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第十二話 エキゾチックなアニマルたち

ハリネズミを飼うことになった糸岡家では……

 最初にハリネズミの異変に気付いたのは、その日休日だった糸岡の方だった。

「おーい、志奈子、ちょっと来てくれ」

 春には大学生になる娘は、パタパタと階段を上がって来ると、口をとがらせた。

「もう、パパったら、勝手にあたしの部屋に入らないでよ」

「自分の部屋に掃除機をかけたついでに、おまえの部屋も掃除してやっただけさ。それより、バジルくんのエサ入れを見てくれ」

「何よ?」

 不満げにのぞき込んだ志奈子の顔がくもった。

「あれ、また食べてないのか」

 今度は糸岡が不安そうな顔になった。

「またって、いつ頃からだ?」

「うーん、二三日前かな。たぶん、急に気温が下がったからだよ。でも、念のため、病院に連れてく?」

 二人の会話が聞こえたのか、布製の袋からトゲトゲの体がちょっと出た。心なしか元気がないようにも見える。フッフッと警戒音を出していたが、光がまぶしいらしく、すぐに引っ込んだ。

「まあ、その方がいいかな。見た目じゃ、わからんからな。だが、ハリネズミをてくれる病院って、近くにあるのか?」

「ネットで調べたことあるけど、車で三十分ぐらいのとこ」

「そうか」

 親バカかとも思ったが、糸岡はすぐに行くことにした。糸岡も子供の頃にイヌやネコを飼ったことがあるが、さすがにハリネズミは初めてなので対処の仕方がわからない。

 念のため調べてみて、ネコにアレルギーがあることがわかり、泣きじゃくる娘にねだられて、一番アレルギーになりにくい動物であるハリネズミをうことにしたのである。

 ようやくペットショップで買ったものの、ちゃんと飼えるのか不安だった。なにしろ夜行性で、昼間は布袋ぬのぶくろの中にかくれているから、元気なのかどうかわからない。夜は娘の部屋からシャットアウトされるから、様子を見ることもできなかったのだ。

 近所の動物病院には、午後の診療開始時間の直後に着いたが、すでにかなりの順番待ちだった。待合室はいっぱいで、座る場所もない。

「ずいぶん混んでるな」

「しょうがないよ。エキゾチックアニマル(=イヌ・ネコ以外の小動物)を診てくれるとこって、少ないから」

 もちろん、待合室の半分以上はイヌやネコの飼い主だが、小鳥・カメ・ハムスターなどを連れている者もいる。順番に呼ばれて三つある診察室に入っていくのだが、一番右が主にイヌ、真ん中が何故かネコと小鳥、左がその他、となっているようだ。

 特に真ん中の診察室は前面がガラス張りになっており、中の様子が見える。そこに、ネコと入れ替わりに小鳥が入った。

「あっ!」

 志奈子が小さく叫んだのは、カゴから出されたとたんに小鳥が飛ぶのが見えたからだ。すぐに照明が消され、カーテンが閉められた。

「大丈夫さ。鳥は暗くすると大人しくなるから」

「うん、知ってるよ」

 自分の方が生き物に詳しいのだと、対抗心むき出しの娘を見て、糸岡は微笑ほほえましかった。

 その後も、いろいろな動物たちが入れ代わり立ち代わり診察室に入って行った。

「なかなか順番が来ないな」

「たぶん、あのカメの次だと思うわ」

 その時、また新しい飼い主が入って来た。見るからにセレブ風の女性で、大きめのヴィトンのバッグを持っている。そのバッグが、不自然にモコモコと動いていた。

 糸岡は、そのモコモコが気になった。大きさはネコぐらいのようだが、ヴィトンのバッグにネコを入れるとは考えにくい。時々、ガリガリと爪をたてるような音がする。

(すると、やっぱり、ネコかな。にしては、鳴き声がしないな。それに、完全に外から見えないようにしているのが、なんだかあやしいなあ)

 看護師の声がした。

「糸岡バジルくん、どうぞ!」

「パパ、バジルが呼ばれてるよ、行こう」

「あ、ああ」

 診察の結果は、軽い膀胱炎ぼうこうえんとのことだった。抗生物質と栄養剤を注射してもらい、薬と特別なエサを渡されて、会計は一万九千円だった。

(ちょっとイタいな。だが、まあ、こんなものか。それより、ヴィトンはどうなったっけ)

 セレブ風の女性はまだ順番待ちで、バッグもまだモコモコしていた。

(どの診察室に入るかを見れば、イヌか、ネコか、それ以外かわかるんだが)

「どうしたの、パパ。帰ろうよ」

「う、うん」

 帰り道、車を運転しながらも、糸岡はヴィトンの中身が気になって仕方なかった。

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