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リーゼロッテが生まれ一年。紅の翼についに次の戦場が言い渡される。それと同時に新設の兵団漆黒の翼にも任務を言い渡された。本当なら、今はまだクラウディアといっそにリーゼロッテのそばにいてやりたい。しかし、イーリスが傭兵を産業としている限り、それはどうしても拒否する事は出来ない。しかし、親父ももういい年だ。この戦いが終われば、俺も親父の後を継いでイーリスの国王になるだろう。もっとも、俺は国王なんてガラじゃないのは解っているが、それも仕方のない事だろう。
出兵が決まった日、俺はクラウディアにその話をした。
「クラウディア。次の出兵が決まった」
クラウディアはその言葉を聞くと、少し表情を曇らせたように見えたが、それでも気丈に返事をする。
「はい。それで、いつお発ちになられるのですか?」
「ああ、準備ができ次第だ。そう時間は掛からないだろう。恐らく十日後にはイーリスを発つことになるだろう」
「解りました。では、急いで準備をしなくてはなりませんね」
クラウディアはそう言うと、部屋を出て行く。そして、少しして戻ってき来たクラウディアの姿に俺は驚いた。
「クラウディア……その恰好はなんだ?」
そう、驚いた。クラウディアは白銀のプレートアーマを着込み、右手には大きな宝珠の付いた杖を持っている。まるで、戦場にでも行くかのような姿だ。
「ふふふ。似合いますか?」
俺は茫然とした。なんだってクラウディアはこんな姿をしているのか? 戦場に一緒に着いて来るとでも言うのだろうか? 確かに、戦場にでもついてくるとは言っていたが……本当にその気なのだろうか?
「まさか……クラウディア……」
「はい。私もお供いたします。こう見えてもイーリスに来てからかなり治療魔術も上達いたしました。もちろん、剣を振るう事はできませんが、傷ついた兵を癒す事はできます」
「いや、しかし戦場はそんなに甘いところではない! 駄目だ! クラウディアを危ない目に合わせる事は出来ない!」
俺はクラウディアを大きな声で叱りつけた。しかし、クラウディアも引かない。
「解っております。しかし、あなたと離れるのは嫌です! 私はあなたの傍にずっといると誓いました。ですから戦場でもどこでも私はあなたのお傍にいます!」
今までこんなに力強い声を聞いた事はなかった。それだけクラウディアも必死なのだろう。しかし、必死なだけでは戦場では生きていけない。俺だってクラウディアを守りきる自信は無い。
「クラウディアが来たらリーゼロッテはどうする? まだリーゼロッテは幼い。そんなリーゼロッテを置いて行くのか?」
俺の言葉にクラウディアは返す。
「確かにリーゼロッテはまだ幼いです。しかし、この国にいればあの子は無事に育ちます。無責任な親と思われるかもしれません。しかし、どうしても此度の戦には私もお供しとうございます。どうか、お聞き入れください。どうか、どうかお願いいたします……」
「なぜ……なぜそんなに俺の傍に?」
「…………解りません。しかし。このままこのイーリスに残ると私は絶対に後悔してしまいそうで……怖いんです……あなたが帰って来ないんじゃないかと……」
クラウディアはそう言うとその瞳から涙が零れた。
「大丈夫だよクラウディア。俺は必ず帰ってくる。だから、リーゼロッテと一緒に俺の事を待っていてくれないか? それに、この戦が終わればもう俺は戦場に出る事は無いだろう。親父もいい年だ。そろそろ俺に王位を譲るとも言っている。だから、クラウディアは俺の事を待っていてくれ。必ず帰って来るから……」
俺はクラウディアをそっと抱きしめる。クラウディアは無言で俺の胸に顔を埋める。
「いいねクラウディア?」
黙ったままクラウディアはこくりと頷く。
そして、俺達紅の翼は戦場に赴くことになった。




