、あまりにも即答だった。


⸻


開始信号が鳴る。


次の瞬間、相手の鉄騎が踏み込んだ。

教本通りの動き。

無駄のない、だが“型に収まった”刺突。


観覧席から、歓声が上がる。


「行け!」

「決めろ!」


だが――


「回避」


イーリスの指示と同時に、ハイドの機体は半歩ずれる。


それだけで、レイピアの切っ先は空を滑った。


挿絵(By みてみん)


ほんの数センチ。

だが、致命的なズレ。


「……え?」


相手の操縦者の困惑が、通信越しにも伝わってくる。


「次、来るぞ」


「予測済みです」


二撃目。

三撃目。


すべて、紙一重で外れる。

突きは鋭いが、単調だ。


観覧席の空気が、徐々に変わり始めていた。


「当たってない……?」

「避けてる、のか?」


そして、四撃目。


ハイドの機体が、初めて前に出た。


ただの一歩。

だが、その一歩で――距離が消えた。


「今です」


イーリスの声と同時に、ハイドは操縦桿を引いた。


装甲でレイピアの軌道を逸らし、懐に潜り込む。


次の瞬間、観覧席は理解する。


これは決闘ではない。

戦闘だ。


⸻


「今!」


ハイドは、相手の武装に手を伸ばした。


掴む。

引き剥がす。


奪ったレイピアを、逆手に構える。


「……っ!?」


相手の機体が一瞬、無防備になる。


次の瞬間、その細身の刃が――別の敵機の関節へ正確に突き込まれた。


装甲の隙間を貫く、鋭い刺突。

訓練機の一機が、力を失って崩れ落ちる。


⸻


「武装の再利用」


「敵機は想定していません」


「なら、使わせてもらう」


ハイドは、奪ったレイピアを振るう。


叩きつけるのではない。

滑らせ、差し込み、関節を断つ。


二機目、行動不能。


だが、数はまだ多い。


背後からの衝撃。

装甲が軋む。


「ハイド、左脚部に負荷集中」


「まだ動く!」


旋回。

敵の攻撃を、別の敵に当てる。


混戦。


味方も敵も、もはや関係が曖昧になる。


「……ぐちゃぐちゃだな」


「複数戦闘に不慣れな編成です。

 統制が取れていません」


「だったら、崩す」


ハイドは、最も動きの鈍い機体に突っ込んだ。


掴む。

持ち上げる。


そして――投げた。


巨大な鉄の塊が、別の機体に激突する。


二機同時に倒れる。


残り、三。


⸻


観覧席では、誰も声を出せなくなっていた。


これは演習ではない。

訓練でもない。


見てはいけないものを見ている、という空気だけが漂っている。


教官の一人が、青ざめた顔で呟いた。


「……止めなければ」


だが、審判官は動かない。


⸻


「ハイド」


イーリスの声が、少しだけ近くなる。


「あなたは、恐怖を感じていますか」


「……あるに決まってる」


「それでも、動けています」


「お前がいるからだ」


一瞬の沈黙。


「……記録します」


最後の三機が、距離を取った。


明らかに怯えている。


「どうする?」


「逃走を許可すると、再編されます」


「じゃあ――」


ハイドは、前に出た。


「終わらせる」


⸻


一機目。

武装を叩き落とし、体勢を崩させ転倒。


二機目。

掴み、地面に押し倒す。


最後の一機は、完全に動きを止めていた。


通信が入る。


「……ま、参った」


その声は、震えていた。


ハイドは、機体を止める。


大きく息を吐いた。


「……終わったな」


「はい」


イーリスは、淡々と告げる。


「決闘は、完全に崩壊しました」


その言葉の意味を、ハイドはまだ知らない。


だが――

この日を境に、学園の空気が変わることだけは、確かだった。

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