第五話「いつまでもこの生活が続くと思ってた」
レイは何を言っているんだ。この街から出ていく?いきなり何を言い出して……。
僕は混乱していた。正直、耳を疑った。そのくらいレイが言い出したことは理解不可能で意味不明だった。僕は言葉を失い、ただ唖然としてその場に突っ立ていた。
そんな僕もお構いなしに僕の方を指差してレイは言葉を続けた。
「しらばっくれるなよ!お前がコモナを無理矢理襲ったことは知ってるんだからな!」
…………は?何を言っているんだレイは。
僕がコモナさんを無理矢理襲った?心当たりが無さすぎて困惑を通り越して呆れてるんだが。
第一、仮に襲うとしてもそんな度胸、僕にある訳無いんだが。
もしかしたら、また何かカウナさんに吹き込まれたのかもしれない。
「しらばっくれるも何も、レイ、僕は何もしてないんだけれど」
「まだ、シラを切るのか。どうやら、本人に説明して貰うしか内容だな。コモナ、すまないがもう一度説明してもらえるか」
「……うん」
レイの後ろからかなり怯えた様子のコモナが出てきた。
「わ、私は、昨日の夜に、ギルドから少し離れた空き地で、酔ったランフォードさんに強姦されそうになりました……!」
…………は?
「だそうだ。カイ、お前には失望したよ。もっと健全なやつだと思ってたんだけどな。俺たちの関係を見て羨ましくなったんだろうけど、やっていい事と悪い事の分別もつかないなんてな!」
そう言うレイの顔は怖かった。今までそんな顔を向けられたことはない。
「ちょっと待って!僕はそんなことしてないし、そもそもお酒なんか飲んで無いよ!それに僕がやったっていう証拠はあるのかよ!」
「コモナが怯えてるのが一番の証拠だろ!それにお前、昨日の夜宿にいなかったよな。どこに居た」
「そ、それは水浴び場に行ってたんだよ。だけど、思いのほか時間が経っちゃって」
「それを証明する人は」
「くっ!……いない」
「それじゃあお前が襲ってないっていう証拠も無いな!」
「!!」
やばい……!圧倒的に不利な状況だ。てか、なんでこうなった!
「ああ!確かに証拠はねぇし、証人もいねぇよ!それに、レイとカウナさんの関係も羨ましく思ってたし、いつか僕もコモナさんと似たような関係になりたいって思ってたよ!だけどさ!僕が!突拍子もなく強姦するような度胸のある男に見える?!」
「どうだろうなあ?お前は案外やる時はやる男だからなあ」
クソ!こいついい意味でも悪い意味でも僕のことをよくわかっていやがる!
「でも!……」
「どうしてあなたは!昨日私を襲ったくせにそんなに否定するんですか!!もしかして、お酒に酔ってて本当に何も覚えてないんですか!」
コモナさんが僕の言葉に割って入って、思いっきり叫んで言った。
「私はあなたのことを異性として見てて、頼もしいなとか一緒にいて楽しいなとか思ってたのに、昨日ので全部裏切られたんだよ!」
そうコモナさんは言い放ち、泣き出してしまった。僕はただただ怖かった。なんでそんなことが言えて泣けるんだよ。
カウナさんがコモナさんの背中を擦りながら慰めていた。そして僕に向かってこう言った。
「ランフォード君、見苦しいよ。なんで自分が犯した罪を認めないのかな」
「なんでって、だって強姦なんてやってないからだよ!」
「はあ……。もし今、自分の罪を認めて謝ってくれたのなら少しは許してあげようかなって思ってたけど、やっぱり一切認めるつもりはないみたいだね」
そして、カウナさんは立ち上がり、僕を睨みつけながらこう言った。
「私は妹をこんな目に合わせた人ともう居たくない!だから、あなたのことを絶対に許さない!」
「俺も同じ意見だ。悪いが、もうお前と一緒に居られそうに無い。お前がこの街から出てってもらおうと思ったが、コモナがこの街に居たくないって言うんでね。まあ無理はないだろう。お前に裏切られた街なんだからな!」
…………。
「だからお前から離れるために俺たちがこの街から出ていくことにした。有難く思えよ。移動費がかかることがなくって」
僕は言葉を失った。もう、怒りとか諦めとかそんな気持ちもなくてある意味冷静だった。そっか、これから1人になるのか。しかも社会的に後ろ指を指さされるおまけ付き。現に後ろから、受付嬢のヒソヒソ声が聞こえる。はあ、もうどうしよう……。
そんな気持ちで頭がいっぱいになった時、ふとどこからかこんな言葉が聞こえてきた。
(まあ、おまえは最近、役立たずだったから、邪魔だったんだよな)
僕は耳を疑った。誰がこんなことを言ったんだ!だけど、レイや後ろの二人の口は動いてなかったし、周りに人もいない。幻聴が聞こえたのか?
