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公開卓の端

挿絵(By みてみん)

数日後。

カイは中央市場の賭約院へ戻った。


参加するためではない。


入口で公開卓の一覧を確認し、そのまま一番外側の観戦場所へ向かう。


前なら、まず勝っている方を見ていた。


今日は違った。


卓の上。

参加者の手。

公開された札。

選択までにかかった時間。


そして、自分がそこから何を考えたのか。


一つずつ分けて見る。


目の前の卓では、三人の参加者が札を使った勝負をしていた。


詳しいルールは知らない。


だから勝敗を予想するつもりもなかった。


一人が二枚の札を交換する。


向かいの参加者が少しだけ姿勢を変えた。


カイはその動きを見た。


(気にした?)


そう思ったところで止める。


姿勢が変わった。


それは見えたこと。


交換された札を気にした。


それは自分の推測。


カイは小さな紙へ二つを分けて書いた。


しばらくして、その参加者は別の選択をした。


さっきの姿勢との関係は分からない。


それでもいい。


以前なら、何か一つ意味を見つけた時点で、次の動きまでそこから考えていた。


今は違う。


分からないものは、分からないまま残す。


次の卓を見る。


今度は一人の参加者が、札を出す前だけ指で卓を二度叩いた。


一回目。


二回目。


三回目。


毎回同じだった。


カイは紙へ書く。


『札を出す前に二度叩く。三回連続』


その横には何も書かなかった。


意味はまだ分からない。


少し離れたところから声がした。


「何してるんだ?」


聞き覚えのある声だった。


振り向くと、リグがいた。


「見てる」

「それは見れば分かる」

「じゃあ聞かなくてもよかったじゃん」

「何をそんなに書いてるのかって意味だよ」


リグが紙を覗こうとする。


カイは隠さなかった。


そこには、


『見えたこと』

『考えたこと』


と二つに分けて書かれている。


「なんだこれ」

「分けてる」

「何を?」

「本当に見えたものと、自分がそう思っただけのもの」


リグは少し黙る。


「昨日の勝負か?」

「うん」


カイは公開卓へ視線を戻した。


「俺、最初に一回当たったから、リグの視線に意味があるって思った」

「実際あったかもしれないぞ」

「かもしれない」

「なかったかもしれない」

「うん」


リグが笑う。


「面倒な見方するようになったな」

「前より楽だよ」

「どこが?」

「分からないことを、無理に決めなくていいから」


次のラウンドが始まる。


さっき卓を二度叩いていた参加者が、今度は何もせず札を出した。


カイの視線が止まる。


リグも気づいた。


「今のは?」

「まだ分からない」

「四回目で変わったぞ」

「それは見えた」

「じゃあ何で?」

「それが分からない」


カイは紙へ書き足す。


『四回目は叩かなかった』


それだけ。


しばらく二人で卓を眺めた。


リグは途中で別の卓へ移った。


カイはそのまま残った。


勝負には参加しない。


誰かに勝つ必要もない。


ただ見る。


そして、

見えたことと、自分が考えたことを分ける。


公開卓には次々と別の参加者が座った。


同じような動きが繰り返されることもあれば、一度きりで終わるものもあった。


カイの紙には少しずつ記録が増えていった。


けれど、その横の『考えたこと』の欄には空白も多い。


以前なら埋めたくなった空白だった。


今は、そのままでよかった。


帰る前。

カイは最後に紙を見返した。


分かったことより、

分からないまま残したことの方が多い。


それでも。


前回の勝負を見る前より、

少しだけ見えるものが増えていた。

【今回の補足】


今回はカイ自身は勝負に参加していません。


公開卓を見ながら、


「実際に見えたこと」

「そこから自分が考えたこと」


を分けて記録しています。


たとえば、


「札を出す前に卓を二回叩いた」

これは観察した事実です。


でも、


「緊張している」

「強い札を持っている」

「相手を誘導しようとしている」


となると、そこから先は推測になります。


同じ動作が何度も続けば傾向として見ることはできますが、

それだけで理由まで確定するわけではありません。


なので今回は、

分からないところを無理に埋めず、そのまま残しています。


第4話で記録と自分の考えを分け始めたカイが、

今度は他人の勝負を見ながら、それを実際に試している回です。

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