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残された札

挿絵(By みてみん)

三日後。


放課後。


カイは学校を出ると、

父の店へ戻る前に賭約院へ寄った。


第23話のあと、

特に何かを追っていたわけではない。


引き分けになった三色選択の記録は、

一度だけ見直した。


赤。


白。


青。


三ラウンド。


結果だけを見れば、

あまり残るものはない。


でも。


カイは、

前ほど何度も記録へ戻らなくなっていた。


分からない部分を、

無理に埋めようとしなくなったからだ。


その日。


公開卓の一つに、

見慣れない説明票が置かれていた。


カイは足を止める。


卓の中央。


小さな札が三枚。


それぞれに、

赤、青、白の印。


ただし。


三色選択とは違う。


説明票を取る。


『残札選択』


参加人数。


二人。


使用札。


赤、青、白。


各一枚。


最初に、

三枚のうち一枚を無作為に伏せる。


その札は、

二人とも見ることができない。


残った二枚だけが公開される。


参加者は、

公開された二枚のうち一枚を選ぶ。


両者が同じ札を選んだ場合は引き分け。


別々の札を選んだ場合。


伏せられている一枚との関係で勝敗を判定する。


赤は青に勝つ。


青は白に勝つ。


白は赤に勝つ。


カイは説明票をもう一度読む。


「伏せ札で決まる?」


受付の職員が頷く。


「そうです」


「自分が選んだ札同士で勝負するんじゃない?」


「違います」


職員が卓上の例を指した。


赤と青が公開。


白が伏せ札。


一人が赤。


もう一人が青。


この場合。


白に勝てるのは青。


だから青を選んだ側が勝つ。


「じゃあ、公開された札だけ見ても正解は分からない」


「はい」


「伏せ札は最後まで見えない?」


「勝敗判定後に公開します」


カイは少し考える。


見えないものが一枚。


でも。


必ず存在している。


しかも。


その見えない一枚が、

勝敗を決める。


「何ラウンド?」


「一勝負五ラウンドです」


各ラウンド。


三色から一枚を無作為に伏せる。


残り二枚を公開。


二人は同時に選択。


伏せ札との相性で一点。


五ラウンド終了時。


得点が多い方が勝ち。


同点なら引き分け。


カイは説明票を置かなかった。


そのまま持っている。


「やるの?」


声がした。


リグだった。


「まだ決めてない」


「またそれ?」


「ルール見てる」


リグが横から説明票を見る。


「簡単じゃん」


「簡単?」


「二枚から選ぶだけだろ」


「どっちが正しいか分からない」


「それが勝負だろ」


カイは卓を見る。


確かに。


選択肢は二つしかない。


でも。


正解を決める情報は、

選ぶ時点では存在していない。


いや。


存在している。


ただ見えない。


第22話まで、

カイはずっと記録に残らない時間を見ていた。


見えないもの。


分からないもの。


推測してはいけないもの。


でも。


この勝負では違う。


見えない札は、

間違いなく一枚存在する。


その存在そのものは確定している。


分からないのは、

何色かだけ。


カイは少し笑った。


「やる?」


リグが聞く。


「うん」


「珍しいな。早い」


「今、やらないと分からないから」


「何が?」


カイは説明票を見た。


「見えないまま選ぶ時、

自分が何を見るのか」


受付へ参加申請を出す。


賭け金は小額。


相手はリグ。


立会執行官が三枚の札を確認する。


赤。


青。


白。


第一ラウンド。


立会執行官が三枚を混ぜる。


一枚を伏せたまま中央へ置く。


残り二枚を開く。


赤。


白。


つまり。


伏せ札は青。


そこまでは、

論理だけで分かる。


カイは少し止まる。


「あれ?」


リグも気づいた。


「これ、見えるじゃん」


立会執行官が説明する。


「色そのものは推定できます」


カイは説明票を見る。


確かに。


三色しかない。


二色が公開されれば、

残り一色は分かる。


「じゃあ伏せてる意味は?」


カイが聞く。