僕は訳が分からず、レイの顔を見た。すると、彼はどこか勝ち誇ったような、見下しているような、馬鹿にしているようなそんな顔をしていた。
僕は確信した。こいつの心の声だと。それがわかったと同時に僕の怒りが込み上げてきた。それはもうレイの顔を1発ぶん殴ってやりたいくらいに。そんなことをしても無駄だと頭でわかっていながら、体はレイに向かって殴りかかっていた。が、すんでのところで受け止められてしまった。
「何を考えていたかと思えば、逆ギレか。お前、堕ちるとろまで堕ちたな」
チッ……!
これ以上身に覚えのない罪を重ねないために僕はギルドの扉へと走り出した。僕がギルドを出る直前、あいつは確かにこう呟いていた。
「もう二度と、会うことはないかもな」
ちなみに、ずっと後に聞いた話だが、僕が出ていく時、カウナは満足そうな顔を、コモナは僕に対して申し訳なさそうな顔をしていたらしい。
ギルドを飛び出した僕は全速力でギルドから離れることしか考えられなかった。あんなやつらの近くにいたくない、そのことで頭がいっぱいだった。
今までのレイとの思い出や短かったけど二人との思い出、それら全てが否定された気持ちだった。それは虚構で僕の幻想なんだと。あいつらは僕のことをどうとも思わず、ただ邪魔だとしか思っていなかったのだ。
……自ずと涙が出てくる。それを振り切るように、悲しい気持ちを紛らすように、僕は走りに走り続けた。
どのくらい走ったのだろう。気づいた時にはイースタリアンの外にいて、僕の目の前にはアンガーラビットの群れがいた。それを見た僕はこの気持ちを晴らすべく銃を両手で乱発した。
……それはひどい乱発だった。そのせいで、アンガーラビットには当たらないし、当たっても僕の魔力じゃ殺すこともできない。
ただ、僕の鬱憤晴らしでしかない乱発だった。何も考えたくなかった。だけど、アンガーラビットも黙って受けるはずもなく、僕の乱発を掻い潜って僕を襲ってくるやつも何体かいた。現に今、一匹のアンガーラビットがこちらに向かってくる。
「……!」
気づいた時には僕に飛びかかって左腕に噛み付いた。
「――っ!」
声にならない声を出して痛みに耐えていた。ものすごく怒りが込み上げてきて、腰にある短剣でこいつをぶった斬った。
アンガーラビットから血が吹き出しながらボトッと音を立てて地面に落ちた。僕の腕にも歯型の傷がつき、血が垂れ流れている。その腕を右手で抑えている僕に構わず、アンガーラビットは襲い続ける。その光景を見た僕は、
「消えろ!ゴミ共が!」
と叫んでいた。今までで、一度も言ったことがないようなことだった。
そこから先の記憶はほぼない。あるのは怒り、憎しみ、悲しみといった強い感情だけだった。何も考えず、ただひたすらに己の感情に任せて銃を乱発していたのだと思う。
乱発しているだけではアンガーラビットを倒しきれず、腕を噛まれた後も足や胴体、首といった体のあちこちを噛まれていた。その傷がまさかこの先一生、残り続けることをこの時の僕は考えもしなかっただろう。
何度も言うがこの時の僕はただ、感情を爆発させたかっただけなのだ。
どれだけの時間がたっただろう。もう太陽は沈みかけ、夕日が空を赤く染めている。……いつの間に晴れたのだろうか……。
僕は地面に横たわっていることに気づき、体を起き上がらせた。魔力切れだからか、全身に疲れを感じる。
あたりを見渡すとアンガーラビットの死体が転がっている。死臭が少し臭かった。それから、僕はこれまでの状況を思い出した。
何してんだろ、僕は。こんなことをしても、何も変わらないのに、こんな自分が嫌になる。今の気持ちはだいぶ落ち込んでいる。しばらく立ち直れそうにないや。今頃あいつらはどこにいるのだろうか。
そんな感傷に浸っていると体が傷みを思い出したように全身に激痛が走る。
「――っ!」
僕はすかさず、腰にあるポーチから治癒用のミドルポーションを取り出し、浴びるように頭からかけた。
「!?」
僕にとって信じられないことが起きた。ポーションが効かないのである。
は?なんで、どうして!!今までならこんな傷、ミドルポーションならすぐに治ったのに……!
