↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/29

修正の跡

挿絵(By みてみん)

翌日。


カイは、昨日と同じ記録閲覧窓口にいた。


目的は一つ。


第三ラウンドの表示が、

どう直されたのかを見ること。


端末を開く。


第十二話の対戦記録。


第一ラウンド。

第二ラウンド。


そして第三ラウンド。


剣、四。


昨日まで三だった場所が、

原記録と同じ数字へ修正されている。


「直ってる」


それだけなら終わりだった。


カイは画面の端を見る。


小さく表示された項目。


『修正履歴』


開く。


修正前。

剣、三。


修正後。

剣、四。


修正理由。

『閲覧用集計表示の反映誤差』


修正申請。

昨日。


修正完了。

今日。


カイは一つずつ紙へ写す。


消されていない。


間違っていた記録も、

間違っていたこと自体も残っている。


そこまでは、

昨日聞いた通りだった。


でも。


一つ気になる。


「反映誤差……」


昨日、職員は

『簡易表示側の反映に誤りがあります』

と言っていた。


似ている。


でも少し違う。


カイは窓口の職員へ聞いた。


「これ、反映誤差って何ですか?」


職員が画面を見る。


「原記録から閲覧用表示へ変換する際に、正常に反映されなかったという意味です」


「誰かが数字を間違えて入力したんじゃない?」


「今回の形式では、盤面数値は原記録から自動生成されます」


カイの手が止まる。


「自動?」


「はい」


昨日は、

原記録と閲覧用記録が別にあることだけ聞いた。


どうやって作られるのかまでは聞いていない。


「じゃあ、人が三って書いたわけじゃない?」


「通常はありません」


通常。


カイはその言葉を覚えておく。


「じゃあ、なんで一個だけ違ったんですか?」


職員は少し困ったような顔をした。


「そこまでは修正履歴には出ません」


「誰なら分かる?」


「記録管理側で詳細確認を行えば、処理経路は追えると思います。ただ、一般参加者が閲覧できる範囲ではありません」


カイは頷く。


見えない。


それは、

隠されているという意味ではない。


自分に閲覧権限がない。


今分かるのはそこまで。


カイは紙へ書く。


『閲覧表示は自動生成』

『原因詳細は一般閲覧不可』


そして、


『人の入力ミスとは限らない』


と書いた。


そこまで書いてから、

一度線を引く。


『とは限らない』


ここは推測ではない。


可能性を狭めただけ。


窓口を離れようとした時、

別の端末が目に入った。


昨日、自分が使ったものとは違う。


同じ種類の閲覧端末。


カイは少し考える。


「同じ記録、別の端末で見てもいいですか?」


「もちろんです」


別の端末を開く。


第十二話。

第三ラウンド。


剣、四。


同じ。


修正履歴も同じ。


カイはさらに隣を見る。


「もう一つも?」


職員が少し笑う。


「確認したいならどうぞ」


三台目。


同じ。


剣、四。


修正履歴も同じ。


つまり、

一台だけ壊れていたわけではない。


少なくとも今は。


カイは紙へ書く。


『現在は全端末で同じ表示』


その時、

後ろから声がした。


「まだやってたのか」


リグだった。


「昨日のやつ」


「直ってた?」


「直ってた」


「じゃあ終わりじゃん」


カイは画面を指す。


「修正履歴も残ってる」


リグが見る。


「いいことだろ」


「うん」


「じゃあ何が気になる?」


カイは少し考えた。


「間違ってたことじゃない」


リグが眉を上げる。


「じゃあ何?」


「どう間違ったのか」


リグが画面を見る。


カイは続ける。


「人が入力したなら、入力ミスかもしれない」


「うん」


「でも自動生成なら、どこかで一個だけ違う数字が出た理由がある」


「不具合だろ」


「たぶん」


「また『たぶん』か」


カイは少し笑う。


「だって、不具合って言葉だけじゃ何が起きたか分からないから」


リグが端末へ視線を戻す。


「でも直ってる」


「うん」


「勝敗も変わってない」


「うん」


「誰も困ってない」


カイはそこで少し黙った。


昨日までは、

自分もそう考えていた。


勝敗に影響しない。


原記録は正しい。


修正された。


なら問題は小さい。


でも。


「昨日、俺が気づかなかったら?」


リグが黙る。


「そのうち直ったんじゃないか?」


「かもしれない」


「自動で検出するかもしれない」


「それもある」


カイは修正履歴を見る。


申請者の欄。


個人名は表示されない。


ただ、


『閲覧者申告』


とだけ書かれている。


「俺が言ったから修正された」


「そうみたいだな」


「じゃあ、誰も見なかった記録は?」


リグの表情が少し変わった。


カイも、

それ以上は言わなかった。


分からない。


他にもあるとは限らない。


昨日の一件だけかもしれない。


そして、

閲覧されなくても内部で検出される仕組みがあるかもしれない。


まだ何も確認していない。


だから決めない。


ただ。


確認する場所が増えた。


「他の修正履歴って見られる?」


カイが職員へ聞く。


「ご自身が参加した記録については、閲覧範囲内の履歴を確認できます」


「他人の記録は?」


「公開対象になっているものでも、修正履歴の詳細は一部制限されます」


カイは頷く。


自分が参加した過去の勝負。


一戦目。

二戦目。

三箱選択。

四札。


見られるものだけでもある。


リグが横で言う。


「全部見る気か?」


「今すぐ全部じゃない」


「珍しいな」


「一個見つけたからって、全部同じだと思わない」


リグが少し笑った。


「成長したな」


「前から?」


「前なら一晩中やってそう」


「それはあるかも」


カイも笑う。


今日は、

過去の対戦を一つだけ選んだ。


最初の賭約。


修正履歴。


なし。


次。


三箱選択。


修正履歴。


なし。


カイはそこで止めた。


二件だけ。


何もなかった。


それも記録する。


『確認二件:修正履歴なし』


一件だけのずれ。


二件の正常。


まだ何も言えない。


でも。


昨日までは存在しなかった項目が、

カイの紙に増えていた。


『修正された記録』


その下。


『修正されていない記録』


そして最後に。


『まだ見ていない記録』


カイは紙を折る。


今のところ、

異常より正常の方が多い。


だからこそ。


あの一件だけが、

少し目立って見えた。

【今回の補足】


今回は、賭約院に残される記録について少しだけ掘り下げています。


賭約院では、勝敗を確定するための正式な記録とは別に、

参加者が後から確認できる閲覧用の記録も用意されています。


そして記録に変更が加わった場合でも、

過去の状態が完全に消えるのではなく、

「変更された」という事実そのものは残ります。


カイが今回気にしたのは、

一つの違いそのものよりも、


「自分が普段見ている情報は、どこから作られているのか」


という部分でした。


記録があるから正しい。

公開されているから完全。


そう単純に決めるのではなく、

その情報がどう作られ、どこまで確認できるものなのかを見る。


カイの観察対象が、

少しずつ人や勝負だけではなく、

賭約院という仕組みそのものにも広がり始めています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。