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俺が気が付いたのはあの日から二日ほど経った日の事だった。馬に牽かれた荷車の上でゴトゴト揺られながらカインが俺に話してくれたのはこういう事だった。どうやら俺は腕の傷と、極度の緊張からすぐに気を失ってしまったようだ。
今はイーリスに戻る途上で、後もう少しでイーリスに到着するようだった。
『情けない話だ……イーリス一の傭兵団の団長が戦場で気を失ってしまうなんてな……』
何とか起き上がろうとするが、両腕の傷が疼く。
「まだしばらく寝ていてください。もう少しでイーリスに到着しますから」
カインにそう言われ、もう少しゆっくり休むことにする。少し退屈しながらも、辺りを見回す。顔ぶれは随分と寂しくなった……
「カイン、最終的なこちらの被害はどれほどなんだ?」
「約半分、一〇〇〇人が残っています。しかし、その中でもまともに動ける者は全体の三分の一ほど……」
「そうか……」
俺はその一言を言うのが精一杯だった。あの、精強で何処の傭兵団にも負けない程の傭兵団紅の翼がそれ程の損害。いや、紅の翼だからこれだけの被害で済んだのかもしれないな……しかし、これを立て直すのにどれだけの時間がかかるだろうか? まあ、いい。それは親父に考えてもらおう。俺が考えた所で、どうにかなる訳じゃない。それに傭兵は国としての産業だ。案外早く紅の翼も立て直されるかもしれない。また眠気が襲ってくる……
次に目が覚めた時はもう俺は王宮のベットの上に寝かされたいた。両肩には綺麗な包帯が巻かれ、ちゃんとした手当がされてある。
「眼が覚めたかブルース?」
俺に声を掛けるベットの脇に立った初老の男。
「ああ、親父か。久しぶりだな」
「ふむ、今回の出兵、順調だと思っておったが……解らんもんだな」
「戦場なんてそんなもんだろ?」
「そうだな。まあ良い。とにかく今はゆっくり休むがよい。傷が癒えたらお前に合わせたい者がおる」
親父はそう言うと俺の部屋を出て行く。合わせたい人? いったい誰だ? 俺はそう思いながらもベットの中でうとうととし、記憶が途切れる。
それから、傷の回復は順調で、半月もすればまた剣を握れるほどにまで回復した。そして、傷も完全に回復したころ、俺はカインを部屋に呼ぶ。
部屋をノックする音。恐らくカインだろう。
「はいれ」
カインは軽く頭を下げる。
「失礼します。何かご用でしょうか?」
「ああ、わざわざすまないな。実は、お前に頼みがある」
「なんなりと」
「シャーリーンの捜索をお願いしたい。そして、ここに連れ帰ってほしいんだ」
カインはまるでそれを予想していたかのように、全く表情を変える事無く俺の言葉を聞いていた。
「かしこまりました。では、すぐにでも出発いたします」
俺はさすがに驚いた。今からって、準備も何もなしに行くというのか? さすがにカインでもそれは無理だろう。
「いやいや、いくらなんでも、準備位はちゃんとしていった方がいいのではないか?」
俺の言葉を予想していたかのように話すカイン。
「いえ、いつそのように命令されても良いようにすでに準備は整っております。すぐにでも出発できます」
「そうか、ならもう何も言わない。よろしく頼む」
「はい、この命に代えても」
頭を少し下げ、部屋を出るカインを俺は見送る。
『頼むぞカイン……』