全身が痛くてまともに立ち上がることも出来ないこの状況で信じ難いことだった。
もう一本かければ治るのか?
僕はミドルポーションをもう一度取り出し、同じようにしてかけた。しかし、傷は癒えない。
クソ!!
それから僕はありったけのポーションをかけた。大事なハイポーションを使う羽目になるとは思わなかった。
大量に自分にかけてわかったことは傷と痛みが少しだけ和らいだこと、それだけだった。
こんなに使って少しだけの効果しか得られないのかよ!原因が分からない。もしかして、あいつにあんなことを言われたからか?確かにあいつは回復魔法が使えた……。もし、それが本当に原因の一つならあいつは僕にとんでもないことをしてくれたな!絶対に許さない!
忘れていた怒りが再び顔を出す。僕は空になったポーションの瓶を拾い上げ思いっきり地面に叩きつけた。ポーションの空き瓶は豪快に割れた。
はぁー。
僕は怒り混じりのため息をつき、それと同時に全身が疲れていることを思い出した。だから、ポーチから魔力快復ポーションを取り出し、それを飲んだ。
……不幸中の幸いか、こっちは効くようだ。助かった。
少しだけ魔力と疲れが回復し、何とか立ち上がって歩けるくらいにはなった。
そして、魔物回収用のマジックボックスが無いから、周りのアンガーラビットの死体を解体しないといけない。
はー、クソめんどくさい。いつもなら分担してやってたのに。一人でやるのか。てか、何匹いんだ。こいつら。
……解体が終わる頃には日は沈み夜になっていた。いつもより暗いな。あ、今日は新月か。何か嫌だな。つーか、さすがに時間かかりすぎた。マジックボックス借りられてないから、袋に入れるしかなかったけど、重い。めっちゃ疲れてるのにこれ持って帰るの嫌すぎる。噛みつかれたところも痛いのによ……つべこべ言わずに早く帰ろ。
それから僕はトボトボ歩きながら、ギルドに戻った。
この間、僕はこれからの生活について考えていた……かったが、疲れすぎて何も考えられない。明日、ピルロおじさんと相談しよう。
やっと着いた。どれだけ時間かかったかな。何かすごい時間かかった気がする。早くこいつら換金してもらおう。……そっか。もう一人だから手取りは全部僕のものか。あんまりうれしくないな。
「あの、換金お願いしたいんですけど」
「あっ、あなたは朝の……なんだか怪我が酷いみたいですけど……」
そう言ったこの女は僕を一瞥し、ため息をついて再び話し始めた。
「今朝、レイさんから詳しい事情をお伺いしました。で、あなたはもう謝りに行ったんですか。まだ行っていないのならすぐに謝りに行くべきです。まだ彼らはこの近くにいるはずですから」
「はあ、もういいですよその話。それに、謝るもないも僕はやってないです!そ




