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これはギルドマスター命令です!!~追放された秘書官(女)は、東の果てで冒険稼業をぶち上げる~  作者: あわき尊継


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第5話 スキル

 一晩ゆっくり身を休めた。

 最初に潜伏した場所は、私が思っている以上に見付かり難かったみたいで、変な物音に怯えることなく眠れたのは良かった。


「…………ホントにぐっすりでしたね、この状況で」


「? 夜明け前に仕掛けるんでしょう? 早めに寝とかないと」


「……うス」


 戦史に曰く、奇襲とは移ろい時を狙うべし。

 夕暮れ時や夜明け時は人間の意識が緩んでしまうんだとか。

 ましてや一晩中島内を探し回っていた海賊と、ぐっすり眠ってこの時間へ向けて準備していた私達、心構え以上の差が生まれるのは当然のことだよね。


「第一目標は人質の解放。その次に、ミクリ姐さんの荷物を回収します」


「うっス……!!」


 力強く返してみると、ユグナレアがゆるく微笑んだ。


「俺の真似はほどほどに願います」

「いやですっ」

「うス……?」


 だってコレでも緊張してるんだもん!!

 わくわくはするけど、怖くない訳じゃないから!!


 ふざけてる時間だって必要なんだよ、きっと!!


「うス」


 再びユグナレアからの応答を貰い、私も力強く肯いた。

 ここから先は本当に命懸けだ。

 目覚めてから、頭の中で何度も行程を思い浮かべた。

 幸いにも停泊地周辺の地形は頭に入ってる。舞台だってそのまま。家屋の中までは見ていないけど、造りから凡その死角は想像出来る。

 全部が全部完璧なんかじゃない。

 そんなもの、ありはしない。

 だけど出来得る限りのことはしておきたいから、考えるのも、眠るのも、これから始まる戦いの中で少しでも学んでいくことさえ、全力で取り組むんだ。


 そう、問題は。


    ※   ※   ※


『問題は、手紙が荷物の中ってことっスね。船内の部屋に?』

『うん。金庫に仕舞ってあるから、取り出すことは出来ないと思うけど』

『船長なら開けられる鍵くらい持ってる筈です。あくまで姐さんの口封じが目的なんだとしても、一応荷物くらいは改めたいでしょうから』


 エルメリアは私の荷物を調べただろうか。

 万が一にでも機密情報を持ち出していないかとか……後は必要ないから捨ててしまえ、なんてことになってなければいいんだけど。


『一番あり得そうなのは、あの貴族っぽい子っスね』

『あ、貴族の四女らしいです』

『性格は』

『結構おっとりしてて、同僚の中でも一歩遅れてるというか、話を振られてようやく意識が向くみたいなところはありましたね』


 あんまり今回のようなことに向いている印象は無かった。

 けど、金銭的な契約があったとしても海賊船に単身乗り込んでくるなんて、流石の私でも躊躇するくらいのこと。

 胆力は相当なものと、思えばいいのかな?

 いや、流石にぽわぽわしてて危機感ないっていうのは侮りすぎだし……。


『――――あの手紙は特殊な魔法を帯びていて、契約書としての効力もあります。トネリコの灰枝から造られた植物紙に、先代ギルドマスターから直筆の権限移譲が記されている。姉さんに渡した枝と手紙があれば、行政的な手続きはどうあれ、アナタが『トネリコの灰枝』のギルドマスターとして認められます』


