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005近づく戦場


 中国人民解放軍海軍・派遣部隊


「現在、北緯31度23分50秒、東経143度16分3秒、目標島嶼まで1,254kmほどです」

「まだ自衛隊の艦艇が追尾してきてます」

「放っておけ。どうせ一隻じゃ何もできないだろう」

「...ですな」


 いつものごとく、党から派遣された政治将校が乗艦しているが、追尾してきている日本の軍艦への興味は薄いようだ。交戦している事実はないが、もはや敵対していることには疑いようがないのに。呑気なことだ。


 以前は政治将校とも仲良くやっていたが、最近は中央での権力争いが激しくなってきたのか、こちらに必要以上の成果を求めてくる。しかも上手くいかなかった時には責任はこちらが取らなければならない。


 有事がなければそれでもいいのだが、こんな状況下で無理強いされても困るのだ。


「しかし、実害はないとはいえ周りから監視されるのは気になるな」

「まるで日露戦争時のイギリスみたいですね」

「まあ日本はともかく我らの相手は未開の国家だから衛星なんて持っていないだろう。写真でも撮って見せるくらいしか出来ないんじゃないか」

「かもしれませんね」


 中国人民解放軍の情報収集部隊は無論事前の調査を既に終えている。というかまだリアルタイムに更新をしている。既にどんな都市が存在しているのか、軍事力は如何程か。そして経済規模や資源などはAIによる画像分析によってある程度特定されているのだ。


 その調査結果は、相手国家がおそらく戦列艦と戦艦の間の技術水準を持つ国家であり、装甲を貫通させるのは不可能ではないが効率が悪すぎるため、マストなど、上部の構造物を破壊する、もしくは魚雷による攻撃で撃沈せしめる方法が考えられるという結果を示した。これまた、明治日本の戦略と同じである。


 奇しくも、今と昔との戦いは装甲を貫くことができるかどうかという点で類似していたのである。


「そういえば原住民は魔法とかいう技術を持っているんだろう?御伽噺の産物だが、実際にはどんな効果があるのか想像がつかないな」

「まあ火を飛ばしたり水を飛ばしたり...とかですかね」

「いや、魔法が生活の隅々にまで浸透していて、装甲艦を持つ国家だぞ?ボイラーとか魔法でやってたりしないだろうな」

「マストなどがあるから風を生み出したりして進んだりするんですかね」


 今のところ暇なので相手がどんなものか、話題が尽きない。国内でも、メディアはこぞって新しい陸地のことについて特集を組んで報道している。情報のソースがほとんど日本の報道によるものであるが。



「司令、前方にいる蕪湖(054A)から妙に魚が多いと報告が来ました」

「魚が多い?なんだその報告は」


 日本や他国の潜水艦を発見したとかではないのか?


「いえ、いつもは艦が通ると音に怯えてさっさと逃げていく魚が多いのに、今日に限って我々の艦隊の下に張り付くようにいるそうなのです」

「なんだそれは?誰か餌でも巻いているのか?」

「流石に餌を撒くなんてことはないと思いますがね。残飯くらいなら捨ててるのがいるかもしれませんが」

「でかい音を放っている艦の下にわざわざ来るなんてことは普通ではないと思うがな。というか、この下にもいるのか?」

「はい。群れがいるみたいです」

「そうか...」


挿絵(By みてみん)


 普通航行している船は大きな音を立てているため魚が近づいてこない。いくら軍用の艦艇が騒音対策がなされているといっても、魚にとっては同じようなもの。ということは、別の理由があるはずだ。


「レーダーに反応はあるか」

「いえ、後方の自衛隊以外は特に確認されません」

「ソナー」

「同じく大きな反応なし。確認できるのはアメリカ潜水艦のものです。あと魚ですかね」

「その潜水艦は監視役だな。どうせ仕掛けてこないから放っておけ。ううん、何もないのか」


 普段ならありえない魚の行動。流石に餌を求めてやってきたというわけではあるまい。もしや、これが魔法という技術なのか?