「札そのものではなく、配置情報が非公開です」


「配置?」


立会執行官が続ける。


伏せ札には、

色のほかに位置記号が記録されている。


左。


中央。


右。


その位置記号は、

勝敗計算に使われる。


説明票の下部。


カイはそこを読み落としていた。


各色には、

位置による補正がある。


左位置。


赤が強化。


中央位置。


青が強化。


右位置。


白が強化。


伏せ札の色は分かっても。


どの位置記号を持っているかは分からない。


「なるほど」


カイは説明票を最後まで読む。


リグが笑う。


「ちゃんと読んでなかったな」


「読んだ」


「見落としてたじゃん」


「うん」


カイは素直に認めた。


第一ラウンド。


公開札。


赤。


白。


伏せ色。


青。


ただし。


位置不明。


カイが赤を選ぶ。


リグは白。


判定。


伏せ札。


青・左位置。


左補正で赤が強化。


カイ一点。


第二ラウンド。


公開。


青。


白。


伏せ色。


赤。


カイは青。


リグも青。


同じ札。


引き分け。


第三ラウンド。


公開。


赤。


青。


伏せ色。


白。


カイは赤。


リグは青。


判定。


伏せ札。


白・右位置。


右補正。


白が強化。


青を選んだリグに一点。


一対一。


第四ラウンド。


公開。


赤。


白。


伏せ色。


青。


カイは説明票ではなく、

リグを見る。


リグもこちらを見ている。


カイはすぐ視線を戻した。


見ることはできる。


でも。


それが情報だとは限らない。


カイは白。


リグは赤。


判定。


青・中央位置。


青強化。


この組み合わせでは白側が有利。


カイ一点。


二対一。


最終ラウンド。


公開。


青。


白。


伏せ色。


赤。


カイに残された情報。


公開色。


これまでの位置分布。


リグの過去選択。


立会執行官の動作。


でも。


位置は毎回無作為。


過去は、

次を決めない。


カイは青を選ぶ。


リグは白。


伏せ札が開く。


赤。


右位置。


赤には補正なし。


通常相性。


赤は青に勝つ。


青を選んだカイに一点。


三対一。


勝負終了。


カイの勝ち。


リグが椅子にもたれた。


「最後、俺の顔見なかったな」


「見たよ」


「じゃあ何で無視した?」


「見たことと、使うことは別だから」


リグは少し笑う。


「前より面倒になったな」


カイも笑った。


卓上には、

最後まで伏せられていた札が残っている。


赤。


右位置。


勝負が終われば、

全部見える。


でも。


選ぶ時には見えなかった。


カイはその札を見ながら思う。


分からないことは、

なくならない。


それでも。


見えているものだけで、

選ぶことはできる。


そして。


選んだあとに初めて、

何が隠れていたのか分かる。


カイは記録票を受け取った。


久しぶりの勝利だった。


でも。


勝ったことより。


選ぶ前と、

選んだ後で。


同じ札の意味が変わって見えることの方が、

少し気になっていた。

【今回の賭博ルール|残札選択】


今回は二人で行う五ラウンド制の賭約です。


使う札は、

赤・青・白の三枚。


各ラウンド開始時に、

三枚のうち一枚を伏せ札にします。


残り二枚だけを公開し、

二人は公開された札から一枚ずつ同時に選びます。


同じ札を選んだ場合は、

そのラウンドは引き分けです。


別々の札を選んだ場合は、

伏せ札の色と位置記号を使って勝敗を判定します。


基本の相性は、


赤は青に勝つ。

青は白に勝つ。

白は赤に勝つ。


さらに伏せ札には、


左

中央

右


の位置記号があり、


左では赤、

中央では青、

右では白


が強化されます。


公開された二色から伏せ札の色そのものは推定できますが、

位置記号は公開されるまで分かりません。


五ラウンド終了時に、

得点の多い方が勝ち。


同点なら賭約全体も引き分けです。

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