挿話三 「レイの裏切り」
話はカイ達がラサロ姉妹と再会し、食事を終え、別れた後に遡る。
(おそらく、あの二人が俺のあとを追いかけていたのだろう)
レイはそう確信した。
(もしかしたら、あの二人のどちらかから何かしらのアプローチがあるかもしれない。その時は素直に受け入れるとしよう)
それから、レイは2人の様子を伺うことに決めた。また、新しい陣形についても自分から提案した。自分が2人を守ることでより親密な関係になりやすくすることと、カイを2人から遠ざけるために。
実際、レイがカウナを守りに行くと、カウナは赤面しながらお礼をすることがよくあった。それも分かりやすく。
その顔を見たレイはアプローチが来るのは時間の問題だろうと考えていた。その予想は的中した。再会してから1週間と少し経った時、カウナから
「明日の休み、朝ギルド前で待ってて貰えますか」
と尋ねられた。その時、レイの確信は確定に変わった。レイは躊躇うことなく了承し、その後二人の関係はより一層親密になっていくのだった。カイを置いて。
一方、再会後のカウナは、かなり浮かれていた。
(やっぱり、レイさんイケメンすぎ!もう、近くにいるだけでドキドキしちゃうもん!は〜、もう彼と一緒に冒険できるなんて夢見たい!本当に、夢じゃないよね!これからが楽しみすぎる!よーし、レイさんとお付き合いできるように、私からどんどんアプローチ行かないと!)
カウナは、今まで遠くで眺めていただけの人物との距離がかなり近づいたことに喜んでいた。その後の宿屋では、レイと一緒にしたいことや行きたいことを妄想して、興奮していたのは自分だけの秘密だ。
それから、何日か一緒に依頼をこなしていくうちにカウナのレイに対する好きという気持ちは日に日に増していった。
(よーし、明日の休みにレイさんにデートのお誘いをしよう!最近、レイさんとはいい感じだし、きっとOKしてくれるはず!緊張するけど、覚悟を決めるんだ、私!)
次の日の朝、カウナは事前にレイと待ち合わせていた場所に向かった。レイは既にいた。
「おはよう、レイさんはやっぱり早いね。ええと、朝早くにごめんね。でも、来てくれてありがとう」
「おはよう。それでなにか用事でもあったのか」
「うん、その事なんだけど……、一緒に買い物をしてくれませんか」
「もちろんだとも。他でもないカウナさんの頼みなんて断らないに決まってるさ」
「……!ありがとう!良かったー!」
画して、二人のデートは始まった。その後二人の仲は急激に発展し、遂に付き合うことになったのはそれから1週間後、再会してから2週間後の出来事だった。
レイとカウナがデートをしている間、コモナは一抹の不安を抱えていた。
(本当に私は、お姉ちゃんに着いて来るだけで良かったのかな。なんだか少し、嫌な予感がする。とてつもない後悔が私を襲う、そんな予感。……そういえば、カイさんは今頃どこにいるんだろう。お姉ちゃんたちは多分デートしてる頃だろうけど、闘技場かな?)
コモナはカウナとは違い、カイのことが少し気になっていた。カイは今頃ギルドの闘技場にいるだろうと予想し、そこに向かった。
(あ、やっぱり居た。休みなのに特訓してるなんて偉いなー。話しかけた方がいいのかな?うーん、でも、お姉ちゃんみたいな勇気、私には無いし。カイさんも集中してるみたいだし、止めておこう。……あれ、でもなんで、カイさんは左手で銃を撃ってるんだろう。確かカイさんは右利きのはずなのに)
そんな疑問を抱きながら、カイに話しかけることなく帰路に着いた。
それから数日、4人で依頼をこなしている時、カイがレイに怒鳴られることが何度かあった。
(どうしたんだろう、カイさん。どこか具合でも悪いのかな。聞いてみる……でも、やっぱり無理!)
コモナがカイに話しかけることは少なくともあの日まで無かった。
ラサロ姉妹と再会してから2週間が経ったある日カイはレイから衝撃的なことを告げられた。
「あー、カイ。実は俺たち付き合うことになったんだ。すまないが、その……」
「言わなくても大丈夫、わかってるよ。それより、おめでとう。2人とも幸せにね。……そっかぁー、レイはもうそっち側の人間か〜。羨ましいよ」
カイもどちらかと付き合いたいと思っていたかと聞かれれば、答えはイエスだ。実際、カイは積極的に2人に話しかけたりしていたし、仲良くなろうとしていたが、努力は実らなかった。
結局、カウナはレイとくっついたし、コモナ至っては、コモナから話しかけてくれることは無かった。だから、カイは少し諦めかけていた。2人は自分に興味が無いのだろうと。ただ、カイは一縷の望みにかけていた。二丁拳銃使いになって、パーティで活躍出来れば少なくともコモナが自分に興味を持ってくれるだろうと。しかし、その望みは叶うことは無かった。
レイとカウナは、カイとコモナに付き合い始めたことを報告したあとも何度かデートをした。その過程で、カウナの中に芽吹いていたレイへの独占欲が成長し、もっと二人だけの時間が欲しいという欲が現れ始めた。
(もっとレイと居たい!ずっとレイと居たい!)
