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見られる選び方

挿絵(By みてみん)

それから、ひと月ほどが過ぎた。


カイの生活そのものは、大きく変わっていない。


学校へ行く。

父の店を手伝う。

時間が合えば賭約院へ寄る。


小さな正式賭約にも何度か参加した。


勝つこともあれば、負けることもある。


ただ一つ。


卓についた時の順番だけは、かなり安定していた。


まず自分の条件を見る。


何が使えるか。

何が確定しているか。

何が分からないか。


それから相手を見る。


以前のように、相手の表情から先に意味を作ることは少なくなった。


カイ自身にとっては、それだけだった。


でも。


周囲から見ると、少し違っていた。


放課後の賭約院。


カイが公開卓の説明票を読んでいると、少し離れたところから声が聞こえた。


「やっぱり最初に札を見るな」


カイが顔を上げる。


誰が言ったのかは分からない。


何人かの参加者が、こちらを見ていた。


「何?」


近くにいた受付の職員が聞く。


「いや」


カイは説明票へ視線を戻した。


『観測のラウンド』


二人用。


全七ラウンド。


使用する選択肢は赤、青、白。


基本の勝敗関係はいつもと同じ。


赤は青に勝つ。

青は白に勝つ。

白は赤に勝つ。


ただし今回は、札を出す前にもう一つ選択がある。


相手が何色を出すか予測する。


予測は非公開で提出。


その後、通常の色札を一枚選ぶ。


双方が提出したあと。


まず予測を公開。


次に実際の札を公開する。


相手の色を当てていれば一点。


通常の色勝負に勝っても一点。


一ラウンドで最大二点。


カイは説明票を最後まで読んだ。


「これなら、見るのがルールなんだ」


受付の職員が笑う。


「そうですね」


対戦相手は、すでに卓についていた。


カイより少し年上に見える青年。


名前は参加表示に出ているが、カイには覚えがなかった。


相手が言う。


「君、最近よく見るよ」


「そう?」


「見てる人多いよ」


カイは周囲を見る。


視線がいくつか外れた。


「なんで?」


「選び方が変だから」


「変?」


「相手を見ない」


カイは首を傾げた。


「見るよ」


「最初には見ないだろ」


その言葉で、少しだけ意味が分かった。


相手は続ける。


「先に自分の札を見る。条件を見る。それからこっちを見る」


カイは卓を見る。


確かに。


そうしている。


でも。


自分では、変わったことをしているつもりはなかった。


「それが何かある?」


「だから今日、読めるか試したかった」


「俺を?」


「うん」


カイは少し笑った。


「いいよ」


立会執行官が席につく。


第一ラウンド。


予測札。


赤。

青。

白。


選択札も同じ三色。


カイはまず自分の札を見る。


全部使える。


相手の予測もまだ見えない。


相手の選択も見えない。


確定している情報は少ない。


カイは予測に青を出した。


相手が青を出すと予測。


そのあと。


自分の選択札。


赤を出す。


相手も提出。


予測公開。


カイ。


青。


相手。


赤。


実際の選択。


カイ。


赤。


相手。


青。


カイの予測は的中。


さらに赤が青へ勝つ。


二点。


相手が笑った。


「いきなり全部取った」


「偶然かも」


「そう言うと思った」


第二ラウンド。


相手は、カイをじっと見ていた。


視線。


指先。


札を見る時間。


全部。


カイはまず自分の条件を見る。


次に相手を見る。


相手は笑っている。


それだけ。


カイは予測に白。


選択に青。


公開。


相手の選択は赤。


予測は外れ。


青は赤に負ける。


得点なし。


二対一。


相手が言う。


「今、俺の顔見てから変えた?」


「何を?」


「予測」


「変えてない」


「じゃあ見た意味は?」


カイは少し考える。


「何かあるか確認しただけ」


「なかった?」


「分からなかった」


第三ラウンド。


今度は相手が、わざとらしく赤の札へ何度も触れた。


カイにも分かる。


見せている。


「それ、意味ある?」


カイが聞く。


相手が笑う。


「どう思う?」


「見せたいんだなとは思う」


「それで?」


「それ以上は分からない」


カイは予測に白。


選択に赤。


公開。


相手。


予測は赤。


選択は白。


カイの予測は的中。


ただし色勝負は白が赤に勝つ。


一点ずつ。


三対二。


相手が少しだけ眉を上げる。


「乗ってこないな」


「何に?」


「赤を触ってただろ」


「見えたよ」


「じゃあ赤だと思わなかった?」


「思う理由にはなる」


カイは答える。


「決める理由にはならない」


相手は少し黙った。


第四ラウンド。


周囲の人数が増えていた。


賭約そのものより。


カイが何を選ぶかを見ている人がいる。


そのことに、今度はカイも気づいた。


相手だけではない。


観客も見ている。


自分が札を見る順番。


相手を見る回数。


迷う時間。


それまで全部。


誰かにとっては情報になる。


