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「敵が動き出しました! 敵は軍を半分に分け、山を両方より迂回。東に廻る軍が約六万、西に廻る軍が四万!」

 物見の兵が山の中から戻る。それを聞いたイザークは待っていたと言わんばかりに立ち上がる。

「よし! こちらも予てからの計画に基づき、軍を二分して敵を迎え撃つ! 皆の者出陣!」

「おう!」

 全員勢いよく返事を返し、それぞれの隊に戻る。俺達紅の翼は他の傭兵団と共に敵の四万の軍にあたる事になる。俺は今までの功績が認められ、副長の任を受ける事になっている。

『さて、生きて帰らないとな!』

 俺は、兜をかぶり直し、気合を入れる。

「行くぞ!」

 俺は団員に声を掛ける。その合図と共に全体が動き出す。友軍と共に足並みをそろえる。しかし、味方の一隊の動きが妙に早い。それに引きずられるように、周りの隊も足並みを乱していく。

 まずいぞ! このままでは隊列が崩れる。そうなってしまえば確固撃破される。

「伝令! 友軍の隊に足並みをそろえるように伝達しろ!」

 何人かの伝令が、友軍の方に向かって走って行く。しかし、その間にもどんどん隊列は乱れていく。そして、敵軍が見えだした頃にはもうほとんど、隊列は乱れて、まともな行軍にはなっていなかった。そして、そのまま戦端は開かれる。

『なんてこった! このままだとまずい!』

 俺はそう思いながらも、なし崩し的に突入してしまった戦いの中に身を投じる事になる。 確かに数の上では倍はいるだろう。しかし、そのどれもが軍としての行動が出来ていない。対して敵軍は軍としての行動を取り、規律正しく動いている。このままじゃ、俺達はただの烏合の衆になり、狩られるだけの存在になってしまう! 別動隊は傭兵ばかりで、正規軍がほとんどいない。功を焦った傭兵団が抜け駆けしようと隊列を乱して突入してしまったのだろう。もうこうなっては手が付けられない。とにかく、別動隊の将軍の所に出向き、一旦軍を下げさせなければ! 俺は将軍の下に急ぐ。将軍の旗印が見えた。俺はそれに駆け寄る。

「将軍! このままでは戦線が瓦解してしまいます! 一度軍を下げ、再編するべきかと!」

「ならん! このまま下がっても、敵に追撃を受ける! この勢いのまま突入せよ!」 

俺の言葉に将軍は耳を貸さない。だがここで俺も引く訳にはいかない!

「しかし、このまま突入しても、まともな行動はできません。今の内であれば、まだこちらの方が数は多い。殿は我が隊が努めます。ですからここは一旦下がって体制を立て直してください!」

「ええいうるさい! 私の言う事を聞けばいいんだ! 所詮傭兵の癖に大きな顔をするでない!」

「……解りました。では、このまま突撃いたします」

 くそ! どうすればいいんだ? このままでは、全滅してしまう! とにかく今は紅の翼だけでも生き残る事を考えよう。俺は、クラウディアとリーゼロッテの為に生きなければならない! こんな所で死ぬわけにはいかない。

「団長、どうしますか? このままでは我が隊も無事では……」

 団に戻ると、副団長が声を掛けてくる。

「解っている!」

 俺は副長にそう言って黙らせる。そして、敵軍の陣形をよく見る。乱戦状態にあるというのに、敵軍は規律正しく動き、ほとんど乱れもない。敵ながら見事な動き。しかし、よく見ると、敵の前衛の重歩兵の動きが遅い。あれだけの甲冑を着込んでいるのだ、それ程早く動けないのは解る。いや、それ以上に敵はゆっくりと行軍している事が解る。

 確かに、こちらの動きはもはや軍としての行動は出来ていない。しかし、その圧力はかなり物だろう。それに伴ってこちらが攻撃を仕掛けている場所、つまり中央の動きが鈍い。それに合わせるかのように両隣りの軍も歩調を合わせているのだ。今はまだこちらの数が多い。しかし、味方の数が減れば、その両軍はこちらの両側を挟み込むように動いて来るだろう。もしかすると、そこに敵の隙が生まれるかもしれない。その時まで、我が隊は動かない方がいいだろう。

 そう思い、見ていると、こちらの兵がだんだんと倒れていく。まだ数では多いが、すでに戦線は崩れかかっている。これを敵は好機と見たのだろう、両翼の陣が中央より少しずつ前に出てくる。そして、その動きと共に敵の陣形が少し乱れる。

