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炭鉱奴隷の俺が、伝説の鉄騎を掘り当てて女王に拾われるまで  作者: お湯
序章

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2/18

城門の騎士たち

馬車の揺れに身を任せながら、俺は窓の外を見つめていた。


視界に流れ込んでくる光が、痛い。

炭鉱の暗闇しか知らなかった目には、外の世界はあまりにも明るすぎた。影が薄く、境界がはっきりしていて、ものの輪郭がくっきりと見える。それだけで、頭の奥がじんと痺れるような感覚がある。


空がある。

それは、天井の代わりに押し付けられてきた岩肌とはまるで違った。


灰色の雲の切れ間を突き抜けるように、青が広がっている。

あれが空だと、誰かに教えられた覚えはない。それでも、見た瞬間に「これが外なのだ」と分かってしまうほど、圧倒的だった。


風が吹く。

馬車の窓から入り込んできた冷たい空気が、頬を撫でる。

煤と汗が染みついた皮膚を洗い流すようで、思わず目を細めた。


炭鉱の空気は、常に重かった。

肺に溜まり、吐き出しても残る。

だがこの風は、触れたあと、すぐに通り抜けていく。


「……外って、こうだったんだな……」


思わず漏れた声は、自分でも驚くほど小さかった。

独り言のつもりだったが、向かいに座る人物は、それを聞き逃さなかったらしい。


馬車の中は暖かく、静かだった。

布張りの座席は柔らかく、腰を下ろしても痛みがこない。

その正面に、女王シャルロットが座っている。


鎧ではない。

武具もない。


派手すぎない、落ち着いた色合いのドレスを身にまとい、背筋を伸ばして腰掛けている。その姿は、俺が炭鉱で見てきた荒々しい世界とは、まるで繋がらないものだった。


――この人が、王。


そう理解しているはずなのに、どこか現実味が薄い。

炭鉱で聞かされてきた「上にいる存在」と、今、目の前にいる人物が、どうしても結びつかなかった。


女王は、俺の呟きを聞くと、わずかに微笑み、同じように窓の外へ視線を向けた。


「ハイド。初めて見る外の景色は、どうかしら」


声は穏やかだった。

だが、柔らかいだけではない。

逆らえない重さが、言葉の奥に確かにある。


俺は一瞬、言葉を探し、それから正直に答えた。


「……まぶしいです。全部……」


嘘は言えなかった。

眩しくて、恐ろしくて、それでも目を逸らせない。


女王の深紅の瞳が、静かに俺を見つめている。

威圧されているはずなのに、不思議と逃げたいとは思わなかった。


馬車は荒野の道を進んでいく。

土色の地面が続き、ところどころに草が生えている。

遠くには丘が連なり、その向こうに、小さな建物の集まりが見えた。


あれが、集落なのだろうか。

人が、炭鉱以外で暮らす場所。


知識はない。

ただ、初めて見るものばかりが、視界に流れ込んでくる。


やがて、馬車は坂を登り始めた。

前方に、巨大な石造りの門が見える。


城だ。


厚い城壁。

高く積まれた石。

門の前には、人影が整然と並んでいる。


そして――その奥。


門前の広場に、巨大な影が立ち並んでいた。


俺は息を呑んだ。


鉄騎だ。


数は多くないが、はっきりと分かる違いがある。

赤と白に塗り分けられた機体が一体。

金色の機体が一体。


それらは、明らかに特別な存在として、間隔を空けて立っている。


そして、それ以外に、複数の機体が並んでいる。

白い機体。

土色の機体。


色以外の違いは、俺には分からない。

そもそも、比べるための知識がない。


ただ、どれも巨大で、硬く、動かないままそこに立っている。

昼の光を受け、鈍く輝くその姿は、まるで石像のようだった。


俺は、無意識に馬車の窓へ身を乗り出していた。


探してしまう。


理由は分からない。

だが、探さずにはいられなかった。


(……いない)


俺の鉄騎――デュークの姿は、どこにもない。


胸の奥が、すっと冷える。

穴が開いたような感覚だった。


「……あれ、俺の……?」


思わず、声が出た。


女王は、少し間を置いてから、穏やかだがはっきりとした声で告げる。


「ハイド。あなたの騎士は、今、我が工房にあります」


言葉の意味が、すぐには理解できなかった。


「……え……?」


視線を女王に向ける。

疑問しか浮かばない。


女王は、揺れる馬車の中で姿勢を崩さず、微笑んだまま答えた。


「あなたの騎士は、現在、改修を受けています。城に並ぶ他の騎士たちと同じ姿で現れるのは、まだ先ですわ」


改修。

その言葉は理解できても、意味は掴めない。


「ですが、心配はいりません」


女王は続ける。


「あなたに相応しい姿となって、必ず戻ってきます」


色。

姿。

戻る。


言葉は、頭に入ってくる。

だが、炭鉱で触れた鉄の冷たさ、重さ、あの狭い座席に押し込まれた感覚だけが、強く残っている。


馬車は城門をくぐり、中庭へ入った。


整えられた石畳。

広い空間。

並ぶ鉄騎たちは、静かに待機している。


その存在感に、心臓が早鐘を打つ。

自分が、あの巨人たちの足元に立つ存在でしかないことを、嫌というほど思い知らされる。


女王が、俺の肩にそっと手を置いた。


「恐れることはありません、ハイド」


その声は、命令ではなく、断定だった。


「あなたの騎士は戻ってきます。そして、あなたは、この国で生きるのです」


俺は、もう一度、鉄騎たちに視線を向けた。


赤と白の機体。

金色の機体。

白い機体。

土色の機体。


そのどれにも、今の俺は触れられない。

だが、確かに、この世界の一部なのだと、無言で語っている。


「……分かりました……」


小さく答え、背もたれに身を預ける。


光も、城も、鉄騎も、すべてがまだ眩しい。

理解できないことばかりだ。


それでも――


俺の騎士は戻ってくる。

そう言われた。


その言葉だけが、胸の奥で、かすかな熱を持って残っていた。


馬車は中庭を抜け、城の奥へと進んでいく。

外の世界は、まだ遠い。


だが、俺の物語は、確かにここから動き始めている。

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