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交差する視点

挿絵(By みてみん)

翌日の放課後。


カイは記録閲覧区画に入ると、

昨日まで使っていた端末には向かわなかった。


中央区画を抜ける。


そのまま北側へ。


昨日確認した履歴では、

長い空白の前後で閲覧区画が変わっていた。


中央。


空白。


北側。


もし同じ人物なら、

この通路を通った可能性がある。


もちろん。


同じ人物とは限らない。


だから今日は、

誰かを探すつもりではなかった。


カイは北側閲覧区画の端末を開く。


自分の対戦記録。


閲覧履歴。


並んでいるのは、

これまで見てきたものとほとんど同じだった。


日時。


一般閲覧。


対象記録。


閲覧区画。


カイは一つずつ紙へ写す。


中央。


北側。


中央。


北側。


時間だけで見れば、

約二十四分の並びがいくつかある。


区画まで加えると、

少し違う形になる。


中央から北側へ。


北側から中央へ。


必ず同じ方向ではない。


「移動してるだけじゃないのか」


後ろから声がした。


リグだった。


「かもしれない」


「今日はそれだけ?」


「もう一個見る」


カイは履歴を下へ送る。


そこで手が止まった。


ほとんどの行には、


『一般閲覧』


とある。


一件だけ。


違う。


『参照閲覧』


カイは画面へ顔を近づけた。


「これ何?」


リグも見る。


「一般じゃないな」


時刻を見る。


あの空白の途中。


中央区画で最後の一般閲覧。


そのあと。


参照閲覧。


そして、

北側区画で一般閲覧が再開している。


カイは紙へ三つ並べた。


中央区画 一般閲覧。


参照閲覧。


北側区画 一般閲覧。


「間に一個あった」


リグの声が少し低くなる。


「昨日は見えてなかった?」


「時刻だけ見てた」


表示自体は、

最初からあった可能性が高い。


カイが拾っていなかっただけ。


見ていない情報は、

存在していない情報ではない。


カイは職員を呼んだ。


「参照閲覧って何ですか?」


職員が画面を確認する。


「公開記録そのものではなく、別の記録から関連情報として参照された場合に付く区分です」


「誰かがこの記録を直接開いたわけじゃない?」


「その場合もありますが、必ずしもそうではありません」


カイは少し考える。


「別の対戦記録を見ていて、こっちが関連記録として表示されることもある?」


「あります」


リグがカイを見る。


カイはまだ画面を見ていた。


「じゃあ、この時に誰かが俺の記録を調べてたとは限らない」


「はい」


一つ、

可能性が減った。


でも。


同時に別のものが増えた。


「何の記録から参照されたかは見られますか?」


職員が操作する。


少し間があった。


「一般利用者が確認できるのは、参照元の公開区分までです」


画面に表示される。


『対戦記録』


それだけ。


カイは眉を寄せる。


リグが笑う。


「広すぎるな」


「うん」


対戦記録。


それなら、

賭約院には大量にある。


誰の記録なのか。


どんな勝負なのか。


自分が関わっているのか。


何も分からない。


でも。


カイは時刻を見た。


参照閲覧。


その前。


中央区画の一般閲覧。


その後。


北側区画の一般閲覧。


三つが並んでいる。


「これ、他の空白にもある?」


リグが言った。


カイは答えず、

別の日を開いた。


空白を探す。


あった。


その前後を見る。


中央区画。


一般閲覧。


その間。


参照閲覧。


北側区画。


一般閲覧。


二人とも黙った。


もう一つ。


同じ。


ただし今度は、


北側。


参照閲覧。


中央。


方向が逆だった。


「三件」


リグが言う。


カイは紙へ書く。


『確認三件』


少し考えてから、


『すべて空白内に参照閲覧あり』


と続ける。


リグの顔から、

いつもの笑いが少し消えていた。


「偶然?」


カイは画面を見る。


「まだある」


「何が?」


「偶然の可能性」


リグが息を吐く。


「三回でも?」


「三回だから気になる。でも三回だから決めない」


カイは別の記録を開く。


今度は、

空白がないもの。


約二十四分の一般閲覧が続いている。


その間。


参照閲覧。


なし。


次。


空白あり。


参照閲覧あり。


次。


空白なし。


なし。


一つずつ。


紙の上に並べる。


空白あり。


参照あり。


空白あり。


参照あり。


空白あり。


参照あり。


空白なし。


参照なし。


空白なし。


参照なし。


リグが紙を見る。


「さすがに同じだろ」


「今見た範囲では」


「まだ言うのか」


「言う」


カイは即答した。


でも。


自分でも分かっていた。


昨日までより一段、

偶然だけでは説明しにくくなっている。


問題は。


何が起きているのかではない。


まだそこへ行くには早い。


今分かったのは。


約二十四分の一般閲覧。


途切れる。


その間に参照閲覧。


そして別の区画から一般閲覧が再開する。


それが複数回ある。


そこまで。


「一つの流れに見えるな」


リグが言った。


カイは首を振らなかった。


否定する理由もない。


肯定する理由も、

まだ足りない。


「見える」


「同じ意味じゃない?」


「違う」


カイは紙を見る。


「見えることと、本当にそうなってることは別」


最初の頃から、

何度も繰り返してきたことだった。


リグが相手の視線を読む。


自分が意味を補う。


記録を見る。


あとから理由を作る。


そして今。


数字と場所を並べると、

一つの行動に見える。


だからこそ。


ここで決めるのは危ない。


カイは紙の上に線を引いた。


中央区画。


参照閲覧。


北側区画。


三つを一本で結ぶ。


その下に、


『同一行動とは未確定』


と書いた。


リグが横から見る。


「線引いたのに?」


「仮に並べただけ」


「ややこしいな」


「そう?」


「すごく」


カイは少し笑った。


端末を閉じる。


今日はここまで。


出口へ向かう途中。


中央閲覧区画を通る。


何人もの利用者が、

それぞれ別の記録を見ている。


北側へ続く通路にも人がいる。


誰が何を見ているのか。


カイには分からない。


そして。


その中の誰かと、

自分が見ている履歴がつながっているのかも分からない。


ただ。


別々に見えていた記録。


時刻。


場所。


参照。


それらが初めて、

同じ場所で交差した。


カイは振り返らず、

賭約院を出た。

【今回の補足】


今回は、閲覧履歴に新しく

「参照閲覧」という区分が出てきています。


これは、

その記録を直接開いて読んだ場合だけではなく、

別の対戦記録を見ている途中で関連情報として参照された場合にも残るものです。


これまでカイが見ていたのは、


一般閲覧の時刻。

閲覧された区画。

途中にできる空白。


でした。


今回はそこへ、


「空白の中に参照閲覧が入っている」


という情報が加わっています。


確認した範囲では、


一般閲覧

↓

参照閲覧

↓

別区画から一般閲覧


という並びが複数回ありました。


ただし、

この三つが同じ人物の一連の行動なのかは分かりません。


カイも今回は、

「つながっている」と決めたわけではなく、


別々に見えていた情報が、

同じ場所で重なり始めたところまでを確認しています。

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