 だが、現状ではこれが魔法なのか自然現象なのか、判断しようがない。魔法なんてどんな効果があるのかわからないし、自然現象なら気にするだけ無駄だ。


「構わん、各艦アクティブソナーを最大出力で送波せよ。潜水艦がいるかもしれないしな。魚も驚いて逃げるだろう。これで逃げなければ、何か魔法のようなもので操られているかもしれないとわかるだろう」

「了解です。各艦アクティブソナー送波準備。ODT(omnidirectional transmission )でやるからタイミングを合わせろ。あと、これは予防的な措置であることに留意するように通達しろ。余計な混乱を起こされてはたまらないからな」

「はい!『各艦に達する、アクティブソナー最大出力で送波準備。ODTにて行う。ただしこれは予防的措置である。繰り返す、これは予防的な措置である』」


 にわかに艦内が騒がしくなってきた。上層部がなんの根拠もなくソナーを最大出力で打つなんてことは考えにくい。何かあったのではないかと、全員がソワソワしている。無理もない。実践経験は中国海軍は皆無に等しい。そして相手はよくわからない島の原住民。緊張していたのだ。


「ソナー、準備完了です」

「よし!打て!」

「は!」






「...どうか?」

「潜水艦1、これは既知のアメリカ潜水艦のものです。それ以外に変化なし。まあこんな出力で食らったらソナーマンの耳がいかれるかもしれませんがね」

「魚はどうだ」

「いなくなった...というよりは高出力のアクティブソナーで死んだようです。艦橋ウイングから海面に魚が浮いているという報告が来てます」

「ならいい。予定通り、進路を取れ。ただし、動きが気取られているという可能性があることは忘れるな」

「了解しました」



⭐︎⭐︎



護衛艦もがみ艦橋


「うがあああ!!!」

「なんだ、どうした!」


 突然、ソナー担当が耳を押さえて悶絶する。何だいったい。


「中国海軍がソナーを使ったみたいですね。しかも出力がかなり大きいようです」


 耳を押さえて蹲っている担当官が医務室へ運ばれていく側で、AICICのラージスクリーンに自動的に何があったのか表示される。


「何かあったのか?索敵をこんなところでやっても意味がない気がするが」

「あ、それは我々のせいかもしれません」


 大列島国から来ている観戦武官が手を挙げる。


「ほう?何かやったのですか?」

「いえ、本国から魚を使って敵の位置を把握しているのですよ。攻撃する手段などはないので、単に位置を知るためだけになります」

「そんなことができるのですか」


 もがみの艦長は驚いて大列島国の観戦武官を見る。


 魚を操って偵察をするなんて現代では不可能だし、機械的なものがない以上、壊れるなんてことはない。魚が死んでしまうまで、誰にも気付かれることなく相手の動きを探ることができるなんて、世界の軍事バランスが崩壊しかねない。


 待てよ。魚が可能なら昆虫や鳥なんかも可能なんじゃないか?ま、まずい。機密なんて無いようなものじゃないか!もしかすると一定以上の大きさの生物でないといけないなんてこともあるのかもしれないが、それでも我々科学文明にとっては危険だ!友好国でよかったぞ...


「すごい技術ですな」

「いえいえ、人が偵察できるような状況ではなかったのでね。必然的にこういった手段でやるしかなかったんですよ」

「...」

「もっとも、偵察しても食い止められるような状況ではなかったのですけどね」


 自嘲した表情を見せているが、この世界なら本当に役に立つ技術だ。魔法が使えない我々からすれば、垂涎の力だろう。他国が狙って住民の拉致なんてことを考えるかもしれん。


 日本と大列島国とでより強い友好関係をつくりあげることが重要だな。上層部がどう考えているかなんてわからないが、仲良くしていて損はない。


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