 何気なく受け取ったものが、思っていた以上に価値を持つこともある。

 お爺ちゃん……昔のことはあんまり思い出せないけど、こうして私の命を繋いでくれていることは、後でちゃんとお墓の前でお礼を言わないとね。


『それで……その、っ、貴族の娘のエルメリアさん、についてっスけど…………んんっ、む、むにゃの、おおきさとか、は』

『あっ、そういう冗談は無理に言わなくていいですよ? ユグナレアさん、苦手そうですし、私結構落ち着いてますから』

『そっスか……』


 勇気を出してえっちな冗談を言ってくれた冒険者へ、私はゆるく微笑んで頷いてあげた。

 因みに宮殿で受けてきた貴族サマのご冗談なんて、今の比じゃないくらい酷いものだったからねっ。


    ※   ※   ※


 ユグナレアの八人目の海賊を斬り伏せた時、ようやく陽が昇った。

 幅広の剣に光が反射する。

 強く輝きを帯びたソレは、角の向こうから現れた新手を即座に突き刺し、絶命させるけど。


「っっ、敵襲だああああああ!! 昨日の野郎が現れたぞおお!!」


 運が悪かった。

 もうちょっと何かの間がズレていたなら、もっと隠密にコトを進められたのに。


 私は血に沈んだ海賊を遠目に、ついつい両手を組んで祈りを捧げた。

 罪人も悪人も死なば等しく召されるのみ。

 最初はあっさり殺してしまったユグナレアに怖気たところもあったんだけど、


『どんな正義があれ、人から暴力で何かを奪うのなら人に殺されて当然っス。正しさの話じゃないっスよ。冒険者は正義の使者でも、英雄でもありませんから』


 ただの摂理だと言われては、彼の暴力に依存している私が異論を述べる余地はない。

 自分の好みを押し付けて、別の誰かに危険を負わせる非常者にはなりたくない。


「囲め!! っ、コイツ素早いぞ!!」


 ユグナレアは猛然と海賊へ斬りかかり、二合と打ち合うことはない。

 足を止めれば囲まれる。

 相手を倒すことにさえ固執せず、初檄で駄目なら即座に切り抜けて次の対象を探し出す。


 強かった。


 およそ見張りに立たされている一般の海賊だと、まるで彼の相手になっていない。


 ゴールドランクの冒険者。

 その上に幻想級と呼ばれる人達が居るのだとしても、常人が辿り着く最高峰であるのなら、大人と子ども喧嘩以上に開きがあるのかもしれない。


 そんな戦いを背景に、あらかじめ特定していた人質を集めた建物へ、私はこっそり接近していく。

 幸いにも見張りはユグナレアに釣られて一人だけだ。

 その人も、ナッツを肴に酒を飲んでいる状態で。

 赤ら顔がようやくこちらに気付いた。


 躊躇うな。


 森の太枝から削り出したこん棒で海賊の頭をぶっ叩く。

 耐久性は微妙だったのか、叩いたところから砕けちゃったけど、こっちを見ていた海賊はそのまま椅子から崩れ落ちた。


「……っ、はぁ!!」


 どっと汗が噴き出る。

 殺した? 生きてる? どちらにせよ、最初から害する目的で武器を振るった。私と彼とで、もう違いは無いのかもしれない。

 それでも。


「ごめんなさい!! 私のせいで皆さんを巻き込んでしまいました!!」


 見張りの居なくなった倉庫、そこに監禁されていたあの豪華客船の人達を前に、私は真っ先に頭を下げた。


「ミクリちゃん!! 無事だったのねッ、良かったぁ~!!」


 そこへ小柄なマダムが駆け寄ってきてくれて、付いてきた子ども達が口々に報告してくれる。


「ぜーんぜん怖くなかった!!」

「アイツらくっさいんだあ!! お姉ちゃん怪我してない?」

「悪いのは海賊だってパパも言ってたよ!! え!? 今あのにーちゃんがぶっとばしてるの!?」


 …………あぁ、良かった。

 見渡した限り怪我人は居ない。

 強がってる部分もあるかもだけど、怖い目には、あんまり合わせていないみたいだった。


