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「イーリス傭兵団『紅の翼』団長ブルース・イーリス・オーフェンフィールドだ。将軍に御目通り願いたい」
俺は今回の雇い主、コルティア王国の将軍の下に出向く。
「入れ」
「失礼します」
俺は幕舎の中に入る。中にはすでに何人かの傭兵団や正規軍の指揮官の姿が見える。机にはこの近辺の地図が広げられ、そこに配置されている数々の軍旗。もちろん、俺達『紅の翼』の軍旗も置かれていた。その場所は右翼後方。
「よく来てくれた。今回の戦も頼む」
コルティア国の将軍、イザークは俺に手を差し伸べる。その差し伸べられた手を俺は強く握り返す。イザークとは何度も戦場で肩を並べた仲だ。気心も知れている。
「おや? ザイーツの姿が見えんな? それにカインも。どうかしたのか?」
「はい。ザイーツはこの度新たな傭兵団の指揮官として別の戦場に派遣されております。カインは別の任務に就いておりますゆえ、此度の戦には参加できません」
「そうか。ザイーツが団長か。奴ならいつかはそうなるとは思っていたが……まあいい。とにかく今回の戦もよろしく頼む。早速だが軍議に掛かりたい良いか?」
「ハッ!」
俺はそう言って並んだ指揮官たちの端に立つ。それを見届けると、イザークの隣経つ男が話始める。
「この度の戦、私、イーベル・シュタインメフが指揮を取らせていただきます。以後お見知り置きを。早速ですが、現状を説明させていただきます」
イーベルは地図に向かって指揮棒を振るう。
「我が軍は十八万の軍を持ってこのように陣を構えております」
俺達の軍は大きく広げられた翼のような陣形、鶴翼の陣と呼ばれる陣形を取っている。
「対して敵の軍は、我々に正対するような位置で山の向こう側にこのような陣形で待機中と情報を得ています」
小高い山を挟んで反対側に敵の陣がある。その陣は楕円形の先端をこちらに向けるような形。
「敵軍の陣容は半数は騎馬を、もう半数は重騎兵を主にした陣容になっております。恐らく、機動突撃を仕掛けて来るでしょう。山のどちらを廻って来るかは今の所解っておりませんが、敵は十万。どちらから攻めてこられても陣を動かす事によって、その敵を包囲殲滅する事が可能でしょう」
ふむ、確かに数は圧倒的にこちらが多い。数は力だ。本来なら敵の三倍は用意して戦にあたるのがセオリーだ。まあ、さすがに三倍とまでは行かなくても、約倍だ、俺が敵の指揮官ならなら攻める事もせずに撤退しているだろう。しかし、敵は俺達と戦う気満々のようだ。その自信はいったいどこから来るのだろう?
「もし、敵が二手に分かれて回りこんで来たらどうする?」
イザークがイーベルに話しかける。
「その時はこちらも二手に分かれましょう。しかし、完全に二分という事はしません。敵の主力がどちらかを見極め、敵の主力に対してこちらの三分の二、十二万の兵で主力にあたります。そして六万の兵を持って、別動隊にあたります。これでも、我が軍は敵より数が多い。敵に負ける事はありますまい」
そこでイーベルは少し息を吐き、また話し始める。
「敵の主力にこちらの主力をぶつけ、別動隊がこちらの主力の背後に廻ろうとする敵の足を止めます。こちらの主力が敵の主力を殲滅し、そのまま山を廻り、敵の別動隊の背後に廻り、これをこちらの別動隊と共に挟撃する」
確かに上手くいけば楽に勝てそうだ。この作戦通りに行けば俺達の出番はほとんどなさそうだ。しかし……どうも引っ掛る。
「敵の別動隊がいる可能性はありませんか?」
俺の質問にイーベルは答える。
「確かにその可能性も無くは無いでしょう。しかし、現状戦場から一日の範囲の内にはそのような大群の別動隊は何処にもその姿は見えておりません。仮にいたとしても少数の部隊でしょう。少数の部隊ならこちらの数を持ってすればそれ程の脅威にもなりますまい」
確かにそうかもしれない。しかし、何かが引っ掛る。なんだ、この嫌な感じは?
「なんにせよ、我々は圧倒的多数をもってして敵にあたる。しかし、戦は何が起こるか解らん。気を緩める事無く事にあたってくれ! 以上だ」
イザークの言葉で軍議は解散となった。




