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記録のずれ

挿絵(By みてみん)

翌日。


カイは賭約院の記録閲覧窓口にいた。


昨日の三人勝負。

結果は引き分け。


もう一度やり直したいわけではない。


気になっているのは、途中の盤面だった。


参加者全員の選択が積み重なって、

次の判断条件そのものを作っていく。


昨日それに気づいてから、

実際の記録を順番に追ってみたくなった。


端末に対戦記録を呼び出す。


第一ラウンド。


カイ、剣。

左、盾。

右、剣。


盤面。


剣、二。

盾、一。

鍵、零。

冠、零。


記憶と同じ。


第二ラウンド。


カイ、盾。

左、鍵。

右、冠。


盤面。


剣、二。

盾、二。

鍵、一。

冠、一。


ここも同じ。


第三ラウンド。


カイは画面を見たまま止まった。


カイ、剣。

左、剣。

右、盾。


その下。


『確定盤面』


剣、三。

盾、三。

鍵、一。

冠、一。


「……違う」


声が漏れた。


昨日、

第三ラウンド終了時の盤面は、


剣、四。

盾、三。

鍵、一。

冠、一。


だった。


少なくとも、カイはそう覚えている。


二人が剣を出した。


剣は二から四へ増えた。


そこは単純だ。


カイは一つ前の記録へ戻る。


剣、二。


もう一度第三ラウンド。


公開札。


剣。

剣。

盾。


なのに。


確定盤面。


剣、三。


一つ足りない。


カイはしばらく画面を見た。


自分の記憶が間違っている可能性。


まずそれを残す。


紙を出す。


『記憶:剣4』

『公開記録:剣3』


その下に、


『どちらが正しいか未確認』


と書いた。


「どうされました?」


窓口の職員が声をかける。


「昨日の記録なんですけど」


カイは端末を示した。


「第三ラウンドで剣が二枚出ています」

「はい」

「その前が二ですよね」

「はい」


職員も画面を見る。


「でも、ここ三になってます」

「……少々お待ちください」


職員の表情が変わった。


大きくではない。


ほんの少しだけ。


カイはそれを見る。


驚いた。


そう見えた。


でも、それはまだ書かない。


職員が別の画面を開く。


「公開表示は簡易記録です。元記録を確認します」


カイは顔を上げた。


「元記録?」


「卓で発生した処理は、まず原記録へ残ります。その内容から、閲覧用の記録が作られます」


「同じものじゃないんですか?」


「内容は同一であることが前提です」


前提。


その言葉が残る。


しばらくして、

職員が原記録を表示した。


第三ラウンド。


三人の提出。


カイ、剣。

左、剣。

右、盾。


処理。


剣、+二。

盾、+一。


確定盤面。


剣、四。

盾、三。

鍵、一。

冠、一。


カイは画面を見る。


「こっちは四だ」


「はい」


職員が少しだけ眉を寄せた。


「簡易表示側の反映に誤りがあります」


「記録が間違うことあるんですか?」


「原記録そのものではありません」


答えはすぐ返ってきた。


「閲覧用表示の問題です。正式な勝敗判定は原記録を基準に行われています」


「昨日の結果は?」


「確認します」


数秒。


「原記録では正常です。最終結果にも影響ありません」


確かに。


第三ラウンドで剣が一つ足りなく表示されていても、

第四ラウンド後の正式判定が原記録で行われているなら、

昨日の引き分けは変わらない。


問題はない。


少なくとも、

勝敗には。


カイは紙へ書く。


『勝敗への影響なし』


その下。


少し迷ってから、


『表示と原記録が一致しない』


と書いた。


職員が言う。


「こちらは修正申請を上げます」


「いつ直りますか?」


「確認後になります」


「修正したことも残りますか?」


職員が一瞬だけカイを見る。


「残ります」


カイは頷いた。


そこは少し安心した。


間違いが起きない。


それより。


間違いが起きた時に、

何が起きたのか残る。


その方が重要なのかもしれない。


閲覧窓口を離れる。


ちょうど入口からリグが入ってきた。


「何してた?」


「昨日の記録見てた」


「また?」


「一個違ってた」


リグの足が止まる。


「何が?」


「第三ラウンドの盤面」


カイが説明する。


リグは最初、

いつものように軽く聞いていた。


でも。


途中から笑わなくなった。


「原記録は?」


「合ってた」


「じゃあ表示だけか」


「うん」


リグは少し考える。


「なら別にいいんじゃないか?」


カイも最初はそう思った。


勝敗は変わらない。


原記録は正しい。


表示は修正される。


全部正常に戻る。


「たぶん」


「たぶん?」


カイは少し振り返る。


閲覧窓口。


何人かが同じように、

過去の勝負を見ている。


「俺たち、何を見て相手のこと考えてた?」


リグが黙る。


カイは続ける。


「公開記録」


勝敗だけではない。


過去の選択。

ラウンドごとの結果。

盤面。

宣言。


そういうものを見て、

次の相手を考えることがある。


「もし勝敗には影響しないけど、見る人には影響する記録だったら?」


リグの目が少し細くなる。


「考えすぎじゃないか?」


「かもしれない」


カイはすぐ答えた。


「だからまだ分からない」


以前なら。


違いを見つけた瞬間、

理由を探したかもしれない。


誰かが間違えた。

仕組みに問題がある。

何か意図がある。


今はどれも決めない。


分かっているのは二つ。


原記録は四。


公開表示は三。


それだけ。


でも。


その二つが違っていたことは、

消さない方がいい。


カイは紙を折りたたむ。


リグが横で言った。


「お前、最近そういうのばっかり拾うな」


「拾おうとしてるわけじゃないよ」


「じゃあ何だよ」


カイは少し考えた。


「見つかっただけ」


二人は公開卓の方へ歩き始める。


途中。


カイは一度だけ振り返った。


閲覧端末の画面は、

まだ第三ラウンドを表示していた。


剣、三。


修正されるまで。


そこには、

昨日とは違う盤面が残っていた。

【今回の補足】


今回は新しい勝負ではなく、

第12話の対戦記録を見直しています。


ここで出てきたのは、


「原記録」

と

「閲覧用の簡易記録」


の違いです。


原記録は、

卓で実際に行われた提出や処理、盤面の変化などを残す基礎記録です。


閲覧用の記録は、

それを参加者が後から確認しやすい形にした表示です。


今回ずれていたのは閲覧用の表示だけで、

勝敗判定に使われた原記録は正しいままでした。


なので第12話の結果は変わりません。


ただしカイが気にしたのは別のところです。


公開された過去記録は、

次の勝負で相手を調べるための情報にもなります。


つまり、


「勝敗へ影響しない表示のずれ」


でも、


「それを読んだ人の判断」


には影響する可能性があります。


もちろん今回の時点では、

単純な表示上の不具合なのか、

他にも同じことがあるのか、

何か別の理由があるのかは分かっていません。


なのでカイも結論は出していません。


今確定しているのは、


「原記録は剣4」

「公開表示は剣3」


という小さな違いが一つ見つかったことだけです。

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