見えない間
翌日の放課後。
カイは、昨日自分で作った閲覧履歴をもう一度見ていた。
中央区画で一般閲覧。
参照閲覧。
北側区画で一般閲覧。
並びだけなら、
以前見つけた履歴とよく似ている。
でも。
カイはその間に何をしていたか知っている。
端末を閉じた。
歩いた。
リグと話した。
北側へ移動した。
別の端末を開いた。
履歴には、
そのほとんどが残っていない。
「見えてるの、三つだけなんだよね」
横にいたリグが画面を見る。
「三つ?」
「ここ」
カイが指す。
一般閲覧。
参照閲覧。
一般閲覧。
「でも実際には、その間にもっと色々やった」
「まあな」
「じゃあ、他の履歴も同じかもしれない」
リグが少し考える。
「見えてないところで何かしてる?」
「してるかもしれない」
カイは昨日の紙を開いた。
これまで集めた履歴を並べる。
時刻。
閲覧区画。
一般閲覧。
参照閲覧。
空白。
そこまでは分かる。
でも。
空白の中に何があるかは分からない。
カイは新しい紙を一枚出した。
中央に線を引く。
左。
『見える』
右。
『見えない』
左へ書く。
閲覧時刻。
閲覧区分。
対象記録。
閲覧区画。
右。
移動。
会話。
休憩。
別の行動。
端末を見ていない時間。
リグが紙を見る。
「右、多くない?」
「うん」
「じゃあ、履歴だけで人の動き読むの無理じゃない?」
カイは少し考える。
「全部は無理」
「全部じゃなければ?」
「分かることもある」
カイは左側を指す。
「どこから見たか」
次。
「いつ見たか」
次。
「直接見たか、参照されたか」
そこまでは記録に残る。
問題は、
それをどう繋ぐか。
昨日までカイは、
一つの流れとして見ていた。
中央。
参照。
北側。
でも。
本当は。
中央。
何か。
何か。
参照。
何か。
北側。
その間に何個入っているか分からない。
「線で繋ぐの、早かったかも」
カイが言った。
「昨日やってたやつ?」
「うん」
紙に引いていた線。
中央区画から参照閲覧。
そこから北側区画。
カイは消さない。
その横に書く。
『仮の接続』
リグが笑う。
「また弱くなったな」
「何が?」
「仮説」
「弱い方がいい時もあるでしょ」
「普通は強くしたくない?」
「間違ってた時に戻しやすい」
リグが少し黙る。
「それ、勝負でもやるの?」
「たぶん」
「面倒な相手になりそう」
カイは笑った。
それから、
別の日の履歴を開く。
条件を揃える。
同じくらいの時刻。
同じ閲覧区画。
同じ種類の記録。
一般閲覧から参照閲覧。
そして次の一般閲覧まで。
一件目。
二十四分。
二件目。
二十三分。
三件目。
二十五分。
近い。
でも。
四件目。
十一分。
カイの指が止まる。
リグも見る。
「違う」
「うん」
以前なら。
一件だけ違うものを、
例外として外したかもしれない。
でも今は違う。
なぜ違うか分からないなら、
外す理由もない。
カイは四件とも残す。
「これ、失敗?」
リグが聞く。
「何が?」
「揃わなかった」
「揃うと思ってなかった」
「じゃあ何見てるの?」
カイは紙を見る。
「どこまで揃えたら、同じように見えるのか」
「で?」
「まだ足りない」
閲覧時刻。
区画。
対象記録。
閲覧方法。
それでも違う。
なら。
違いは、
見えない部分にあるかもしれない。
もちろん。
ただのばらつきかもしれない。
カイは右側の欄を見る。
『見えない』
そこへ一つ追加する。
『その間に何をしていたか』
少し考えて、
もう一つ。
『何を目的に見ていたか』
リグがそれを見る。
「目的なんて記録に残るの?」
「残らない」
「じゃあ分からないじゃん」
「うん」
カイはすぐ答えた。
でも。
分からないなら、
分からないまま残しておけばいい。
そこを勝手に埋めるから、
記録が人の行動に見えてしまう。
カイは画面を閉じた。
「今日は終わり?」
「うん」
「何か分かった?」
カイは少し考える。
「前より分からなくなった」
リグが笑う。
「それ進んでる?」
「たぶん」
二人で閲覧区画を出る。
通路には、
何人もの利用者がいる。
端末を見る人。
立ち止まる人。
誰かと話す人。
そのまま通り過ぎる人。
もし閲覧履歴だけ見れば。
この中のほとんどは、
記録の上から消える。
カイは歩きながら思う。
記録に残るものだけが、
その人の行動ではない。
むしろ。
残らない時間の方が長い。
そして。
その見えない間に何があったかを、
勝手に埋めないこと。
今はそれが、
一番大事な気がした。
【今回の補足】
今回は、閲覧履歴に「残らない部分」を見ています。
記録に残るのは、
いつ閲覧したか。
どの区画から見たか。
一般閲覧か参照閲覧か。
といった、実際に記録された操作です。
でも、その操作と操作の間に、
歩いた。
休んだ。
誰かと話した。
別の用事をした。
といった行動があっても、
閲覧履歴だけからは分かりません。
なので、
中央区画
↓
参照閲覧
↓
北側区画
という並びが見えても、
その間の行動まで同じだったとは限りません。
今回はカイが、
「記録に残っている部分」
と
「記録からは見えない部分」
を分け始めた回です。
見えない部分を想像で埋めず、
分からないところは分からないまま残す。
その考え方が、
少しずつカイの観察の基準になってきています。




