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見えない札

挿絵(By みてみん)

数日後。

カイは、また公開卓の席に座っていた。


今回はリグとの勝負ではない。


向かいにいるのは、少し年上に見える参加者。

名前は開始前の登録で聞いたが、それ以上のことは知らない。


リグは参加せず、少し離れた場所から卓を見ている。


卓の中央には、伏せられた札が四枚。


立会執行官が説明する。


「各参加者は開始時に三点を持ちます」


カイは説明票を見る。


四枚の札には、


正点。

零点。

負点。

倍点。


の四種類が一枚ずつ入っている。


ただし、どの札がどこにあるのかは分からない。


各ラウンドで参加者は一枚を選ぶ。


選ばれた札は公開され、

その効果を受ける。


一度公開された札は卓から除かれる。


残った札だけで次のラウンドを続ける。


全三ラウンド。


最後に持ち点が多い方が勝ち。


「倍点は?」

カイが聞く。


「現在の持ち点を二倍にします」

「零点は?」

「変化なしです」

「負点?」

「一点を失います」

「正点は?」

「一点加算です」


カイは四枚を見る。


どれも裏面は同じ。


「最初は完全に分からない?」

「はい」


立会執行官が答える。


カイは頷いた。


第一ラウンド。


分かっていることは何もない。


本当に何もない。


相手の視線を見る。


右端。


一瞬だけ目が止まった。


カイも右端を見る。


そこで、自分の考えが動く。


(知ってる?)


すぐに止める。


相手が右を見た。


事実。


右の札の中身を知っている。


推測。


開始前に札の位置を知る方法がないことは、

ルール確認で確かめている。


なら、相手の視線そのものから札の中身を推測する理由はない。


カイは左から二番目を選んだ。


相手は右端。


公開。


カイは零点。


相手は負点。


相手の持ち点が二点になる。


カイは三点のまま。


リグが後ろで小さく笑った。


第二ラウンド。


残りは三枚。


正点。

倍点。

そして、まだ公開されていないもう一枚。


何が消えたか分かったことで、

最初より情報が増えている。


相手が今度は中央を見る。


カイはその視線を見た。


でも、そこから意味を作らない。


代わりに、

第一ラウンドの選択を見る。


相手は右端を選んだ。


結果は負点。


つまり、

少なくとも第一ラウンドの時点で右端が負点だと知っていた可能性は低い。


もちろん、知っていて選んだ可能性もゼロではない。


けれど。


その可能性を高く見る理由もない。


カイは自分の紙に短く書く。


『第一選択:右端』

『結果:負点』

『事前認識:不明』


相手が言う。


「そんなの書くんだな」

「忘れるから」

「俺が何考えてるかも?」

「それは書けない」


相手が少し笑った。


第二ラウンド。


カイは右端を選ぶ。


相手は中央。


公開。


カイ、正点。


四点。


相手、倍点。


二点が四点になる。


同点。


カイは札を見る。


残り二枚。


一枚は、まだ使われていない札。

もう一枚も同じ。


ただし、今までに


零点。

負点。

正点。

倍点。


のうち三種類が出た。


残っている札は一種類しかない。


第三ラウンド。


もう中身は推測ではない。


確定している。


残った札は一枚が選択対象になる。


二人とも同じ結果を受ける。


立会執行官が札を開く。


残っていたのは、もう一枚の零点札――ではなかった。


カイの手が止まる。


「……あれ?」


説明票を見る。


四種類が一枚ずつ。


そう思っていた。


もう一度読む。


『四枚の札には、正点・零点・負点・倍点のいずれかが入る』


カイは目を細める。


一枚ずつ、とは書かれていない。


最初にそう思ったのは自分だった。


立会執行官は、

四種類を説明しただけ。


配置数までは言っていない。


残った札が開く。


零点。


二人とも点は動かない。


最終結果。


カイ、四点。

相手、四点。


引き分け。


勝負が終わった。


カイはすぐに説明票を最初から読む。


リグが横へ来る。


「何してる?」

「俺、勝手に四種類一枚ずつだと思ってた」

「書いてないな」

「うん」


相手も説明票を見て笑う。


「俺も最初そう思った」

「途中で気づいた?」

「第二ラウンドのあと」


カイが顔を上げる。


「なんで?」

「最初の説明で、立会執行官が『それぞれ一枚』って言わなかったから」


カイは少し黙る。


自分も同じ説明を聞いていた。


でも、

四種類。

四枚。


その二つを勝手につないだ。


「見えてない札より、見えてる文章の方を間違えたのか」


リグが笑う。


「お前らしい負け方だな」

「引き分け」

「細かいな」


カイは説明票の該当部分に印をつける。


今回、

相手の表情を読み違えたわけではない。


記録を間違えたわけでもない。


あとから結果を知って、

過去を書き換えたわけでもない。


もっと前。


勝負が始まる前に、

自分で条件を一つ足していた。


書かれていないものを、

書かれていると思った。


カイは紙に新しい欄を作る。


『確認した条件』


その下にもう一つ。


『自分が補った条件』


リグが覗き込む。


「また増えたな」

「うん」

「どこまで増やす気だ?」

「分からなくなるまで」


「もう十分分からなくなってるだろ」


カイは少し笑った。


見えない札を読む前に。


まず、

自分が何を見たつもりになっているのか。


そこを確かめる必要がある。


今回の勝負で一番見えていなかったのは、

伏せられた札ではなかった。

【今回の賭博ルール】


今回は、四枚の伏せ札を使う勝負です。


参加者は最初に三点を持っています。


卓には四枚の伏せ札があり、

札には次のどれかの効果が入っています。


・正点:持ち点+1

・零点:変化なし

・負点:持ち点-1

・倍点:現在の持ち点を2倍


各ラウンドで一枚を選び、

選ばれた札を公開して効果を受けます。


公開済みの札は除外され、

残った札で次のラウンドへ進みます。


今回は三ラウンド行い、

最後に持ち点が多い方が勝ちです。


ポイントは、

「四種類の効果がある」ことと、

「四種類が必ず一枚ずつ入っている」ことは別だというところです。


カイは、


四枚の札。

四種類の効果。


という情報から、

無意識に「一種類につき一枚」と補ってしまいました。


でも、それはルールに書かれていませんでした。


今回は相手の読み合いよりも前に、


「実際に確認した条件」

「自分が当然だと思って補った条件」


を分ける必要があると気づいた回です。

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