「やりにくい?」


相手が聞く。


「何が?」


「見られてる」


カイは少し考える。


「見られてても、条件は変わらない」


「でも君の癖は読まれる」


「読まれたら変えないといけない?」


相手が止まった。


カイはそのまま札を見る。


自分が青を選びたい理由があるなら。


相手がそれを読んでいるかどうかは別の話。


読まれている可能性を考えて。


さらにその裏を考えて。


さらにその裏。


そこへ入れば終わらない。


カイは予測に赤。


選択に白。


公開。


相手の選択。


赤。


予測的中。


白は赤にも勝つ。


二点。


五対二。


少しざわめきが起きた。


相手が笑う。


「本当に変えないんだ」


「何を?」


「見られてる時の選び方」


カイはそこで初めて聞き返した。


「変えた方がいい?」


「普通は変えるだろ」


「なんで?」


「読まれるから」


「読まれたら負ける?」


相手は答えなかった。


第五ラウンド。


カイは相手を見る。


相手もカイを見る。


今度は長い。


相手の方が先に笑った。


「やっと見た」


「見てるよ、ずっと」


「そういう意味じゃない」


カイは少しだけ笑う。


予測。


選択。


公開。


カイの予測は外れ。


色勝負も負け。


五対四。


差が縮まる。


観客から小さな声。


「ほら、読まれた」


カイにも聞こえた。


でも。


一回。


それだけ。


第六ラウンド。


相手が言う。


「次、赤だろ」


カイが見る。


「予測?」


「宣言」


「なんで?」


「ここまでの君なら赤」


カイは自分の三色を見る。


赤。


青。


白。


赤を選ぶ理由。


青を選ぶ理由。


白を選ぶ理由。


どれもある。


相手が赤だと言った。


だから赤を外す。


それも一つの条件。


でも。


相手がそれを狙っている可能性もある。


また終わらなくなる。


カイは青を選んだ。


予測は白。


公開。


相手。


白。


予測的中。


カイの青は白にも勝つ。


二点。


七対四。


相手が少しだけ息を吐いた。


「赤じゃないのか」


「うん」


「俺が言ったから?」


カイは首を振る。


「分からない」


「自分で選んだのに?」


「理由が一個じゃないから」


最終ラウンド。


もう勝敗はほぼ決まっている。


それでも。


周囲は静かだった。


カイが最後に何を出すか。


みんな見ている。


カイはそれに気づいている。


でも。


まず自分の札を見る。


赤。


青。


白。


次に。


相手を見る。


そして。


周囲を見る。


何人かと目が合った。


カイは少し笑った。


予測。


青。


選択。


白。


相手も提出。


公開。


相手の選択。


青。


予測的中。


白は赤には勝つが、青には負ける。


予測一点。


色勝負は相手に一点。


最終得点。


カイ八。


相手五。


カイの勝利。


立会執行官が結果を記録する。


周囲の人たちは、すぐには散らなかった。


相手が椅子にもたれる。


「やっぱり、変だな」


「まだ?」


「見られてるのに、見られてない時と同じように選ぶ」


カイは少し考える。


「同じじゃないよ」


「どこが?」


「見られてることは条件に入ってる」


「じゃあ変えてるじゃん」


「選び方は変えてない」


相手が黙る。


カイは記録票を見る。


自分を見る。


条件を見る。


分からないところを残す。


そのあとで相手を見る。


そこへ。


今はもう一つ増えた。


自分も見られている。


それも事実。


でも。


見られているからといって。


相手が何を読んだかまで分かったことにはならない。


カイは記録票を畳んだ。


賭約院を出る途中。


また声が聞こえた。


「次は白を多めに警戒した方がいいな」


別の声。


「いや、あいつはそれ聞いたら変えるだろ」


「変えないんじゃないか?」


カイは振り返らなかった。


自分が相手を見るように。


今は。


相手も自分を見ている。


それだけは。


もう、はっきり分かった。

【今回の賭博ルール|観測のラウンド】


今回は二人で行う七ラウンド制の賭約です。


使用する札は、


赤

青

白


の三色。


基本の勝敗関係は、


赤は青に勝つ。

青は白に勝つ。

白は赤に勝つ。


同色の場合は引き分けです。


この賭約では、

実際に色札を出す前に、


「相手が何色を選ぶか」


を一度予測します。


各ラウンドの流れは、


相手の色を予測する。

↓

自分の色札を一枚選ぶ。

↓

双方の予測を公開する。

↓

実際の色札を公開する。


という順番です。


相手の色を正しく予測できれば1点。


通常の色勝負に勝っても1点。


そのため、

一つのラウンドで最大2点を取ることができます。


予測を外しても、

色勝負に勝てば1点。


逆に、

予測が当たっても色勝負で負ければ1点です。


七ラウンド終了時に、

合計得点が多い方が勝者。


同点なら賭約全体も引き分けです。

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