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過去が手札になる

挿絵(By みてみん)

四日後。


放課後。


カイは父の店へ戻る前に、

賭約院へ立ち寄った。


第24話の勝負記録は、

翌日に一度だけ見直した。


見えない札。


位置補正。


自分が選んだ札。


リグが選んだ札。


結果。


そこまで確認して、

閉じた。


以前なら、

もう一度開いていたかもしれない。


でも。


今は、

残っていないものを探し続けるより。


残っているものを、

そのまま見る方がいい。


そう思えるようになっていた。


その日の公開卓。


カイは一枚の説明票を取った。


『履歴と選択』


二人用。


使用札。


赤。


青。


白。


そこまでは見慣れている。


問題は次。


各参加者は、

勝負開始前に直近八回分の選択履歴を相手へ公開する。


カイの手が止まった。


「八回?」


受付の職員が頷く。


「この形式では、直近の正式賭約から抽出します」


「何を出したかだけ?」


「はい。結果ではなく、選択履歴です」


赤。


青。


白。


どれを選んだか。


その順番だけ。


「相手も同じ?」


「同じです」


カイは説明票を読む。


各ラウンド。


赤、青、白から一枚を選ぶ。


同時公開。


勝敗関係は通常。


赤は青に勝つ。


青は白に勝つ。


白は赤に勝つ。


同色は引き分け。


全八ラウンド。


ただし。


相手には、

自分が過去八回で何を選んだかが最初から見えている。


「過去って、この勝負中の履歴じゃないんだ」


「はい」


「前の賭約から?」


「公開対象となる記録がある場合は」


職員が説明する。


履歴が八件に満たない場合。


存在する分だけ公開。


同じ形式でなくても構わない。


赤、青、白に対応づけられる選択だけ抽出する。


カイは少し考える。


自分が過去に何を選んだか。


それは事実。


でも。


その理由は残っていない。


相手には結果だけが渡る。


「面白そうだな」


後ろから声がした。


リグ。


「またいる」


「俺も言おうと思った」


リグが説明票を取る。


「これ、お前嫌いそう」


「なんで?」


「過去から読まれるから」


カイは首を振った。


「嫌いじゃない」


「じゃあ好き?」


「まだ分からない」


「出た」


リグが笑う。


受付へ参加申請。


今回も相手はリグ。


二人分の履歴が卓上へ表示される。


カイ。


赤。

白。

青。

赤。

赤。

白。

青。

赤。


リグ。


白。

赤。

赤。

青。

白。

白。

赤。

青。


カイは並びを見る。


自分の履歴。


赤が多い。


八回中四回。


リグが言う。


「赤好きなんだな」


「そう見える?」


「見える」


「じゃあ次も赤だと思う?」


「それは言わない」


「だよね」


第一ラウンド。


カイは三枚を見る。


赤。


青。


白。


過去の自分。


赤四回。


白二回。


青二回。


相手がそこを見るなら。


赤を避けると思うかもしれない。


でも。


その読みまで考えると。


また赤に戻る。


さらに相手がそこまで読むなら。


終わらない。


カイは少し笑った。


「何?」


リグが聞く。


「考えても終わらないなって」


「じゃあ適当に出す?」


「それも選択でしょ」


カイは青を伏せた。


リグも出す。


公開。


カイ。


青。


リグ。


赤。


赤の勝ち。


リグ一点。


「赤避けたな」


「そう思う?」


「違うの?」


カイは答えない。


第二ラウンド。


履歴表示が更新される。


カイの最新選択。


青。


過去八件の一番古い赤が消える。


表示。


白。

青。

赤。

赤。

白。

青。

赤。

青。


赤三。


青三。


白二。


「すぐ変わるんだ」


カイが言う。


「直近八回ですから」


職員が答える。


つまり。


今回の選択も、

次のラウンドでは過去になる。


カイは画面を見る。


さっきまで自分だった行動が。


もう。


相手が読む材料になっている。


第二ラウンド。


カイ。


白。


リグ。


赤。


白の勝ち。


一対一。


第三ラウンド。


表示更新。


