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第六話「とっととくたばれ!」


 ……あれから、どのくらいの時間がたったのだろうか。いつの間にか眠っていたらしい。何だか、長い夢でも見ていた気がする。


 僕はゆっくりと目を開けた。ギルドの机が視界に入り、自分が置かれている状況を理解した。……目が覚めたら実は全部夢でしたなんてことは無い。全て現実だ。


 今は夜明けの太陽が昇っているらしく、外が薄明るかった。こんなに目覚めの悪い朝は今までになかった。


 そして、これからのことについて考えてみる。まず第一優先事項として金を稼ぐ、これは何よりも優先したい。じゃあ、どうやって稼ぐかだが、今受けてるCランクの依頼じゃ日銭もいいところ。次の日の食事もままならない。


 でも、Bランク以上の依頼を受けようにも、ソロだと自分のランク以上の依頼は受けられない……いや、それがどうしたって言うんだ。生きることが最優先だ!決まりがどうこうって縛られるようなものじゃない!それに、依頼書が無けりゃ、報酬金は出ないし、魔物素材の買取も絶望的だ。だから、無理矢理にでも受けてやる。


 ……よし、依頼と金の件はそれでいいとして、次は寝る場所の確保だが、いつまでもここで寝られるわけがない。昨日は向こうが観念したが、今日もという保証はない。やっぱり宿で……いや、宿はダメだ!忘れたのか自分!あんなことがまた起きる可能性だって十分ある。宿主じゃないとしても僕がいない間に誰かに盗まれるかもしれないんだぞ!宿に泊まるのは無しだ!却下!


 じゃあ、どこで寝るのかだが……野宿しか考えられないな。屋内は無理だから、屋外で過ごすしかない。いや、どうだろう。いっそのこと寝ずに強くなることを考えればいいんじゃないか。事実、Bランクの依頼を毎回こなせる自信はあまり無い。だったら、寝る間も惜しんで強くなれればより効率的に高い難易度の依頼もこなせるだろうし、自ずと報酬金も高くなる。


 ……うん、そうしよう。ああ、やってやるよ。あいつらが僕を捨てたことを後悔するくらいには強くなってみせる。


 そんなことを考えているとギルドの入り口の扉が開き、副ギルドマスターが入ってきた。彼女は僕を見るやこっちに向かってきた。


「あなた、何も盗んでも壊してもいないでしょうね?!って、どこに行くのです!聞いているんですか!」


 僕はあいつの言うことを無視して依頼の貼ってあるボードに向かった。そこで、良さそうな依頼を取り、あいつに突き出した。


「この依頼を受けさせろ」

「あなた、どういうつもりですか。私の話を無視して何をするかと思えば、Bランクの依頼を持ってきて受理を求めようとするのは自分勝手すぎませんか!もちろん、認められません」

「自分勝手で何が悪いんだよ!こっちは今日の食事もままならないんだよ!」

「……!?」


 僕は相手の胸ぐらを掴み、語気を強めながら言った。さすがの彼女も少し驚いたらしい。


「あなたがしようとしているのはギルドの規則に反することです。そんなことを私が認めるはずが無いでしょう!それにその依頼で死んだ場合、遺族に対する補償は何もできません」

「……俺に家族はいねぇよ」

「……!そうでしたか。しかし、生きて帰って来たとしても……」

「生き残って帰ってきさえすれば金は貰えるのか!」

「人の話は最後まで聞きなさい。生きて帰って来たとしても報酬金は出せません。それに、今のあなたの怪我の状態で依頼に行かせるわけにはいきませし、今のあなたには信用がありません!」

「チッ……、俺は今金を稼がなきゃ明日生きているかどうかもわからないんだよ!」

「貯金もないんですか」

「あったら、こんなに執着してねえわ!」

「……!わかりました。そこまで言うのでしたら、買取金額だけでもお出ししましょう」

「ふん!」

 

 俺は掴んでいた胸ぐらを乱暴に離した。買取金だけじゃ生きていけるわけがねぇっつうのによ!


 納得はいかねえが、時間ももったいないからすぐに出発しようと出口に向かった時、あいつは今一番聞きたくもない言葉を発した。


「ただし、昨日お伝えした通り、買取はブレムさんのところでお願いします」

「はあ!お前、ふざけたこと言ってんじゃねえよ!あいつは確実に不正してんだよ!冒険者が持ってきた素材を適正価格よりもかなり下の金額で買い取ってくる。あいつのところで売ったら、今日は何も食えなくなんだよ!」

「証拠もないのに言いがかりはやめてください。彼は真面目に働いています」

「はあ!お前、何を言って……!」


 ここで直感が働いた。何を言っても無駄だと。ブレムの野郎のところで売らなければならなくなると。


 俺は何も納得しないまま「クソが!」と吐き捨てて、出口へと向かった。




 出ていったはいいものの、やはり人間だからか腹は減るもので、俺は泣け無しの金でいつぞやの串焼き屋で朝ごはんを買い食いした。そこの店主に怪我を心配されたが、適当に返した。まあ、あそこの串焼き屋にはこれからもお世話になるかもしれない。安いし、腹満たせるし……。味しないけど。


 そんなことは置いといて、今は、ギルドの依頼の場所へと向かっている。ホブコボルト5体の討伐だ。ホブコボルトはBランク相当の魔物でコボルトの上位種にも当たる。いつだかに相手したコボルトは結局殺せはしなかったが、その上位種相手となると、少し手こずるかもしれないが、油断しないようにしよう。


