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これはギルドマスター命令です!!~追放された秘書官(女)は、東の果てで冒険稼業をぶち上げる~  作者: あわき尊継


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第2話 おお勇者よ、勇者よー。

「きゃあああああああああ~~っっっっ、あっはははははははははー!!」


 世界がひっくり返って落ちていく。

 帆船の縁から仰向けになって海へ飛び込むと、恐怖と一緒になんでか笑いが出ちゃうのだ。


 海面を割って海へ沈み、目に染みるのも構わず周囲を見回した。


 そうすると見えてくるのは色鮮やかなサンゴ礁と、それと同じくらい鮮やかな魚群に、見たことも無い珍しい海の生き物達。

 私の生まれはルーイーン王国の首都の、下町だ。

 港にも繋がる町育ちで、海を遊び場にしていない子どもなんて居ない。


「っはあ!! ~~っ、もう一回!!」


 息が続かなくなって飛び出すも、再び身を捻って海中へ戻った。

 こんな思いっきり身体を動かすなんて久しぶりで、なんでか疲れることが楽しいんだ。ちょっと興奮し過ぎかもしれないけどね。


 沖の側には私の乗ってきた帆船の底が見える。

 おっきな竜骨……船の背骨にはフジツボの一つも見当たらず、この船が進水したばかりの新品だってことを教えてくれる。

 新しい旅立ちに、新しい船。


 いいよね、なんて思っていたら綺麗な魚の群れがその下を潜って後部へ抜けていった。


 ふわりと群れが広がる場所があったのは、下ろした錨があるからか。


 今は大洋の小島で停泊中だからね。

 日差しは良好。

 遅れて飛び込んできた子どもたちが水柱をあげて、小舟で待機していた船乗りさんが手を叩いて大笑い。


 そんな様子を見ながら、私は仰向けになって力を抜く。

 頭の側には島があり、大洋を横断する船を歓迎する、ささやかな催しが開かれていた。

 大多数の大人はそっちだけど、今は身体を動かしていたい気分。


 ほぅ、と息が漏れる。

 近くに温かい海流があるおかげで、この辺りはすっかり夏の気候だった。


「…………あれからもう、十日も経ってるんだ」


 国外追放とされて十日。

 今の私は、国どころか大陸を飛び出し、手紙の差出人であるお爺ちゃんの……お墓参りに向かっているところだ。


    ※   ※   ※


 議員先生。

 裏切られて捨てられて、まだそう呼ぶのはおかしな感じもするけど、だからといって悪し様に呼ぶのも気が進まないので先生とする。

 宮殿を飛び出した私はその足で王都の港へ行って、偶然、ちょうどよく、出航直前だった大洋横断船へ飛び乗って国を出た。


 お金は結構あったからね。

 なにせ三年間、仕事しかしていなかったもので。


 お給料の処理だってすべて私がしていたんだから、そこをどうこうされることもなく……まあ他の秘書と比べれば安いものでしたけど、えぇ。


 宮殿を飛び出した熱も冷めないまま大金を叩きつけ、無理矢理乗船してみせた私は、後になってそれが進水式を終えたばかりの結構な豪華客船だったと知った。

 元々急な取り消しで船室は空いていたから、船長も船主も喜んで私を迎え入れてくれたという訳だ。


 出航して二日くらいは泥のように眠り続け、自分が揺れているのか世界が揺れているのかも分からない状態になってからようやく部屋を出て、全く陸地の見えない大海原を見た。


 叫んだね。

 つい、叫んじゃったね。


 今もそうだけど、大胆過ぎる行動に興奮を引きずっているのが分かる。


 そりゃあ平民の国政参加だ!! って息巻いて宮殿へ突撃するような女ですけど、下町育ちで()()()()おいたをしてきた自覚程度はありますけど。

 先日まで華やかな宮殿ですまし顔をして、お化粧と綺麗な服で身を飾っていた私が、船で購入した水着で海へ飛び込み、名前も知らない人達とハシャいでいるなんてねぇ。


 幸いにもあの国に残してきた人は居ない。

 友達は、まあ、仕方ないけど。

 父さんも、母さんも、早くに死んじゃったし。

 だから親戚のお爺ちゃんと言われても、いつか出会ったことがあるような、ないような。

 そのくらい、曖昧な記憶の中にしか残っていない。


 でも、そう。


 遠く東大陸の、更に果てから届けられた手紙に記されていた冒険者ギルドの名前には、確かに憶えがあった。


    ※   ※   ※


「冒険者……東大陸の中原東端で興ったとされる職種の一つ。所属する冒険者ギルドを仲介業者とし、魔物狩りから犬猫探しに荷役や警備警護など、あらゆる仕事を請け負う者達の総称である」


