見えない選択
六日後。
カイは、いつものように放課後の賭約院を歩いていた。
この六日間、正式賭約には参加していない。
学校へ行き、父の店を手伝い、帰り道に賭約院へ寄る。
公開卓を見る日もあれば、そのまま帰る日もあった。
第25話で残った八回分の選択履歴も、一度確認しただけだった。
赤。
白。
青。
並んでいるのは、自分が選んだ結果だけ。
理由はない。
それで十分だった。
その日。
カイが足を止めたのは、今までとは少し違う卓だった。
説明票の上に書かれている。
『見えない選択』
二人用。
全五ラウンド。
各参加者には、毎ラウンド三枚の札が渡される。
赤。
青。
白。
ただし。
三枚すべてを見ることはできない。
自分が確認できるのは二枚だけ。
残る一枚は裏向きのまま。
「自分の札なのに?」
カイが受付の職員へ聞く。
「はい」
「最後まで見えない?」
「選択が終わるまでは」
カイは説明票を読む。
三枚のうち一枚を選ぶ。
見えている二枚を選んでもいい。
見えていない一枚を選んでもいい。
二人が同時に選択。
公開後、
色の相性で勝敗を決める。
赤は青に勝つ。
青は白に勝つ。
白は赤に勝つ。
同色は引き分け。
ここまでは普通。
違うのは。
見えない札を選んだ場合。
当たれば二点。
見えている札で勝てば一点。
「当たるって?」
「見えない札を選んで、相手に勝った場合です」
カイはもう一度読む。
つまり。
見える札なら、
何を出すか自分で分かる。
見えない札なら、
出すまで自分にも分からない。
でも勝てば二点。
「なるほど」
カイは説明票を戻さなかった。
卓には、
すでに一人座っていた。
見覚えはない。
リグではない。
相手も説明票を読み終えたところだった。
「参加?」
相手が聞いた。
カイは少しだけ迷ってから頷いた。
「うん」
受付へ申請する。
六日ぶりの正式賭約。
そして。
リグ以外と卓を囲むのは久しぶりだった。
立会執行官が三枚の札を配る。
カイの前。
赤。
青。
裏向き一枚。
見えている二枚だけを確認する。
赤。
青。
なら。
見えていない札は白。
そう思ってから。
カイは説明票を見る。
三色は一枚ずつとは書かれていない。
「同じ色が複数あることも?」
立会執行官が頷く。
「あります」
カイは少し笑った。
また。
自分で条件を足しかけた。
見えている赤と青。
裏の一枚。
白かもしれない。
赤かもしれない。
青かもしれない。
第一ラウンド。
相手が先に選択を伏せる。
カイは赤を見る。
青を見る。
そして。
裏向きの札を見る。
見えている札を選べば、
自分が何を出すかは分かる。
裏なら。
何を出すか分からない。
でも二点。
カイは赤を伏せた。
公開。
カイ。
赤。
相手。
青。
赤の勝ち。
カイ一点。
第二ラウンド。
見えている札。
白。
青。
裏一枚。
カイは相手を見る。
相手は、
迷わず一枚を伏せた。
速い。
それだけは見える。
でも。
なぜ速かったのかは分からない。
カイは白を選ぶ。
公開。
カイ。
白。
相手。
白。
引き分け。
得点なし。
第三ラウンド。
見える札。
赤。
白。
裏。
相手は今度、
少し長く考えた。
第一ラウンドより長い。
第二ラウンドより長い。
カイはその時間を見る。
でも。
そこから先を作らない。
迷っている。
強い札がある。
見えない札を選ぼうとしている。
どれも可能性。
どれも事実ではない。
カイは裏向きの札へ手を伸ばした。
初めて。
見えない一枚を選ぶ。
相手も伏せる。
公開。
カイの札。
青。
相手。
白。
青の勝ち。
見えない札での勝利。
二点。
合計三点。
相手は少しだけ眉を上げた。
「それ選ぶんだ」
「うん」
「青だと思った?」
「分からなかった」
「じゃあ賭けた?」
カイは少し考える。
「分からない方を選んだ」
相手が笑った。
「それを賭けたって言うんじゃない?」
「そうかも」
第四ラウンド。
見える札。
赤。
赤。
裏一枚。
今度は、
見える二枚が同じ。
裏札の情報はさらに少ない。
相手はカイの前を見ることはできない。
見えている札の内容は、
本人だけの情報だ。
カイは二枚の赤を見る。
どちらを選んでも同じ。
なら。
見えているものを選ぶ意味は、
ほとんど変わらない。
裏札。
カイはまた手を伸ばした。
公開。
カイ。
白。
相手。
赤。
白の勝ち。
二点。
合計五点。
最終ラウンドを前に、
カイが優勢になった。
相手が言う。
「見えない方、好きなんだな」
カイは首を振る。
「さっき二回選んだだけ」
「二回続けたら十分じゃない?」
「二回は二回でしょ」
相手が少し笑う。
最終ラウンド。
見える札。
青。
白。
裏。
相手は、
カイがまた裏を選ぶと思うかもしれない。
そう考えた瞬間。
カイは止まった。
今のは。
相手が何を考えているかではない。
自分が、
相手はそう考えるかもしれないと思っただけ。
カイは青を選んだ。
見えている札。
相手も選ぶ。
公開。
カイ。
青。
相手。
赤。
赤の勝ち。
相手一点。
最終得点。
カイ五点。
相手一点。
カイの勝利。
立会執行官が記録を確定する。
見えていた札。
選んだ札。
裏札。
得点。
全部、
勝負が終わった後なら確認できる。
カイは第三ラウンドを見る。
赤。
白。
裏は青。
自分は青を選んだ。
結果だけ見れば。
正しい札を選んだように見える。
でも。
選んだ時。
カイは青だとは知らなかった。
第四ラウンドも同じ。
結果だけなら。
白を読んで選んだように見える。
実際は違う。
カイは記録を見ながら小さく言った。
「これも残らないんだ」
相手が聞く。
「何が?」
「知らなかったこと」
記録には。
何を見ていたかは残る。
何を選んだかも残る。
でも。
その瞬間に。
自分がどこまで分かっていたか。
それまでは残らない。
勝った選択だけを後から見れば。
最初から分かっていたようにも見える。
カイは記録を閉じた。
第25話では。
過去の選択が、
他人の手札になった。
今日は。
自分自身にも見えていなかった選択が、
結果を知ったあとでは意味を持って見える。
勝った。
でも。
勝った理由まで、
結果から逆に作らない。
その線だけは。
前よりずっと、
はっきり見えるようになっていた。
【今回の賭博ルール|見えない選択】
今回は二人で行う五ラウンド制の賭約です。
各ラウンド、
参加者には赤・青・白のいずれかが描かれた札が三枚配られます。
ただし、自分で確認できるのは二枚だけ。
残る一枚は裏向きのままで、
色の組み合わせにも重複があるため、
見えている二枚だけから裏札の色を確定することはできません。
参加者は、
見えている二枚
または
見えていない一枚
のどれかを選びます。
基本の勝敗関係は、
赤は青に勝つ。
青は白に勝つ。
白は赤に勝つ。
同色は引き分けです。
見えている札を選んで勝った場合は1点。
見えていない札を選び、
公開後にその札が相手へ勝っていた場合は2点です。
裏札の内容は選択終了後に公開されます。
五ラウンド終了時、
合計得点の多い参加者が勝者。
同点なら引き分けです。