カウナはその欲望を叶えるために何でもする覚悟ができてしまっていた。身内を利用してまでも。
そして、レイはそれを受け入れてしまった。カウナのひとつひとつの行動が自分を愛してくれている証拠だと考え、完全に自分の世界に入っていた。周りが見えず、他人のことなど二の次で、自分のことが最優先だった。
それこそ、仲間でさえ、切り捨てるほど。それに加え、レイ自身も、もっとカウナと一緒にいたいと思い始めていた。
(カウナは俺のことを愛してくれている。俺もそれに報いなければな。しかしどうすれば……)
レイとカウナの思惑がパズルのピースのようにカッチリとハマりあい、二人の邪魔になる一番の存在がカイだと結論づけるのに時間はかからなかった。むしろ、即断だった。
((もっとふたりの時間を増やしたい。そのためにできることは……カイから離れる))
そして、カイからどのように離れるかを二人が考え始めるのは必然だった。先に動いたのがカウナだっただけの問題だ。
レイがカイに別れを告げるまでの1週間、コモナにとって居心地の悪い1週間だった。レイとカウナはカイとコモナのことも気にせず、ずっとイチャついているし、レイは未だにカイのミスに怒鳴っていた。
コモナはレイにカイに怒鳴るのを止めるようそれとなく伝えたが、あまり効果がなく、それよりも君は俺たちの味方だろうと言われてしまった。コモナにとってカイも同じパーティメンバーとして幸せになって欲しいのにそれが叶えられそうに無くてモヤモヤしていた。
それに、カウナがレイと付き合うことになった時、コモナはあまり祝福する気持ちにはなれなかった。ここ最近はお姉ちゃんの幸せが私の幸せという気持ちになれていなかった。しかし、お姉ちゃんが嬉しいなら、私も嬉しい……はずだ、と自分に言い聞かせて、自分に嘘を付いていた。
ある休みの日、レイがカイに別れを告げる前日、コモナはカウナに呼び出された。
「どうしたの、お姉ちゃん」
「実は、コモナにお願いがあって、コモナなら聞いてくれるよね」
「う、うん……」
「ありがとう」
(どうしたんだろう、お姉ちゃん。なんだか少し怖いような)
「それで、お願いっていうのは、今日の夜カイの所に行って、人気のない所で少し時間を潰して欲しいの」
「え!?なんでそんなことしなきゃいけないの?」
「話は最後まで聞いて。それで明日の朝、レイにランフォードくんに襲われたって泣きながら言って欲しいの。それをカイの前でもやって」
「えっ!どうして、なんで……」
「いいから!私の知ってるコモナは素直で私に従順な子だよ。期待を裏切らないで」
「で、でも……」
「コモナ!」
「…………わかった」
コモナは半泣きだった。これから自分が何をしようとしているのか、どれだけ馬鹿なことをしようとしているのか嫌でもわかった。しかし、とても断れなかった。やらなくちゃいけない。お姉ちゃんを悲しませたくない。そんな気持ちがコモナの罪の意識に蓋をする。
太陽は、刻一刻と沈んでいく。コモナにとってその日の夜ご飯は美味しくなかった。
辺りが暗くなって、コモナはカイの元へ向かった。この時間なら流石に宿にいるだろうと水遊び場の前を通過する直前、カイが出てきた。
(あー、そんな、急に……)
「あれ、コモナさんどうしたんですか。こんな夜遅くにこんな場所で」
「ええと、カイさんを探していて、あの良かったら少しお話しませんか」
「ええ、いいですけど」
「良かった。じゃあ、私についてきてください」
それからは知っての通り。コモナはカイと別れたあと全速力で宿に帰った。
(ごめんなさい、ごめんなさい。私の意思が弱いばっかりに!カイさんに嫌な思いをさせることになるなんて)
次の日の朝、コモナは結局、レイにカイに襲われたと嘘をついてしまった。レイは激怒しながら、カイが待つギルドへと向かった。
(カイにはここ数年、感謝をしていたんだが、残念だよ。昨日の一件で全てが水に流れた。それくらい、おまえには失望したよ。本当に残念だ。まあ、おまえは最近、役立たずだったから、邪魔だったんだよな。丁度いいと思ったんだよ。お前を俺たちから離す口実ができて。真偽なんてどうでもいいんだ。これからは、おまえの元から離れて俺たち3人で活動していくことにするよ。2人ともそれでいいと言ってくれた。これからは3人で幸せに暮らそう)
(ランフォード君、ごめんねー(笑)。君には一切興味無かったんだー(笑)。それこそー、道端の雑草くらいに(笑)。なんかあ、頑張って話しかけてたみたいなんだけど、正直キモかったんだよねえ(笑)。それにー、優しくしようとしてくれたみたいなんだけど、無駄無駄ぁ(笑)。ほんっと笑えない。私とレイの時間を奪わないでくれる。だから、君を私たちから遠ざけるために一泡吹かせたってわけ。まさか、コモナがここまで演技が上手だとは思わなかったけど。でもこれで、レイと幸せに暮らしていける♪)
(カイさん、本当に、本当にごめんなさい。こんなの何回謝っても許されないよね。だって、貴方を心から傷つけてしまったんだもの。でも、全部私が悪いの。私が、お姉ちゃんのお願いを断り切れなかったばっかりに。私の意思が弱いばっかりに。私が貴方がせっかく仲良くなろうとしてくれたのにそれを全部無視してしまったばっかりに。私が悪いところを挙げたらキリがない。それくらい私が悪いの。貴方は何も悪くない。もし許されるのなら私は貴方の傍にいたい。本当は私は貴方のことが好きだった。だって、きっと、あの時助けてくれたのは貴方なのでしょう。でも、自分に素直になれなくて、勇気が出なくて……ううん、これも全部ただの言い訳。きっと許される訳ないよね。だって、私は貴方を傷つけた張本人なんだもんね。もし叶うのならば、貴方にもう一度会いたいなぁ……)
カイがギルドを飛び出したすぐ後、3人は荷物をまとめた。レイは副ギルドマスターとピルロおじさんに今回の件について話し、ピルロおじさんには罪人の荷物をくれてやると伝えた。そして3人は馬車に乗って東に向かって出発してしまった。カイとの別れがこんなにも後味が悪くなるとは誰も想像していなかった……。