 豪華客船には図書室がある。

 素晴らしい。

 潮風は本の天敵ではあるものの、大洋を横断するともなれば暇を持て余す。


 人気の恋愛モノや、まさしく冒険モノなんかは貸し出されているけれど、流石に小難しい歴史書や研究書じみたものは放置されがちだった。


 私は丸い窓ガラスから差し込む光を頼りに、本のページを捲る。


「彼らは自らの業務遂行能力をランクという形で周囲に示し、ギルドがそれを認定していた。カッパー、アイアン、シルバーにゴールド……鉱物由来なのは意味があるのかな?」


 読み進めていくと著者の私見が記されていた。


「殊にアダマンタイトを始めとする稀少鉱物は、未だ世界中で鉱脈が発見されておらず、冒険者達がかつて戦いの場としていた迷宮内の魔物より多く産出された。ミスリル、オリハルコン、そしてアダマンタイト。それらは太古、今よりも大きく発展していたとされる時代に浅い地層からは掘りつくされているとの説もあり、冒険者にとって迷宮から産出される稀少鉱物は、莫大な富を生むものでもあったことだろう。なるほど?」


 カッパーから始まり、ゴールドへ至り。

 幻想級と呼ばれるミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの高ランク冒険者ともなれば、魔物の群団をたった一人で殲滅することも少なくはなかったという。


 へぇ、すごー。


 そういえば一昔前の戦争でも、東大陸出身の魔術師が大活躍したって(はなし)を読んだことがある。

 ルーイーン王国も元はあの地方を牛耳っていた魔物を討ち果たして、今の王室があそこに国を築いたって伝承があるよね。


「魔物と獣の違いってなんだろ? もくじには……ないな。ないか」


 冒険者って枠組みも結構曖昧っぽいし、分類学はイマイチなのかな東大陸。

 第一印象としては日雇い労働者。

 傭兵っぽさもあるけど、犬猫探しって探偵じゃない?

 まあとある町の成り立ちから生じたものらしいし、自然と何でもかんでも請け負うようになっていったのかなぁ。


 冒険者かぁ……ギルドかぁ……………………うん。


 ページの間に指を入れ、本を閉じて机の上にある手紙を見詰めた。

 王国での公文書なんかは白染めのされた植物紙がよく使われるけど、その手紙は僅かにくすんだ灰色で。


――――我が孫娘ミクリ=クルエットに、

    冒険者ギルド『トネリコの灰枝』の全権を委譲する。


「……そうかぁ~、委譲しちゃうかぁ、全権。がっつり私の名前だなぁ」


 差出人はおそらく、多分、私のお爺ちゃんだ。

 会ったことはあるようなないような。

 でも指名されているってことは、向こうからは認知されているん、だよね?


 けどお爺ちゃんも死んじゃってるみたいだし。


 コレ、そういう意味での遺言状で、遺産相続のお話みたいなんだけど。


「あはは、ムリムリ。下町育ちって言ったって魔物とか見たことないし、剣よりペン。荒くれ者をまとめ上げるとか自信ないよお爺ちゃん……」


 だからさ、お墓に手を合わせてあげるから、それで勘弁してくれませんか。

 確かに挑戦者だけれども。

 旅をするように生きてみたいけれども。

 剣とか槍とか持って戦えと言われたら私、腰が抜けて動けなくなる自信しかないよ。


 ただ、


「『トネリコの灰枝』……うん。その名前は、なんでか記憶に残ってる」


 疲れ果てて、回らない頭じゃあ思い至れなかったけど、いつかどこかで聞いたような気がする。

 だから多分、お爺ちゃんにも会ってるんだよ、私。


 肉親かぁ。


 残ってたんだな。

 死んじゃったけども。


 大陸間の手紙が届くなんて年単位が掛かるって言うから、きっと私が宮殿へ勤め始めた頃か、その後くらい。


 そっと落とした吐息が、停留を続ける船の床へと落ちていった。


「なんでも出来るって飛び出した途端に、出来ないって考えちゃうか、私は」


 それでもまずは墓参りだ。

 相続を辞退するのだって、何か手続きが必要かもしれない。


 考える時間はある。


 他にやりたいこととか、仕事とか、見付かったなら無理に受け継ぐ義務だってない。


 思って、本に差し込んでいた指に力を入れて、冒険者に関する勉強を再開することにした。


    ※   ※   ※


 とまあ延々引き篭もっていると、つい()()倉庫で働いていた時みたいな状態になっちゃうのでっ、定期的に海へ飛び込むのがいいと思う!!


