004 大きくなる暗雲
一か月後、中国人民解放軍海軍が宮古海峡を通過した。
「確認された中国海軍勢力は、空母1、駆逐艦4、フリゲート艦4、ドック型揚陸艦1、潜水艦2、病院船1、補給艦2です」
「この戦力は・・・」
「どう考えても調査目的には過剰な戦力だ」
「明らかに領土拡張のための規模ですな」
調査目的ならば、それこそ調査船と海警もしくは駆逐艦数隻で十分なはずだ。
この陣容は明らかに攻撃、占領し、領土として編入することを考えている規模である。中国に潜伏している諜報員によれば、拠点を作るために、大規模な物資を満載した第二陣が準備中であるという。
「まだ我が国への攻撃がなされているわけではないので、何かしらの発令を行うのは難しいです」
「うむ、それは仕方ないな。隊員を危険にさらさないためにも、さっさと即時反撃ができるようにしたいものだが…」
領海侵入があってようやく自衛隊に海上警備行動を発令できる可能性が生まれるほど動きが取れないのが日本である。現状何も起こっておらず、公海上を通過しただけであり、せいぜいできるのは自衛隊による中国軍艦艇の監視くらいだ。
「もし監視している艦艇や航空機に攻撃を受ければ、即座に防衛出動をかけられるよう準備を進めておいてくれ」
「了解しました」
「自衛隊には、出動準備を進めるよう伝えてくれ。特に、新しく領土となった十山列島は攻撃を受ける可能性があるからな」
「すでに外交文章として中国側には送っていますけどね。あちらのロジックでは国家が存在しない陸地であるため、領土交換には法的根拠がない。よって、すぐに退去しないならば、日本とは関係のない人間が不法に占拠をしていると解釈するとか言ってましたっけ」
「すでにメディアなどを通してしっかりと発表しているから中国側に正当な理由がないとこは明らかであるのに。あれではたとえ中国が勝っても国際世論を味方につけることができないぞ」
国際世論は、実際は中国の首脳部にとってはかなりどうでもいい話なのだ。国内で自分の一族が繁栄できるかどうかが重要なのである。
「少なくとも、中国は日本国民がいることを関知しないということですね」
「というかアメリカが動いてくれないのは残念だったなあ」
「アメリカは自国の利益になるかどうかが最優先ですからね。同盟はそのうえで判断される。今、中国と渡り合うのは国益にそぐわないということでしょうな」
「大列島国はカンカンに怒っていたがな」
世界で唯一大列島国が持っている魔導技術。その中には現状極秘ではあるものの、世界を大きく変えうる可能性を持つものまで含まれていたのである。そう、それこそ、各国のGDPや軍事力バランスがひっくり返るほどに。
しかし、アメリカは目先の利益を追求して、軍を動かさないことを発表している。アメリカの諜報も、大列島国の情報はまだ集めることができていないのだ。
そして、約束を守らないことを嫌う大列島国では、日本がわざわざ紹介した相手であるからと、渋々ながら国交の締結交渉のテーブルに着いた。それがこうもあっさりひっくり返されるのは、憤慨ものなのだ。
「まあ、現地の技術を知っているのは我々だけですからね。無理もありません」
「実際に知ったら血眼になって取りに来るはずだがね」
はは、と肩をすくめて笑う。
「さて、我々がいま行うべきは、戦後についてだな。外国との初の軍備融通を伴う相互防衛条約はすでに案が出来上がっている。あとは、賛成票を増やすだけだ」
日本としては、自らが攻撃を受けない限り、動けない。それまでは、戦後処理を思い描くしかないのだ。
「大列島国にいる日本国民は現在127人。首都にある大使館で守護していただいていますから、問題は作った研究施設などが破壊されないか、ということですね」
「それこそ国民の生命と財産を守るために防衛出動するしかないからな」
そういってコーヒーを一口飲むと、再び書類に目を落とした。
この紛争(?)は、世界中の注目を集めてもいた。異世界の軍事力を知るにはいい機会であるうえに、もしかすると、日本も参戦する可能性があるためである。
一般的には、兵器はスペックよりも実戦の経験を知っている国のものかどうかで、評価が大きく変わる。それがたとえ敗北であっても実戦ということになり、大きなアドバンテージになる。特に、日本の兵器に興味はあるものの能力が未知数で手を出さない国からすれば、いい評価対象なのだ。興味がなくても、日本の技術水準が今どの程度なのか、知りたがっている国は多い。
そういった事情から、各国は日本や中国へ人員を移動させ、最大限の情報を集めるべく、暗躍していたのである。
すでに危険な状況になっている西太平洋は、重く雲が立ち込めていた。




