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 結婚して一年が過ぎた。その頃にはようやく紅の翼は元の規模を回復し、もういつでも戦場に出れるような状態になっていた。俺はその訓練風景を見ている。そして俺の傍らにはいつも微笑みかけてくれるクラウディアの姿。そして、クラウディアのお腹の中には新しい命が宿っていた。

「その……クラウディア?」

 俺はちょっと困ってクラウディアに話しかける。

「なんですか?」

「いや、その、そろそろお腹も大きくなってきてる。もう、そろそろあまりで歩かない方がいいんじゃないか?」

 俺の言葉にクラウディアは笑顔で返す。

「いえ、大丈夫です。ちゃんと解っています。本当に良くない時には出歩かない様にしていますから」

 いや、そうじゃなくて、もういつ生まれてもおかしくないんだから……俺はそう思いながらも困った顔をしてしまう。

「それに……」

「それに?」

「何時あなたは戦場に行ってしまうか解りません。少しでもあなたのそばにいたいのです。ご迷惑でしょうか?」

 上目使いで俺の方を見るクラウディア。こういう表情をされるとダメとは言い難い。しかし本当は今はとにかく家で大人しくしていてほしいのだが……

「いや、クラウディアがそう言うんであれば……」

 俺は思わずそう言ってしまうと、クラウディアの顔はパッと綻んで俺の顔を見る。その笑顔に俺は弱い。

「はぁ……」

「どうかしました?」

「いや、なんでもない」

 俺はそう言うと訓練の様子を一通り視察して、王宮に帰る。王宮に帰る馬車の途中、新設された傭兵団『漆黒の翼』の演習風景を眺めていた。新しく編成され、強者揃いと噂される漆黒の翼。その初代指揮官にはザイーツが任命されていた。

 イーリスの傭兵団の中でもかなりの練度と、その機動力は一目置かれている。それを率いるのがあの百戦錬磨の指揮官ザイーツなのだ。そうなれば漆黒の翼はイーリス一と言われた紅の翼をも凌ぐと言われるのも解る気がする。まあ、実践にまだ出た事が無い兵団だ、戦場でどうなるかはまだわからない所もあるだろう。しかし、紅の翼よりも多くの富を漆黒の翼はもたらしてくれるだろう。

 俺はその訓練の風景を横目に見ながら馬車に揺られている。ふと横を見るとクラウディアが辛そうな表情をしている。かなり辛そうな表情だ。

「どうしたクラウディア!? 大丈夫か?」

「はい……ま、まだ大丈夫だと思います……」

「ク、クラウディア!? もしかして、生まれそうなのか?」

 かなり焦っておろおろしてしまう。どうすればいいのか? とにかく、早く王宮に帰らねば!

「だ、大丈夫です。それより、誰かをお城に行かせて直ぐに準備をさせてもらってください」

 クラウディアは辛そうな顔をして俺に訴えかける。

「わ、解った!」

 俺は外にいる護衛に声を掛ける。

「おい、クラウディアが危ないんだ! とにかく今すぐ王宮に行って準備させておいてくれ! とにかく急いでくれ!」

 そう言われた兵士は何の事か解らない感じだったが、俺の顔がかなり切羽詰っていたのか、否応なく王宮に馬を走らせた。そして、御者に向かってまた叫ぶように言ってしまう。

「おい、王宮に急げ! クラウディアが危ないんだ!」

 御者も何が何だかわからないが、とにかく馬を急がせた。

 かなり急いだ成果、乗り心地は最低だったが、それでもかなりのスピードで馬車は走り、王宮に辿り着いた。辿り着いてすぐ、俺はクラウディアを抱え、医者の下に走る。先に着いた兵は何事か要領を得ない説明をしていたようで、クラウディアが生まれそうだとは説明はできていないようだ。それでも、医者は待機しており、すぐに出産だと気が付いた医者は、産婆を呼んだ。そしてクラウディアは医者に運ばれ、部屋の中に運ばれていく。俺はその部屋の前でおろおろと、して扉の前を行ったり来たりするしかできなかった。それをどれくらいの時間繰り返していたのか、静まり返った廊下に麗らかな天使の様な鳴き声が木霊する。俺はその声を聞いて、すぐに部屋の中に入ってしまった。

 するとそこには、大きな声で鳴く赤ん坊。そして、それを愛おしそうに見つめるクラウディアの姿。

「あなた。生まれましたわ。元気な女の子です」

 俺はその言葉で我に返り、クラウディアの下に歩み寄る。そこには真っ赤な顔で、元気いっぱいに泣く赤ちゃん。

 クラウディアは赤ん坊を俺にそっと渡す。それを俺はゆっくり、そして優しく抱き留め、その顔をじっくりと見る。薄らと金色の髪を生やし、眼は青い。クラウディアにそっくりなその赤ん坊。しかし、どことなく見覚えのある様な、懐かし瞳だ。

「ありがとうクラウディア」

 クラウディアは微笑む。俺もそれに笑顔で返す。

「名前は考えておいていただけましたか?」

 クラウディアの言葉に俺は慌てた。いや、考えていなかったわけではない。しかし、考えていた名前は、この子の眼を見て吹っ飛び、俺の中で浮かんだ名前を口にした。

「リーゼ……そう、この娘の名前はリーゼロッテ。リーゼロッテ・イーリス・オーフェンフィールド」

「リーゼロッテ……良い名前ですわ」

 クラウディアは微笑んで、手を俺に差だす。その手に俺はリーゼロッテをゆっくりと渡す。リーゼロッテを受け取ったクラウディアは、愛おしむ様にリーゼロッテを抱きしめる。

「リーゼロッテ……」

 クラウディアは微笑み、もう一度リーゼロッテの名を呼ぶ。

 こうして、俺とクラウディアの子供、リーゼロッテは無事生まれた。

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