また履歴が変わる。


リグが言う。


「今度は白が増えた」


「うん」


「白出す?」


「出すかも」


「じゃあ青かな」


「そうかも」


二人とも笑う。


カイは赤を出した。


リグは青。


赤の勝ち。


カイ二点。


第四ラウンド。


リグが履歴を見ながら言う。


「赤、やっぱり多いな」


カイも自分の履歴を見る。


確かに。


でも。


その赤は。


今の自分が選んだ赤と。


何日も前に選んだ赤が。


同じ一列に並んでいる。


理由は全部違うかもしれない。


「同じ色でも」


カイが言った。


「何?」


「同じ理由とは限らないよね」


「そんなの分からないだろ」


「うん」


リグが笑う。


「じゃあ見る意味ある?」


カイは少し考える。


「意味があるかどうかを見るために、今やってる」


第四ラウンド。


カイ。


赤。


リグ。


白。


白の勝ち。


二対二。


第五ラウンド。


カイは自分の履歴を見なかった。


リグだけを見る。


リグは履歴表示を見ている。


でも。


何を考えているかは分からない。


カイは青。


リグは白。


青の勝ち。


三対二。


第六ラウンド。


リグが言う。


「今、履歴見なかったな」


「うん」


「意味ないと思った?」


「違う」


「じゃあ?」


「見なくても、履歴が相手に見えてることは変わらないから」


カイは赤を選ぶ。


リグ。


青。


赤の勝ち。


四対二。


第七ラウンド。


リグが少し考える時間が長くなる。


カイはそこを見る。


長い。


でも。


その理由は分からない。


履歴を読んでいる。


自分の手を考えている。


迷っているふり。


ただ疲れた。


どれでもあり得る。


カイは白。


リグ。


赤。


白の勝ち。


五対二。


最終ラウンド。


勝敗はもう決まっている。


それでも一手残っている。


カイの履歴。


赤。

白。

青。

赤。

青。

赤。

白。


今回の七回。


そこへ次の一枚が加わる。


リグが言う。


「最後くらい読ませろよ」


「読んでるでしょ」


「当たってない」


「それは俺も同じ」


カイは青を出した。


リグ。


赤。


リグの勝ち。


最終得点。


カイ五。


リグ三。


カイの勝利。


立会執行官が結果を記録する。


八回目。


青。


履歴へ追加。


カイはそれを見る。


今。


自分が考えて出した青。


でも。


次にこの履歴を見る人には。


ただの青。


「これだけなんだ」


カイが言う。


「何が?」


「残るの」


リグが画面を見る。


「結果も残るだろ」


「違う」


カイは選択履歴を指す。


「ここには青しか残らない」


なぜ青を選んだか。


相手が何を見ていたか。


何を読まれていると思ったか。


どこまで考えて。


どこで考えるのをやめたか。


それはない。


でも。


次の相手は。


この青を見る。


そして。


そこから何かを考える。


カイは少し笑った。


「過去って、面白いね」


リグが怪訝そうに見る。


「急に何?」


「自分には理由があるのに」


カイは履歴を閉じる。


「他の人には、手札になるだけなんだ」


賭約院を出る頃。


カイの正式賭約記録には。


新しい八つの選択が残っていた。


その中に。


考えたことは一つも残っていなかった。

【今回の賭博ルール|履歴と選択】


今回は二人で行う八ラウンド制の賭約です。


使用する選択肢は、


赤

青

白


の三つ。


基本の勝敗関係は、


赤は青に勝つ。

青は白に勝つ。

白は赤に勝つ。


同じ色なら引き分けです。


この賭約の特徴は、

勝負開始時に参加者それぞれの直近八回分の選択履歴が相手へ公開されることです。


公開されるのは、


「過去に何色を選んだか」


だけです。


その時なぜ選んだのか、

何を考えていたのかまでは表示されません。


さらに今回の勝負中に行った選択も、

次のラウンドでは履歴へ追加されます。


履歴は常に直近八件なので、

新しい選択が追加されるたびに古いものから一件ずつ外れていきます。


全八ラウンド終了時、

勝利したラウンド数が多い方が賭約の勝者。


同数なら引き分けです。

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