同じ時間、別の行動
翌日の放課後。
カイは、昨日作った紙を持って記録閲覧区画へ戻った。
『見える』
『見えない』
二つに分けた一覧。
今日は、その続きだった。
昨日まで気にしていたのは、
一般閲覧と参照閲覧の間にある時間。
二十分。
二十四分。
三十分。
似た長さの空白が何度かある。
けれど。
同じくらいの時間が空いているからといって、
その間に同じことをしていたとは限らない。
自分で試した時に、
それはもう分かっている。
カイは履歴を二つ並べた。
一つ目。
中央区画で一般閲覧。
二十四分後。
参照閲覧。
その六分後、
北側区画で一般閲覧。
二つ目。
中央区画で一般閲覧。
二十三分後。
参照閲覧。
そのあとも、
中央区画で一般閲覧。
「時間はほとんど同じ」
横にいたリグが言う。
「でも場所が違う」
「うん」
カイは紙に二本の線を引いた。
一つは中央から北側へ。
もう一つは中央のまま。
同じ二十四分前後。
でも、
その後に見える行動は違う。
「じゃあ時間は関係ない?」
リグが聞く。
「それもまだ分からない」
「何なら分かるんだよ」
「同じ時間でも、同じ動きじゃない」
リグが黙った。
カイは次の履歴を出す。
今度は空白が二十五分。
その前後。
北側。
北側。
次。
二十四分。
中央。
北側。
次。
二十六分。
中央。
中央。
並べていく。
時間だけなら似ている。
場所まで見ると揃わない。
「ばらばらだな」
リグが言う。
「うん」
カイは少し嬉しそうだった。
「何で嬉しそうなんだよ」
「時間だけで決めなくてよくなったから」
「普通、揃った方が嬉しくない?」
「揃いすぎると、そこに意味あるって思いそうだから」
リグが笑った。
「お前、自分を信用してないな」
「信用してるよ」
カイも笑う。
「だから間違えると思ってる」
端末を操作する。
今度は、
同じ時間帯に行われた別の記録を見る。
十時台。
昼前。
放課後。
利用者の数が違う。
中央区画の混み方も違う。
北側区画の端末利用数も違う。
カイの目が止まった。
「これも見る?」
「何?」
「その時間に、どれくらい人がいたか」
「履歴に出るの?」
「区画の利用数だけなら」
個人名は出ない。
誰が何をしているかも分からない。
でも。
その時、
中央区画で何台の端末が使われていたか。
北側で何台使われていたか。
それは確認できる。
カイは三つの履歴へ追加した。
一件目。
中央区画、混雑。
二件目。
中央区画、空きあり。
三件目。
北側区画、ほぼ空き。
同じくらいの間隔。
違う状況。
また揃わない。
「これ、本当に同じもの追ってる?」
リグが聞いた。
カイの手が止まった。
「どういう意味?」
「同じ人が動いてるって前提で見てない?」
「前提にはしてない」
「でも、ずっと比べてるだろ」
カイは紙を見る。
確かに。
同じ閲覧者かどうかは分からない。
ずっとそう書いてきた。
でも。
比較しているうちに、
無意識に一つの流れとして扱い始めているかもしれない。
カイは一番上に書いた。
『同一人物とは限らない』
前から何度も書いている言葉。
それでも。
また必要になった。
「忘れる?」
リグが聞く。
「忘れるっていうより」
カイは少し考える。
「並べると、つながって見える」
「線引いてるからじゃない?」
カイは紙を見る。
中央。
参照。
北側。
自分で引いた線。
「……それもあるか」
リグが笑った。
「自分で罠作ってるじゃん」
「そうかも」
カイは線を一本消した。
完全には消えない。
薄く跡が残る。
その跡を見て、
少しだけ笑った。
「記録って、こういうことかも」
「何が?」
「残ってるものだけ見ると、つなぎたくなる」
カイは新しい紙を出した。
今度は線を引かない。
ただ並べる。
時刻。
閲覧区分。
区画。
対象記録。
その時の区画利用数。
そこまで。
「これで何が分かる?」
リグが聞く。
「今は何も」
「またそれか」
「でも、勝手につながらない」
リグはしばらく紙を見ていた。
「つまらなくなったな」
「何が?」
「前の方が事件っぽかった」
カイは笑った。
「事件じゃないし」
「まだな」
その言葉で、
カイの手が一瞬止まった。
リグは冗談のつもりだったらしい。
でも。
カイは画面を見た。
まだ。
確かに。
何かがあるとも、
何もないとも決まっていない。
だからこそ。
ここで話を作るのは危ない。
カイは次の履歴を開く。
同じ時刻帯。
ほぼ同じ二十四分間隔。
中央区画。
参照閲覧。
中央区画。
その次。
同じくらいの間隔。
北側区画。
参照閲覧。
北側区画。
違う。
さらに次。
一般閲覧。
参照閲覧。
一般閲覧。
場所は同じ。
「やっぱり、時間だけじゃない」
カイが言う。
「うん」
今度はリグも素直に頷いた。
カイは画面を閉じようとした。
その時。
一件だけ、
少し違う表示が目に入った。
一般閲覧。
参照閲覧。
一般閲覧。
並びは同じ。
時間も似ている。
でも。
参照閲覧の対象欄。
そこだけ。
空白。
「……これ何?」
リグが覗く。
他の参照閲覧には、
『対戦記録』
と表示されている。
でもその一件だけ。
何もない。
カイは職員を呼んだ。
「これ、対象が空白なんですけど」
職員が確認する。
少し時間がかかった。
「表示できない対象ですね」
「非公開?」
「それとは少し違います」
カイは顔を上げる。
「じゃあ何?」
職員は端末を見ながら答えた。
「通常の閲覧対象として残らない記録です」
リグの表情が変わる。
カイは聞いた。
「消えた?」
「いいえ」
職員はすぐ否定した。
「少なくとも、この表示だけではそう判断できません」
その答えに、
カイは少しだけ安心した。
決めつけない。
職員も同じだった。
「じゃあ、何なら分かりますか?」
「参照処理が行われたことだけです」
「何を参照したかは?」
「一般閲覧者には表示されません」
カイは紙へ書く。
『参照あり』
『対象表示なし』
その下には何も書かない。
一件だけ。
今までの履歴とは違うもの。
でも。
一件だけ。
リグが小さな声で言った。
「これは気になるな」
カイも頷いた。
「うん」
「調べる?」
カイは少し考えた。
それから答える。
「まず、他にもあるか見る」
一件だけなら。
まだ。
ただ違うだけだ。
同じ時間。
違う行動。
似た履歴。
違う状況。
そして。
同じように見えた記録の中に、
一つだけ残った空白。
カイは端末を閉じなかった。
今度は、
その一件を探すためではなく。
同じ種類の空白が、
本当に他にもあるのか。
そこから見始めた。
【今回の補足】
今回は、
同じくらいの時間が空いていても、
その前後の行動まで同じとは限らないところを見ています。
たとえば約二十四分という間隔が同じでも、
中央区画から北側へ移っている場合。
同じ区画に残っている場合。
混雑している時間。
空いている時間。
それぞれ状況は違います。
なので今回は、
時間だけを見て一つの行動パターンだと決めず、
時刻
閲覧区分
閲覧区画
対象記録
その時の利用状況
を分けて並べています。
そして最後に、
一件だけ「参照されたことは分かるけれど、参照対象が表示されない履歴」が見つかりました。
この一件が特別なのか、
同じものが他にもあるのかはまだ分かりません。
今の段階では、
ただ「一つだけ違う記録が残っていた」ところまでです。




