8.私の技に抱く感想は人それぞれなのですね
「わたしは長沼だ。そしてこっちが息子の真司と娘の真奈。………本当に助かった。心から感謝する」
「すごかったね、君!あんな遠くから、ハイエナみたいなあの怪物を追い払うなんて!」
「いえ………倒すつもりで投げたのですが、外してしまったので」
「だけど、私のお父さんを助けてくれたよ!ありがとう!」
お子さんたちは中学生といったところでしょうか。
お礼を無碍にするのも無礼というもの、ここは素直に受け取っておきましょう。
「私は千影空と申します。お気になさらず、たまたま目についただけですので」
「わあ、礼儀正しくて可愛いね!」
「小さいのに感心だ。きっと素晴らしいご両親に育てられたのだろう」
なんだか私の評価がうなぎのぼりなのですが………両親、ですか。
顔はやたらと渋いですが、母に逆らったところを見たことがない父様。
とても三人の子供を産んだとは思えない若々しさですが、腹黒で人を追い詰めるのが三度の飯より好きな、しかも千影流の歴代でも十指に入る実力者とされる母様。
素晴らしい、両親………?
「………微妙なところですね」
「え?」
「いえ、こちらの話です。それよりも、あなた方はどこに向かわれるおつもりなのですか?」
「ああ。真奈と真司が通う中学に避難しようと思って出てきたんだ。私たちが住んでいた住宅街は、瞬く間にあの怪物たちに占領されてしまってね」
ここから一番近い中学となると………。
「天真中学校でしょうか?あそこまでの道のりはさっき通ってきたので、今ならモンスターが少ないと思います」
「本当かい、それは助かる!………ん?なんで君が通った道のりにモンスターがいなくなるんだ?もしかして、奴らを追い払う方法を知っているのかい?」
「いえ、ただ単純に軒並み倒しただけです」
放置していたら、あの高校が危ないかもしれませんでしたからね。
正直さんざんな目にあわされましたのであまり関わりたくはありませんが、あそこには多数の民間の方々がいます。捨て置くというのも忍びなく、一応周辺のモンスターだけは狩っておいたのです。
「つまり君は、あのモンスターの弱点を知っているのか?」
「いえ、普通に倒しました。家が体術の家系で、幼いころから身に沁みついているんです。あのモンスターたちは愚直に向かってくるだけなので、割と簡単に」
「ほう、それは………………危ないっ!!」
突如、長沼さんが声を上げました。
後ろを振り向くと、そこには刃物を持った魔物がいて、私を貫こうとしてきています。
話に夢中で周囲への警戒を怠るとは一生の不覚………などと思ったのですが、どうやらそういう問題ではなさそうです。
そのモンスターは、なんと自らの皮膚が周囲の背景そっくりの色になっていたのです。
おそらく、カメレオンの上位互換のような存在であり、擬態能力だけでなく、気配を遮断する力も持つ個体なのでしょう。厄介と言わざるを得ませんが。
「こうして出てきたということは………攻撃の際には姿を見せなければならないルールなのですね」
それならば話は簡単です。この魔物が私を貫くより早く、絶命させればいい。
「千影流『弓形露・拡波』」
威力は落ちますが、広範囲に衝撃を与える『拡波』。
私の攻撃はカメレオンモンスターの全身を突き通り、そのままカメレオンは吹っ飛び、動かなくなりました。
「これでよし………あ」
しまった。またやってしまいました。
つい先ほど、私の技は人に恐怖を与えるのだとわかったばかりだというのに。
独り暮らしを始める際、母様が『人様の前では極力流体術を使ってはならない』と助言を残して言った意味がようやく分かりました。
きっと彼らも、私を怖がってしまうでしょう。ならばやることは一つ。ここから去ることです。
「………驚かせてしまって申し訳ございません。私は、もう………」
「すっげえ!」
「行きますので………え?」
今、彼は………真司君は何と言ったのでしょう。
すごいといいましたか?
「何今の!かっこいい!君すごいな、どうやったんだ!?」
「い、いえ………ちょっと衝撃で吹き飛ばして………」
「すげえ!」
「小さいのにすごい!」
………なんだか、悪く見られてはいないようですね?
「あの、私の技、普通の人とはちょっと違いますよね?怖いとか思いませんか?」
「そりゃ、ちょっとはびっくりしたよ?でも、私たちのこと二回も助けてくれた命の恩人に、悪いイメージなんか持たないって!」
………まったく、もし私が本当にモンスターの仲間で、これがただのお芝居だとしたらどうするのですか。
ですが。今の私には、その言葉が嬉しかったのです。
怪物扱いされたこと、意外と気にしてたんですね、私は。
「さて、天真中へ向かおう。こうしている間に、怪物が集まってきたら大変だからな」
※※※
私は彼らを護衛しつつ、中学校へたどり着きました。
身分証とかなんとか、いくつかのものを見せたのちに校舎内に入れてもらえました。
「ところで………空ちゃん、だっけ?君はこのままここにいるの?」
「ええ、まあ可能ならば。実家に帰るめどが立ち次第、去ることになるとは思いますが」
私の家からここまでは、かなり遠い道のりです。運転免許を何一つ持っていない私では、到底一人でたどり着ける場所ではありません。
家の迎えを待つか、送ってくださるという親切なお方を見つけるしかないでしょう。
「そっかー、大変だね。あんなすごい武術教えてくれるところだもん、やっぱり山奥にひっそりとあるとか?」
「いえ、田舎ではありますが、コンビニとそこそこ大きな町が車で二十分圏内にありましたよ」
「な、なんかイメージが壊れた………」
廊下を歩きながら真奈さんとそんなことを話していると、正面から人が来ました。
おや?あれはもしかして。
「島村さんですか?」
「え?………千影さん!わー、さっきぶり!」
「ええ。無事ここにたどり着けていたのですね。てっきり高校に避難したものかと思っていましたが」
「うん、そうしようと思ったんだけど………実はお母さんと弟と一緒に避難してるときに、また怪物に襲われちゃって。でもここの人たちが助けてくれてさ」
やはり、さっき私がコンビニまでの道のりを一緒に歩いた同級生、島村さんでした。
「それはよかった。あっちにはいかなくて正解です、あの高校は今、篠田先生がリーダーと持ち上げられていますから。私の技でモンスターを追い払ったら、私もモンスター扱いされて追い出されました」
「はああ!?あのエリートぶり教師、自分の生徒追い出したの?信っじられない!」
他人のことにここまで憤慨できる。やはり彼女はいい人です。
「あ、あの!島村先輩ですよね!?」
「ん?………あ、真奈ちゃん?君も無事だったんだ!」
「はい!」
おや?真奈さんと島村さんはお知り合いなのでしょうか。
「お二人はどういうご関係で?」
「水泳部の先輩後輩だよ」
「ところで………空ちゃんと先輩こそ、どういうご関係なんですか?」
「同じクラスの同級生です」
「同時に、私の命の恩人だよー」
命の恩人とは大げさな。
あの時は、私自身もモンスターの強さを知ることができた貴重な時間だったのだし、おあいこです。
「へー、そうだった………………………え?同級、生?………………え、えっと………………空ちゃん。いえ、空さん。………………今何年生?」
「高校一年生ですが」
「………ええええ!?」
あ、やっぱり年齢を下だと思われていましたか。
こうなることなら、高校の制服でも着て出てくるんでしたね。