 アレは拙かったね。

 気付けばどんどん思考力を奪われて、流れに身を任せるようになっちゃってた。

 最初の頃はもっと、提案とか色々やってた筈なんだけど……。

 そしたら倉庫に押し込まれちゃったんだよね……。


 さあっ!! 終わったことはいいから海へ!!

 青は幸せ、母なる海よ!!


 なんて水着姿で上着を脱ぎつつ廊下を歩いていた私は、船内の広間にどんよりとした空気が広がっているのに気付いた。

 キラキラな丸卓へ突っ伏して瘴気を放つ、青年は。


「…………はぁ、ムリっスよ。一日で二十隻以上、乗客だけで五十から百人、それ全部に声掛けて調べろとか力技過ぎじゃないっスかね。俺が人見知りなの分かってて言うんスからあの人……はぁ、やっぱり向いてないんだ。なによりこのキラキラした空間が肌に合わねえっス。消滅してしまうっス」


 なんだかとんでもねえくだを巻いていた。

 もうぐーるぐる。

 蛇でも絡まっちゃうよねってくらいに、むしろそれで死期を悟って脱力したみたいな状態でぶつぶつ言葉を吐き並べていた彼を。


「……………………」


 つい、凝視してしまった。

 だって。

 腰に剣がある。

 背中に盾を背負ってる。

 皆して薄着で高級感のある服装をしているこの船で、履き潰した革の長靴や防具らしきものも服の下に見て取れる。


 意外とみすぼらしい印象はない。

 それは彼なりにこの船へ合わせて身だしなみを整えているからか、普段から()()を怠らずにいるからかは、分からなかったけど。


 私とそう歳の変わらない、二十ちょっと過ぎくらいな青年が。

 流石にあからさま過ぎたのか、近くで足を止めていた私に振り向いて、途端に顔を赤くしてきた。

 小声で、癖なのかぶつぶつ独り言を口走る。


「……わ、すげぇ恰好…………びびった。無理だ。声掛けるとかゼッタイ無理。年齢的には確かにそうなんだけど、けど……あぁ………………肌色……、っ」


 た、たしかに水着ですけども!?

 自分でも興奮して普段より大胆にはなっている自覚はありますけどっ!!

 ちっちゃな頃は下着一枚で海へ飛び込んでたしっ、この船の人達だって今は皆して水着姿で遊んでるんですよお!?


 というかそんな反応されると改めて恥ずかしくなってくるんですけど!!


「っっ……!! ぁ、あの!!」


 なんて思ってたら青年が立ち上がり、思いっきり顔を背けつつ、耳まで赤くなりながら声を掛けてきた。

 と同時に、子どもの集団が脇を駆け抜けていく。

 母親の声がして、家族連れがゆっくりとした歩調でこちらへ歩いてきた。


 あらこんにちわ~、なんて言ってくれるのは、十日間でそれなりに面識を得た東大陸のマダムだ。

 ほっそり小柄な彼女は三児を追いかけつつ私と青年を交互に見た。

 戸惑う私と、真っ赤になって何かを決意しているようにも見えなくはない青年を、がっつり見て。


 恋愛小説を図書室から借りている小柄なマダムは、力強く肯いて私の肩を掴んだ。

 ちっちゃなお鼻が膨らんでいる。


「ま・か・せ・て……!!」


 なにを?


    ※   ※   ※


 数分後、浜辺で島の巨大花で飾り付けられたドンヨリ青年が、両手にマラカスを握り込まされ謎の太鼓集団に囲まれていた。

 浅黒い肌を持つ島住民達は真っ白な歯をきらめかせ、「ハハハ!! ユーシャー!! 今回のユーシャは決まったゼー!!」とか言って大喜びしている。


 マダムも手を叩いて「きゃーっ!!」とか言っていた。


 理解が追い付いていないのは私と彼だけ。

 ただ、安全圏に居る私とは対照的に、檀上に登らされ、人間花壇となった青年はぽとりとマラカスを落っことして。

 顔を覆った。


「俺は……俺はどう生きればいいんスかぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


 嘆きと共に演奏が始まる。

 景気の良い太鼓の音。

 悩み多き(多分)青年を無駄に元気な人達が囲い込む。


 どうやら島のお祭りに巻き込まれたらしいです。






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