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重なる時刻

挿絵(By みてみん)

翌日の放課後。


カイは記録閲覧区画の端にある小さな机を使っていた。


今日は一つの記録を見るためではない。


自分がこれまで参加した賭約の閲覧履歴を、

時刻だけ抜き出して並べていた。


第一戦。


三箱選択。


四札。


記号盤。


それぞれの記録に残っている一般閲覧の時刻。


誰が見たのかは分からない。


何のために見たのかも分からない。


だから、まずは時刻だけ。


カイは紙に書く。


十時十四分二十七秒。


十時三十八分十一秒。


十一時二分三秒。


十一時二十六分十七秒。


十一時五十分四十二秒。


十二時十七分九秒。


一度手が止まる。


「……近い」


完全に同じ間隔ではない。


でも。


最初の四つ。


二十三分四十四秒。

二十三分五十二秒。

二十四分十四秒。


その次。


二十四分二十五秒。


カイはもう一度計算する。


きれいに揃ってはいない。


けれど、

ばらばらとも言いにくい。


「偶然かな」


口に出してから、

その言葉も紙へ書いた。


『約二十四分間隔に見える』


その下。


『偶然の可能性あり』


さらに。


『同一閲覧者かは不明』


カイは別の日の履歴を開く。


今度は間隔が違う。


七分。

三十一分。

一時間以上。


規則性はない。


「こっちは違う」


少し安心する。


全部が同じなら、

それはそれで気持ち悪かった。


次。


別の対戦記録。


こちらもばらばら。


その次。


カイの手がまた止まる。


十時十三分。


十時三十七分。


十一時一分。


十一時二十五分。


また。


約二十四分。


カイは画面を見たまま黙った。


一回だけなら偶然。


二回でも偶然かもしれない。


でも。


同じような間隔が、

別の記録でも出ている。


「同じ人?」


すぐに線を引く。


それはまだ分からない。


同じ人とは限らない。


複数人が同じ周期で見ている可能性もある。


賭約院側の自動確認が、

一般閲覧として残っている可能性。


それは前に聞いた説明と合わない。


でも、

別の仕組みがあるかもしれない。


カイは候補を書き始める。


『同一人物』

『複数人物』

『自動処理』

『偶然』


少し考えて、

もう一つ。


『他の理由』


最後だけ曖昧だった。


でも。


分からないものを、

無理に四つの中へ押し込むよりはいい。


しばらくして。


リグがやってきた。


「何してる?」


「時刻見てる」


「また記録?」


「閲覧履歴」


リグが紙を見る。


「数字ばっかりだな」


「ここ」


カイが丸をつけた時刻を指す。


「だいたい二十四分ずつ」


リグが目を細める。


「本当だ」


「別の記録にもある」


「じゃあ誰かが定期的に見てる?」


「かもしれない」


「またそれ」


「だって分からない」


リグはしばらく画面を見た。


「同じ奴じゃないの?」


「閲覧者は分からない」


「じゃあ調べようがないな」


カイは少し黙る。


「今は」


リグが顔を向ける。


「今は?」


「見える範囲だけでも、まだあるかもしれない」


カイは紙を裏返す。


今度は、

時刻だけではなく。


何を見られたのか。


そこも並べる。


第一戦。


三箱選択。


四札。


記号盤。


閲覧された日時。


修正が起きた記録かどうか。


勝ち。

負け。

引き分け。


公開された直後か。

数日後か。


リグが言う。


「そこまで見るの?」


「時間だけ同じでも意味ないから」


「さっきは時間が気になってたじゃん」


「だから次を見る」


リグが少し笑う。


「本当に止まらないな」


カイも笑った。


でも。


紙を見ていると、

少しだけ背中が冷える。


規則性。


それ自体は怖くない。


問題は。


規則性があるように見えた時、

人はそこに理由を作りたくなること。


カイはそれを何度も経験している。


視線。


指の動き。


札を出す時間。


結果。


全部。


だから今回も。


急がない。


一つずつ。


「これ、誰かに見せる?」


リグが聞く。


「まだ」


「なんで?」


「二つ見つかっただけだから」


「十分じゃない?」


「十分じゃない」


カイは紙を指す。


「規則性があるように見えることと、本当にあることは別だから」


リグは黙った。


しばらくして。


「じゃあ、何件あればいい?」


カイは止まる。


それは考えていなかった。


三件。


五件。


十件。


多ければいいわけでもない。


条件が違えば、

比較できないかもしれない。


「分からない」


「結局それか」


「でも、同じ条件を増やす」


リグが少しだけ真面目な顔になる。


「同じ条件?」


「公開された記録で、自分が参加してて、一般閲覧の履歴が見えるやつ」


「それを全部?」


「全部はまだ」


「じゃあ?」


「次は、同じ時期の記録」


時間そのものではなく。


条件を揃える。


その考え方は、

これまでやってきたことと同じだった。


一つの動きを見る。


前後を見る。


結果を知る前と後を分ける。


自分が補った条件を分ける。


そして今度は。


比較する条件を揃える。


カイは紙の上に新しく書く。


『比較条件』


リグがそれを見る。


「また増えた」


「うん」


「最終的に何枚になるんだ、その紙」


「分からない」


カイは笑った。


その時。


端末の端に新しい履歴が追加された。


十一時五十分四十二秒。


カイは目を止める。


少し待つ。


何も起きない。


一分。


五分。


十分。


二十分。


二十四分。


画面が更新される。


十二時十五分三秒。


カイも、

リグも黙った。


完全に同じ間隔ではない。


それでも。


偶然という言葉だけで片づけるには、

少しだけ気になる。


カイは紙に時刻を追加した。


そして。


理由は書かなかった。

【今回の補足】


今回は、閲覧履歴に残る「時刻」を並べています。


誰が見たのかは分かりません。


なのでカイが見ているのは、


いつ見られたか。

どれくらいの間隔で見られたか。


そこまでです。


いくつかの履歴を並べると、

およそ同じくらいの間隔で閲覧されているように見えるものがありました。


ただし、


同じ人が見ているのか。

複数人なのか。

何か別の仕組みなのか。

単なる偶然なのか。


この時点では何も確定していません。


カイも、

規則性が見えたからすぐ意味をつけるのではなく、


比較する条件を揃えて、

同じ現象が本当に続くのかを見る方へ進んでいます。


今回は、

「何かがある」と決める回ではなく、


「偶然に見えるものと、繰り返しに見えるものをどう分けるか」


を考え始めた回です。

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