見え始めた形
翌日の放課後。
カイは、
昨日まで使っていた机には座らなかった。
記録閲覧区画の長い通路を歩きながら、
頭の中で時刻を並べ直していた。
約二十四分。
途切れる。
そして、
また約二十四分へ戻る。
規則性よりも、
今はその空白の方が気になっている。
何も起きていない時間。
そう見える時間。
でも。
本当に何も起きていないのか。
カイは端末の前で足を止めた。
昨日確認した履歴を開く。
途切れる直前。
十三時三分二十八秒。
次。
十三時四十一分四十六秒。
三十八分十八秒。
そのあと。
十四時六分十二秒。
再び約二十四分。
カイは、
今度は時刻の横に別の項目を並べる。
閲覧された記録。
閲覧区分。
修正履歴の有無。
公開された時期。
前後の閲覧件数。
一つずつ。
「前は……」
空白の直前。
閲覧されたのは、
第十二話の記録。
修正履歴あり。
空白のあと。
同じ記録。
ここだけなら何も分からない。
別の日。
別の空白。
直前。
三箱選択。
空白のあと。
四札。
違う。
その次。
直前。
第一戦。
空白のあと。
第一戦。
同じ。
カイは紙へ書く。
『同じ記録の時もある』
『違う記録の時もある』
記録切り替えが原因。
その可能性は弱くなる。
次。
修正履歴。
ある記録。
ない記録。
どちらでも空白がある。
これも違う。
カイは紙の端へ線を引く。
候補を消す。
原因が分かったわけではない。
ただ。
合わない説明を一つずつ外していく。
それだけ。
「何探してるんだ?」
リグの声。
カイは振り返る。
「空白の前と後」
「何か違った?」
「今のところ、揃ってない」
リグが紙を見る。
「じゃあ何もないんじゃない?」
「それもある」
「あるのかよ」
「ないって決める理由もまだないから」
リグが苦笑する。
二人で端末を見る。
カイは、
少し違う項目を開いた。
閲覧区画。
同じ記録でも、
どの区画から閲覧されたか。
細かい端末番号は見えない。
ただし、
中央閲覧区画。
北側閲覧区画。
外部公開端末。
それくらいの区分は残る。
カイの目が止まった。
「……これ」
途切れる直前。
中央閲覧区画。
途切れたあと。
北側閲覧区画。
別の日。
途切れる直前。
中央閲覧区画。
そのあと。
北側閲覧区画。
もう一件。
同じ。
カイは黙る。
リグも画面を見る。
「全部?」
「今見た三件は」
「じゃあ移動してる?」
カイはすぐには頷かなかった。
中央から北側。
その間、
閲覧が途切れる。
そして再開。
人が移動しているなら、
時間が空くのは自然。
でも。
約十四分。
三十八分。
五十一分。
空白の長さは揃っていない。
「移動時間にしては長すぎるのもある」
「途中で何かしてるとか」
「かもしれない」
「休憩」
「かもしれない」
「別の用事」
「それも」
リグが笑う。
「何でもありだな」
カイも少し笑った。
でも。
今回は、
前より一つだけ進んだ。
空白そのものではなく。
空白の前後で、
閲覧区画が変わっている。
少なくとも三件。
それは事実。
カイは紙へ書く。
『空白前:中央閲覧区画』
『空白後:北側閲覧区画』
その下。
『三件確認』
さらに。
『同一人物かは不明』
リグがそこを見る。
「やっぱりそこなんだな」
「うん」
同じ人なら。
移動しているように見える。
でも。
違う人なら。
中央で誰かが見たあと、
しばらくして別の誰かが北側から見ただけ。
全く意味が変わる。
「閲覧者が分からないと進まないな」
リグが言う。
カイも同じことを思っていた。
でも。
分からないものを、
分かるようにする方法がないとは限らない。
「直接誰かを特定する必要あるかな」
「どういう意味?」
「同じ人かどうかだけ分かればいい」
「名前いらないの?」
「今は」
カイは紙を見る。
知りたいのは、
誰なのかではない。
一連の閲覧が、
一人の行動なのか。
それとも、
別々の人の偶然なのか。
そこだけ。
名前も顔も必要ない。
「同じ閲覧者かどうかって、確認できるのかな」
リグが端末を見る。
「職員に聞けば?」
「聞いてみる」
カイは記録窓口へ向かった。
質問する。
「閲覧者の名前じゃなくて、同じ人かどうかだけ分かりますか?」
職員は少し考えた。
「通常の公開情報では分かりません」
「内部では?」
「同一利用者の識別自体は可能です」
カイの目が止まる。
「じゃあ、記録はある?」
「あります。ただし一般利用者には公開されません」
リグが横を見る。
カイは続ける。
「本人の名前を出さなくても?」
「同一人物かどうかだけでも、利用者情報にあたります」
「そうなんだ」
そこで終わり。
見られない。
カイは素直に引いた。
戻る途中。
リグが言う。
「詰んだ?」
「今の方法では」
「諦める?」
「別の方法考える」
リグが少し笑った。
「やっぱりそうなるか」
二人は閲覧区画へ戻る。
カイは通路の途中で足を止めた。
中央閲覧区画。
そこから北側閲覧区画へ続く通路。
実際に歩いてみる。
一分。
二分。
ゆっくり歩いても数分。
空白の長さとは合わない。
でも。
途中には。
公開卓。
受付。
資料棚。
休憩区画。
いくつもある。
カイは通路の先を見る。
もし一人なら。
この間で何かをしている。
もし別人なら。
何もつながっていない。
まだ両方残る。
それでいい。
カイは紙に最後の一行を書く。
『空白の前後で、場所が変わる』
その下。
少し空けて。
『意味はまだ不明』
今回は、
そこまでだった。
【今回の補足】
今回は、
約二十四分の閲覧間隔が途切れる前後を見ています。
時刻だけを追っていると、
「一定間隔で閲覧されている」
「途中で一度止まる」
というところまでしか分かりませんでした。
そこで今回は、
その前後で何が変わっているのかを確認しています。
今のところ見つかったのは、
空白の前は中央閲覧区画。
空白の後は北側閲覧区画。
という組み合わせが複数回あったことです。
ただし、
これが一人の閲覧者による移動なのか、
別々の人が偶然別の場所から閲覧しただけなのかは分かりません。
閲覧者本人の情報は、
一般利用者からは確認できないためです。
なので今回は、
「空白の前後で場所が変わっている」
という事実だけが増えています。
誰なのか。
なぜなのか。
そこはまだ決めていません。




