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 カインが旅立って一カ月。そんなにすぐに見つかるとは思ってもいないが、やはり俺は何処か焦る気持ちがあるのか、毎日を少し不安や苛立ちが混ざったような気持ちで送っていた。 

 そんなある日、親父から呼び出された。

「お呼びとの事で?」

 俺は玉座に座る親父に片膝を着いて礼をする。さすがに公の場では国王に向かって親父とは言えない。

「うむ、前にも話したと思うが、お前に紹介したい者がおる」

 親父はそう言うと、執事に目配せをする。すると、部屋の奥から長く綺麗な黄金色の髪の女性、いやまだどこか少女の様なあどけなさが残る女性が姿を見せる。

「この者をお前の妃にと思うてな」

 親父がそう言うと、その女性は俺に向かって恭しく挨拶をする。

「お初にお目に掛かります。クラウディア・リリス・シェフィールドと申します」

 俺は何が何だかわからない。 妃? えーと……俺がこの人と結婚する? つまりどういう事だ? 混乱する俺をよそに、親父は話を進めたようだ。

「では、一か月後に式を執り行う」

 未だに俺の頭の中は?マークがいっぱいだ。あまりにも唐突な出来事に理解が全然追いついていない。

「ちょ、ちょっと待て親父!」

 俺は思わず親父と言ってしまう。それ程に焦っていた。すると親父は俺に歩み寄り耳元でそっと一言。

「結婚するまでは手を出すなよ」

 普段は真面目な親父の顔が少しにやけながら俺の肩を軽く叩いて玉座に戻る。

はぁ? いや、違う! そう言う事じゃなくて……

 そう思っている間に親父は奥の部屋に消えて行く。

 いや、ちょ、ちょっと待て! 思わず叫びそうになったが、もうそこに親父の姿は無い。部屋には俺とクラウディアが残された。不安そうな顔で俺の方を見るクラウディア。

「殿下、私ではご不満でしょうか?」

「へ? いや、不満とかそう言う事じゃなくて……えーと、あの……」

「そうですか、ならば良かった。不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします」

 ニコリと微笑むクラウディア。その顔に思わずドキリと鼓動が高鳴る。しかし、俺はまだリーゼの事を忘れたわけではない。もしリーゼの事が無ければ、こうなっても良かったかも知れない。しかし、シャーリーンの事もある。今はまだそんな気にはなれない。

「と、とにかく。いきなりそんなことを言われても、まだ私も心の整理が出来ていなくて……とにかく、少し考えさて下さい」

 俺はそう言うとクラウディアを置いて部屋を出る。

『いったい何だっていうんだ? あのクソ親父!』

 俺は心の中で悪態をつくととにかく親父の部屋に向かう。そして、親父の部屋をノックもせずに開け、書類に眼を通す親父の前に立つ。それを特に気にする事も無く俺の事をチラリと見る親父。

「どうした、何かあったのか?」

 何事もなかったかのように言う親父。

「何かあったのか? じゃねぇよ親父! あれはいったいどういう事だ?」

 親父は人払いをする。そして、執事が部屋を出た後、徐に話しかける。

「なんじゃ、気に入らなかったのか? 美人で気立ては良いし、健康だ。早く跡取りを生んでもらいたくてな。なんなら式までの間に手を出しても……」

 俺は机をバン! と殴りつける。

「そう言う事を言ってるんじゃねぇ! どういう事なんだ? 前に手紙でも知らせたが、俺には……」

 俺はそこでリーゼの事を想いだしてしまった。

「俺には。なんじゃ?」

「俺には……俺にはリーゼがいる」

「いや、リーゼがいた。じゃろう?」

 親父の言葉で、さらに俺は現実を突きつけられる。

「ザイーツから聞いておる。 亡くなったそうじゃな」

 リーゼの最後の顔を思い出す。俺は何も言う事が出来ないでいた。

「娘も行方不明だとか言っておったのう? カインはそれの捜索か?」

 そう、俺にはまだシャーリーンがいる。そう思って口を開こうとした時、親父が遮る様に話し出す。

「どこの馬の骨とも解らん女の娘なぞ、わしは一切認めん。 仮にその娘が見つかっても、わしはここに留める事は認めん!」

 強く言い放つ親父。

「親父には関係のなっことだ! 俺は俺の好きなようにやらさせてもらう」

「確かにわしには関係が無い事かもしれん。しかし、この国、イーリスには大いに関係のある事じゃ! お前は王族としての自覚が足らん! お前には解っておるのか? お前はいずれイーリスを治めなければならん。 お前の一つ一つの言動や行動がイーリスを動かし、それが民草を苦しめる事にも、幸福を与える事も出来る。そんな無責任な事でどうする!」

「だからと言って今回の事とは関係ないだろう!」

「お前はまだわからんのか? どこの誰とも知らん者の子供など将来王として民草や家臣の尊敬を集める事は出来ぬ! そうなれば国は乱れる。それがお前には解らんのか! お前は王族として生きていかねばならん! お前がイーリスなのだ。だからお前はイーリスの為に生きねばならん! それが王族としての務めじゃ!」

 俺は親父の言葉に返す事が出来なかった。黙っている俺に親父は更に声を掛ける。

「頼むブルース。解ってくれ。これもイーリスの為なのじゃ」

 俺はただ黙っている事しかできなかった。親父の言う事は理解はできる。ただ、リーゼの事を直ぐに忘れる事なんてできない。いや、恐らく一生忘れる事などできないだろう。そんな気持ちのままでクラウディアと結婚などしても、幸せになどなれるはずない。

「クラウディアは良い娘じゃ。一度ちゃんと向かい合って見ろブルース」

 俺が親父の部屋を出る時に、親父はそう声を掛けてくる。

「ああ……」


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