「よし! これより敵の右側より攻撃をかける! イーリス一の傭兵団『紅の翼』の力を奴らに見せつけてやれ!」

 俺の合図と共に『紅の翼』は一斉突撃を開始する。重騎兵を先頭に、敵の重歩兵に突撃する。その衝突力は凄まじく、一瞬で敵の重歩兵を蹴散らす。そして、そこを突破口に徐々に敵軍の陣形を侵食していく。その勢いのまま敵軍の反対側に出る。中を食い破られた敵軍は混乱の極みだ。そして、俺達の攻撃に呼応するかのように味方が勢いを戻し、敵軍に迫る。しかし、敵軍も前衛に置いた重歩兵で何とか持ちこたえる。しかし、まだこちらの方が数は多い。何とか、拮抗状態を保っているが、それも時間の問題だろう。もう、ほぼこの戦いの勝敗は決した。

 そう誰もが思った時だった。

「我が軍の後方に敵影あり!」

 その言葉に俺はわが耳を疑った。敵の後方ではなく我が軍の後方? 主力はどうしたのだ? 敵に倍する兵力で向かったはずだ。それに、まだ俺達が接敵して半日くらいしか経っていない。やられるにしてもいくらなんでも早すぎる! そこでようやく、俺はその報告をした兵に聞き返した。

「味方の軍じゃないのか?」

「いえ、間違いなく敵軍の旗! このままでは我が軍は挟み撃ちにあいます!」

 そんな馬鹿な! いくらなんでも早すぎる! あのイザーク将軍がそんなに早く敗れる訳がない! しかし、確かに、あの旗は我が軍のどこにもない旗だ。それに、味方なら敵軍の後背に現れるはず。いったいどういう事だ!? しかし、間違いなく敵軍は俺達を挟撃しようと近づいて来る。このままでは包囲されて逃げる事も出来なくなる。とにかく、逃げるなら今の内しかない! 将軍に撤退を進言しなければ! 俺はそう思い将軍の下に急ぐ。しかし、将軍はすでに逃げ出しており、兵を指揮するべき存在は何処にもいなかった。

「なんてこった……仕方ない! これからは俺が指揮を執る! 全軍撤退準備!」

 混乱状態の兵にはなかなか俺の指令は届かないが、それでも、何とか半数位は動き出した。しかし、後ろには敵の本隊が迫っている。後ろには逃げられない。どうする? とにかく、俺は兵をまとめた。そして、混乱状態の味方を何とか元通りにする。そして、それを見た正面の敵軍も一旦体制を整えるべく兵を退かせる。俺は敵軍のその姿を見て、正面の敵を抜ける事を考えた。

「陣形を変える。重騎兵を先頭に、楕円の陣形を敷く! 急げ! 敵軍が後方に迫っているぞ! 大丈夫、俺の言う通りにすればみな助かる! 急げ!」

 隊列は瞬く間に整えていく。腐っても歴戦の傭兵たちだ。こういった場面にも慣れている。とにかく今は俺の言う事を聞いていてくれている。今のうちに、前面の敵陣を突破しなくては! 

 俺は紅の翼の副団長に声を掛ける。

「すまんが、紅の翼は殿を務める。もうひと踏ん張りしてくれ」

 そうこうしている間に陣形は整った。

「よし、前面の敵軍に対して突撃を駆ける! 突撃! 遅れるなよ!」

 俺の号令と共に、味方の兵は前面の敵陣に突撃する。重騎兵は前面の敵に喰い込み、敵はそれに呼応するかのように両方に分かれていく。そして先陣が敵陣を突破、そして、そのまま戦場を抜け出す。次は俺達の番だ。しかし、両側に分かれた敵が俺達の突撃を両方から圧迫してくる。

「拙い! このままでは挟撃されて逃げ出す事も出来ない!」

 そう思った時にはもう俺達は敵軍の中に孤立していた。しかし、何とかその中を果敢に突き進み、何とか突破を試みるが、ほとんどの者は逃げ遅れ、敵陣の中に孤立してしまった。

「くそ! 全体反転! 味方を救いだす!」

 しかし、その言葉を否定するかのように、副団長が言葉を掛ける。

「ブルース様! もう間に合いません! どうか、このままお逃げください!」

「しかし!」

「いえ、私はあなたを無事にイーリスまで送り届けなくてはいけません! 残された者もそれを望んでいるはず!」

 俺は副団長の言葉に返す言葉がない。

「さあ、早く! この場は落ち延びて下さい!」

「すまん!」

 俺はそう言う事しかできなかった……


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