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動き出す盤面

挿絵(By みてみん)

翌日の放課後。

カイは再び賭約院へ来ていた。


昨日は説明票を読むだけで帰った。


今日は違う。


公開卓の一覧から一つを選び、

参加条件を最初から確認する。


参加人数は三人。


使用するのは、

四種類の記号が描かれた札。


剣。

盾。

鍵。

冠。


それぞれ三枚ずつ。

合計十二枚。


卓の中央には、

四つの記号が描かれた盤面がある。


カイは説明票を最後まで読む。


それから立会執行官へ聞いた。


「同じ記号の札は全部同じ効果ですか?」

「はい」

「一人が最初に持つ札の枚数は?」

「四枚です」

「配られる札は完全に無作為?」

「はい」

「他の参加者の手札は見えない?」

「公開されるまでは見えません」

「途中で札を交換することは?」

「ありません」


一つずつ確認する。


書いてあること。

書いていないこと。


そして、

自分が勝手に補っていないか。


問題はなかった。


カイは参加票へ名前を書く。


卓につく。


向かいには二人の参加者。


一人はカイより少し年上に見える少年。

もう一人は成人前くらいの青年。


どちらも知らない相手だ。


リグは少し離れたところで観戦している。


立会執行官が十二枚の札を混ぜる。


一人四枚。


カイの手札。


剣。

剣。

盾。

鍵。


冠はない。


「開始します」


第一ラウンド。


盤面中央の四つの記号は、

すべて零点から始まる。


参加者は一枚ずつ伏せて出す。


三枚が揃ったところで、

同時に公開。


カイ、剣。


左の参加者、盾。


右の参加者、剣。


同じ記号が二枚。


剣の盤面だけが二つ進む。


盾は一つ。


鍵と冠は動かない。


カイは盤面を見る。


この勝負では、

自分が出した札そのものが得点になるわけではない。


盤面に積み上がった記号の数が、

最後の価値になる。


第二ラウンド。


現在。


剣、二。

盾、一。

鍵、零。

冠、零。


カイの残り札。


剣。

盾。

鍵。


ここで剣を出せば、

剣は少なくとも三になる。


だが。


他の二人が剣を持っているかは分からない。


カイは左の参加者を見る。


第一ラウンドで盾を出した。


右は剣。


そこまでは事実。


「剣を持っていそう」


そう考えることはできる。


でも。


第一ラウンドで剣を出したから、

まだ剣を持っているとは限らない。


持っていないとも限らない。


カイは盾を伏せる。


公開。


カイ、盾。


左、鍵。


右、冠。


三種類が一つずつ動く。


盤面は、


剣、二。

盾、二。

鍵、一。

冠、一。


カイは少しだけ面白くなった。


誰か一人の動きを読むだけでは足りない。


三人が出した結果そのものが、

次の盤面を作る。


第三ラウンド。


カイの残りは、


剣。

鍵。


二枚。


左の参加者は、

公開された札から考えれば、

三枚のうち二枚をすでに使っている。


右も同じ。


カイは盤面を見る。


剣と盾が二。

鍵と冠が一。


現時点では、

剣と盾が最も高い。


ただし最終ラウンドまで残っている。


「最後に一番多い記号が価値を持つ」


説明票の文章をもう一度思い出す。


勝つためには、

自分の手札の記号を増やせばいいわけではない。


最後に価値の高い記号を、

自分が何枚持っていたか。


そこまで含めて決まる。


カイはそこで手を止めた。


自分の残りは剣と鍵。


もし剣をさらに増やせば、

剣の価値は高くなる可能性がある。


そして自分は、

すでに剣を一枚使用している。


使用済みの札も、

最後の所有点として数える。


なら。


剣を伸ばす意味はある。


カイは剣を伏せた。


公開。


カイ、剣。


左、剣。


右、盾。


盤面。


剣、四。

盾、三。

鍵、一。

冠、一。


リグが観戦席で少し笑った。


第四ラウンド。


最後。


カイに残っているのは鍵だけ。


もう選択はない。


左と右にも一枚ずつ残っている。


三枚が伏せられる。


公開。


カイ、鍵。


左、冠。


右、盾。


最終盤面。


剣、四。

盾、四。

鍵、二。

冠、二。


剣と盾が同数。


立会執行官が確認する。


「最終価値は、剣と盾が同率一位です」


ここから得点計算。


各参加者は、

自分が四ラウンドで使用した札を確認する。


カイ。


剣。

盾。

剣。

鍵。


剣二枚。

盾一枚。


剣と盾が最高価値なので、

合計三点。


左の参加者。


盾。

鍵。

剣。

冠。


剣一枚。

盾一枚。


二点。


右。


剣。

冠。

盾。

盾。


剣一枚。

盾二枚。


三点。


カイと右の参加者が同点。


引き分け。


勝負が終わる。


カイは盤面を見たまま動かなかった。


負けてはいない。


勝ってもいない。


でも、

気になったことがある。


第三ラウンド。


自分が剣を出した。


その直後、

左も剣を出していた。


同じ判断だったのか。


それとも、

まったく別の理由だったのか。


「どうだった?」


リグが近づいてくる。


「面白かった」

「勝てなかったけど?」

「そこじゃない」


カイは最終盤面を指す。


「途中の盤面が、次の選択を変える」

「そりゃそうだろ」

「でも、その盤面を作ったのも前の選択なんだよね」


リグが少し考える。


「つまり?」

「見る側と見られる側だけじゃない」


カイは盤面を見る。


「みんなで、次の条件を作ってる」


第一ラウンドで出した札。


第二ラウンドで動いた記号。


第三ラウンドで残った選択。


それらが全部、

次の判断材料になる。


最初にあった条件だけではない。


勝負の途中で、

条件そのものが少しずつ変わっていく。


もちろんルールは変わっていない。


変わるのは盤面。


そして、

その盤面を見ている参加者の判断。


「これ、記録で見たい」


リグが笑う。


「やっぱりそこに戻るのか」

「うん」


カイは使い終わった札を見る。


勝負が始まる前の条件。


勝負の途中で生まれる条件。


そして、

それをどう見るか。


盤面は、

ただ結果を表示しているだけではなかった。


参加者全員の選択が積み重なって、

次の選択を作る場所だった。

【今回の賭博ルール】


今回は三人で行う「記号盤」という勝負です。


使う札は四種類。


・剣

・盾

・鍵

・冠


各記号三枚ずつ、全部で十二枚あります。


三人の参加者へ四枚ずつ無作為に配られます。


各ラウンド、

全員が手札から一枚を伏せて出し、

同時に公開します。


公開された記号の数だけ、

中央の盤面にある同じ記号の値が増えます。


たとえば三人のうち二人が剣を出せば、

剣の値が二つ増えます。


これを四ラウンド行います。


最後に、

盤面で最も値が高くなった記号が「最高価値」になります。


参加者は、

自分が四ラウンドで使用した札の中に

最高価値の記号が何枚あったかを数えます。


その枚数が得点です。


今回のように盤面で複数の記号が同率一位になった場合は、

どちらも最高価値として扱います。


この勝負では、

最初に配られた手札だけでなく、

それまでに全員が何を出したかによって

次の盤面が変わっていきます。


つまり、


自分が盤面を見て選ぶ一方で、

自分の選択も次の盤面を作っています。


今回はカイが、

相手を観察するだけではなく、


「参加者全員の選択が、次の判断条件そのものを作っていく」


というところに気づいた回です。

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