 即日、即決で動いて正解だった。

 ユグナレアからは、せめて二日三日焦らした方がいいとも言われたけど。

 ここまで早い反撃は相手も想定していなかったみたいで、見付かってからも動きが鈍い。


「待て」


 ただ、一際冷静に物事を見ている人が居る。

 船長だ。


 自身を犠牲に、乗客全員の安全を選んだ彼は、常と変わらず大きな帽子を被ったまま、私の前へ歩み出てくる。


「まず、無事だったことは歓迎しよう」

「はい……巻き込んでしまって」

「それについては関係無い。むしろ、乗客であるアナタを守り切れなかった私が詫びるべきことだ。しかし、卑怯者と言われようとも私は冷静な判断を下さなければならない」

「はい」


 僅かに傾いた帽子がピクリと揺れる。


「勝算は、あるのか」

「はい……!! その為に、今彼が戦ってくれてます!!」


 船長は再び強く目を閉じると、帽子を揺らして顔を上げる。

 そして、背後に向けて号を放った。


「聞いたか!? ならば我ら海に生きる者がッ、ならず者共に頭を垂れている場合ではあるまいな!!」


「えっと……内容については聞かなくても?」


「太陽の剣を信じるまで。竜殺しの末裔たる彼を、知らずに雇った訳ではないよ。それでも困難だと思えばこそ降伏したのだが……ミクリ=クルエット、苦労を掛けたな」


 初めて名を呼ばれ、知っていたんだと当然のことを思う。

 乗船時に名前は記入してあるけど、まさか全員? なんて笑みが浮かんできた。


「我々はまず、彼の足手纏いとならぬよう島内へ避難する。その後に手勢を連れて戻ってくるつもりだが、キミはどうする?」


「私はやることがありますので、仲間と共に」


「っはあ……!!」


 何故か船長の大きな帽子が浮き上がって、すっぽりと収まった。

 哄笑した彼は牙を剥いて笑い、肩を揺らした。


「乗ってきた時は酷く弱った顔をしていたが、一夜で見違えたものよ!! いや、元より目の奥は愉快な色をしていたがなァ……!!」


「あはは。船長さんは思ってたより野性味があるんですね」


「海に生きる漢であるが故にな」


「うス」


 何かこだわりがあるらしい彼を湛え、私は逃げていく人達を見送った。

 これで第一目標は完了した。

 囮のユグナレアに注目は集まっていて、こちらの動きには気付いていない。

 そもそもまだ夜明けが始まったばかりだ。


 声を張り上げたところで、船内なんかで寝入ってる人には中々届かない。

 報せの鐘は、真っ先に奪って隠している。


 よし。

 このまま上手く立ち回って、エルメリアの居場所を突き止め、お爺ちゃんからの手紙が手に入れば。


「馬鹿共が好きにやられおって!! 宝珠を取れ!! 無能が粋がって死ぬ前にッ、オルドーの加護へ縋れと言うておろうが!!」


 海賊側を一喝する者が現れた。

 その人は、片目に眼帯をした老爺で、奇妙な羽織物を着て砂浜に立つ。

 腰には刀剣。

 ぞうりを履いた素足で砂浜を蹴りつける。


 彼の後ろから続いてきた数名が握り拳ほどの珠を構えた。

 誰も彼もが髭もじゃで、垢で顔を黒くした、如何にもといった海賊だったけど。


()()!!」


 その全員が頭上に火球を生み出し、赤い軌跡を残して打ち放った。

 魔術。

 そして。

 向かう先はユグナレアだ。

 近くで戦っている別の海賊を気にも留めていない、火力任せの攻撃はデタラメに周囲を吹っ飛ばし。


「っっ、()()()()()()()()!!」


 あの幅広の剣で近くの火球を一つ二つ斬り捨てたけど、乱雑に放たれた広範囲に及ぶ爆炎は防ぎ切れず、朝焼けの砂浜へ倒れ伏す。

 と思ったらすぐ立ち上がって走り出した。


「逃がすな!! ほォらいい練習台だッ、命なんざ投げ捨てろい!!」


 続く集団の動きも、明らかにそぐわないものだった。

