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俺はクラウディアを避けて過ごした。別に彼女が嫌いな訳ではない。魅力的ではあるし、話をすると彼女の頭の良さも解る。リーゼの事が無ければ或いは結婚も考えただろう。しかし、今はシャーリーンも見つかっていない。せめてシャーリーンが見つかるまでは、そんな事を考える余裕はない。それにシャーリーンにも悪い。
しかし、それでも彼女は俺のそばを付いて歩いた。俺が避けている事を解っているはずなのに、それでもクラウディアは俺のそばから離れようとしなかった。
何度か彼女を撒こうとしたが、その度に彼女は俺の場所を見つけ出して、そばから離れる事は無かった。
「その……なんで、クラウディアはそんなに俺のそばから離れないんだ?」
俺はたまりかねて思わず聞いてしまった。
「ブルース様は眼を離すとどこか……どこか手の届かない遠くに行ってしまいそうで……それが怖くて離れる事が出来ません。ご迷惑でしょうか?」
「いや、だとしても大声で宮廷内を叫んで歩くのはどうかと……」
そう、クラウディアは何も言わずにそばから離れると必ず泣きそうな声で大声で俺の名前を呼んで歩くのだ。その声があまりにも可哀想になり、俺から出て行くか、従者が俺を探して見つけ出す。まあ、もっともかくれんぼをしている訳じゃないから、仕事をしているだけなのだが……
クラウディアに付きまとわれるようになって三ヶ月が過ぎようとしていた頃、俺の下にカインから手紙が届く。俺はカインの手紙を読んで落胆する。どうもシャーリーンは奴隷商人に売られたようだ。今はその後を追っているが、捜索は難航しているらしい。
その手紙を読んで険しい顔をしている俺を横で不安げに見るクラウディア。
「どうかされましたか?」
もうこの頃にはクラウディアがそばにいる事はそれ程苦にはならなくなっていた。
「ん? そうだな……」
どうするべきか? クラウディアにこの事をちゃんと話した方がいいだろうか? 少し考える……やはり話していた方がいいだろう。
「クラウディア、俺は以前出兵した時に拠点にしていた村で家族を持っていた」
俺の言葉を聞いたクラウディアは特に顔色を変える事も無く、話を聞いている。
「妻と子供……そう、娘が一人いた。ある日、俺が村を出て戦場に赴いた後、その村を盗賊の集団が襲ったらしい」
俺の言葉を、クラウディアは悲しそうな眼をして聞いている。その瞳は決して憐みや同情というような感情ではない。本当に、悲しみを讃えた、そんな眼をしていた。
「俺は急いで戦場から村に駆けつけたんだが、もうその時には村は殆ど壊滅状態だった。そして、俺は妻が……リーゼがこの手の中で……」
それ以上続けれなかった。今でもあの時の事は俺の中で消化しきっていない。未だにリーゼをあんな目に合わせた奴に復讐をしてやりたいと思う。
俺が言葉を詰まらせてしまうと、クラウディアは俺の隣に立ち、そっと俺の頭を撫でる。その手の動きと、柔らかさに俺は落ち着きを取り戻し、何とか話を続けることが出来る位までは落ち着いた。
「すまない……」
呼吸を整え、俺はまた話す。
「その時娘、シャーリーンの姿は見えなかった。どうやら盗賊に連れ去られてしまったようだ。その後すぐに捜索したかったが、それが出来るほどの時間も無く、俺はそのまままた戦場に戻ってしまった。そして、戦争が終わって、国に戻ってからカインに捜索して貰ってる。しかしまだ……」
クラウディアは俺が話す間黙ったままで、さっきまで俺の頭を撫でていた手は今は俺の手を優しく握っている。その手の柔らかさに、俺は何処か安心し、満たされるような気持ちでいた。
「すまない。こんな話は聞きたくないだろうな……とにかく。シャーリーンの事もある。それにリーゼの事も忘れる事なんてできない。そんな気持ちでは君とは結婚なんてできないだろう。だから、この結婚は無かった事に……」
「忘れる事が出来るはずなんてありません。いえ、忘れる必要なんてありません」
俺の言葉を遮る様にクラウディアは話し出す。
「ブルース様のお辛い気持ちは、私にはちゃんと理解する事は出来ないかもしれません。でも、過去にばかり囚われていては、前に進むことはできません」
クラウディアの言葉は俺の中で何かを変えた。いや、変えようという一歩を踏み出させてくれるような気がした。もちろん直ぐに気持ちを切り替えられるわけではない。しかし、それでも俺は歩き出す事が出来そうな気にはなってきた。
「ブルース様。私はずっとあなたのお傍にいます。どんな事があってもあなたの事を支え続けます……」
クラウディアの眼を見る。その瞳には暖かな、優しく、そしてどこか力強い眼差しが俺の事を見つめていた。俺は何処かその安らぎを与えてくれる眼に引き込まれる。
『ああ……そう言えばリーゼもこういう瞳をしていたな……』
俺はその瞳にリーゼを思い出す。