 大柄な海賊が身を低くしたかと思えば、大地を駆ける獣のようにユグナレアを強襲して斬り上げる。

 続く中肉中背の海賊は珠を掲げて火球を放り込んだ直後に、片腕を変異させてそこらの樹を引っこ抜く。


 魔術は習得に相当な鍛錬が必要だと本で読んだ。

 それこそ、冒険者になる為の修練所は基礎のみで、弟子入り先で何年も掛けて身に付けていくものだった。


「ははははは!! いいぞいいぞ!! 雑に使ってけ!! テメエらの命なんざその程度さ!! はははははは!!」


 老爺の声に背を押されるみたいに、海賊達の攻勢が過熱する。

 そのどれか一つでも尋常なものはなかった。


 一方的に(なぶ)られるユグナレアを見詰めながら、私はどこかで、不思議な力は冒険者だけのものだと思い込んでいたことに気付く。

 そんな訳はない。

 彼ら海賊だって戦う技術は磨く。

 けど、目の前の出来事はあまりにも。


 一際強く打ちつけられた攻撃を、幅広の剣で受けたユグナレアが吹っ飛ばされる。


 ギィン!! と、鈍い響きが砂浜へ広がり、


「……………………ぬぅ……ッ」


 低く、老爺が唸るのを聞いた。

 同時にユグナレアが笑みを浮かべる。


()()()()()()()()()()()()()……!!」


 着地点を狙った、地を這うような突進から始まる斬り上げを、彼はもう半歩の動きで回避してみせた。

 ()()()()()剣先が勝手に海賊の首筋を撫でて、それでも動きが止まらず飛び上がった相手は、上空で初めて斬られたみたいに呻きをあげた。


「オルドーのスキル宝珠なんざ、どうして海賊がと思ったっスけどね。よくよく考えれば西大陸の貴族と通じた、艦隊を所持する海賊っスもんねぇ。けど中身がただのゴロツキじゃ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っスよ」


 その時、騒ぎを聞きつけたらしい海賊船から、ではなく……私の乗ってきた豪華客船から顔を出したエルメリアを見付けた。

 あろうことか、私の持ち込んだバッグを肩に掛けている。

 いつだったか、そのバッグ可愛いねー、なんて言われたことを思い出すけど、貴族の娘が盗むなよ……。


 ユグナレアは、大丈夫そうだ。

 信じるしかない部分もあるとはいえ、素人目にも急激に動きが安定してきているのが分かった。


 型を再現するスキル宝珠、動きも、魔術の性質も、すべてが毎回同じであるのなら、それは出した時点で不可逆な諸刃の武器じゃないのかな。


 どうあれ、私の役目は手紙を取り戻すこと。

 エルメリアが持ってるバッグに入っているにせよ、いないにせよ、彼女へ尋ねてみるのが一番だと思う。


 幸いにも、豪華客船側には殆ど海賊も乗っていないみたいだし。

 あそこなら死角を辿って海へ潜れば、人目に付かず乗り込めるかもしれない。


    ※   ※   ※


 そうして時間を掛けて回り込みつつ、こっそり海へ沈んでいった私は最後にユグナレアの様子を伺った。


 戦いの場を次々と変えて、彼もこの豪華客船近くにまでやってきている。


 そこへ。


 あの眼帯を付けた、羽織物の老爺が歩み出す。

 刀剣を抜き、ぞうりで砂地を踏んで、親指で眼帯を押し上げる。


「……仕方ねえ。オレが()()()の闘い方を教えてやるよ」


 遠目にも見えた。

 隠していた彼の左目には、海賊達が手にしていた珠よりも更に複雑な光彩を放つ、オルドーの宝珠が埋め込まれている。


 砂柱があがった。

 信じられない速度でユグナレアへ接近した老爺が、何度か腕を振ったように、私には視えた。


 直後、ここまで無傷で戦いを進めていたユグナレアの胸元から血が舞った。






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