 歩いていると思いのほか時間がかかってしまったみたいで太陽が高い位置に昇っていた。目的地に着くと見覚えのある大岩がそこにあった。なんだろう、少し嫌な予感がする。とりあえず、当たりを見て回ろう。


 大岩の裏手に回ってみたが、特に何もなかった。まだ、ホブコボルトはいないのだろうか。それとも情報が間違っていたのか。とりあえず、ホブコボルトがいつ来ても良いように対策は考えておこう。


 いつもと違うのは、俺1人だということ、身を隠せるのがこの大岩しかないこと、5体の魔物を1人で相手すること、そして、雑草が膝より高い位置まで伸びてて、動きにくいということ。


 思ったよりいつもと違いすぎてダルい。早く対策考えないと。


 ……。


 どれだけ考えていたかは分からないが、この時の最大の失敗は大岩の方を向いて考え事をしていたことだ。つまり、背中を無防備にしてしまっていたのだ。考えることに夢中になっていた俺は、背後から雑草に身を隠し、しかも音を立てずに近づいてくるホブコボルトに気づかなかった。


 直感で近づいてくることに気づき、振り向いたが、遅かった。まさに今、持っている棍棒を振りかざそうとしている。


 ドガッ!


 鈍い音と共に俺は地面に倒れ込んだ。幸運だったことは意識を失わなかったことだけだろう。なぜなら、目の前にさっき殴ってきたやつとは別個体が棍棒を振りかざそうとしている。


 やばい!逃げなきゃ!


 そこから先の思考は完全に停止していたと思う。ただ、本能に任せて行動していたと思う。俺の悪い癖だ。


 俺の本能はすごいのか、相手の攻撃を見事に躱し、ホブコボルトから距離をとることに成功していた。そして、瞬時に状況を確認する。


 前方に3体、右手に1体、そして左手に……!


 また、棍棒を振りかざす直前のホブコボルトがいた。俺はタイミングよく躱し、また距離をとる。


 しかし、次の瞬間、俺は目を疑った。さっきまで大岩の前にいた3体がもう近くまで来ているのだ。


 速い!


 本能がそう確信した。このままだと殺られる!


 俺は逃げ惑うしか出来なかった。足元も悪いのに相手にギリギリ追いつかれないくらいに走れたのは奇跡だった。


 しかし、さすがに反撃をと思って俺は銃を構えたが、ある大事なことに気づいた。


 狙いが、定まらない……!


 緊張やら、疲れやらで腕が震えて狙いが定まらない。しかも、俺は一度も「動きながら」銃を撃ったことがなかった。だいたいいつも影で隠れながら撃っていた。


 嘘だ嘘だ嘘だ!こんなことありえない!こんな所で死んでたまるかよー!


 どれだけか逃げ惑ったあと、俺はなにかに躓き、転んでしまった。それを待っていたと言わんばかりにホブコボルトは棍棒を俺の右脛辺りに殴ってきた。


 ガハッ……!


 おそらく骨は逝っただろう。俺は声にならない声を出した。俺はホブコボルトの方に向き直し、両腕を突き出し、銃口をホブコボルトのこめかみへと向けた。俺が勝つ方法はこれだけだ。そう思いながら、自分の魔力の4分の3を溜め、一気に放った。ホブコボルトは血を吹き出し倒れた。殺ったか。


 ホブコボルトが動かないことを確認し、少し安堵したが、疲れがドット押し寄せて来た。もう動きたくない。しかし、不思議なのは残りの4体はどこに行ったのかだ。それを確認すべく、俺は無理矢理体を起こし周りを確かめる。すると、ホブコボルトは俺の四方に位置していた。まるで、俺を逃がさないと言わんばかりに。


 もしかしたら、俺を時間をかけて痛めつけようとしているのかもしれない。何故だ。どうして。俺、お前らになにかしたか。なんでそんなに恨まれなきゃいけないんだよ!


 もしや、こいつら、あの時のコボルトか!?確か、一部の魔物は進化することができると聞いたことがあるが、んな馬鹿な!あれから三ヶ月はたってんだぜ!なんで顔を覚えてんだよ!


 あ゙あ゙、もう!イライラする!なんでこうも嫌なことばっか続くだよ!クソが!!


 とっととくたばれ!


 


 そこから先は本能の俺が頑張ってたんだろう。何も覚えていない。気がついた時には、もう空は暗かった。そして、全身傷だらけで、いたるところが痛かった。何故死んでいないのだろうか。


 それでも俺は立ち上がってホブコボルトの解体を始めた。……かなり時間が経ってしまった。もう、ギルドも閉まっているだろう。気絶していたからか、あまりお腹は空いていない。丁度いい、ベンチで寝て、明日の朝、ギルドに行こう。行きたくないがな……。


 …………なかなか寝付けない。もういいや。寝るのは諦めて身体を鍛えるか。ああ、そうしよう。……痛みももう、引いてるし。



 

 それから、俺の過酷な日々が始まった。褒賞金の出ない依頼をこなしながら、売ってもお金にならない魔物の素材を集め、よく気絶しているにも関わらず、眠れない夜が続いていた。この生活を繰り返しているにも関わらず、なぜ俺は死んでいないのかが、疑問で仕方がなかった。


 だが、生きていればなんでもいい。生きていればどうとでもなる。現に、気絶するスパンが少しずつ伸びているような気がするし、魔力切れもそうそう起きなくなってきている。もしかしたら、魔力量が増えているのか?いや、それは聞いたことがない。人間の魔力量は生まれた時から決まっているらしい。だから、魔力量が増えることはない。


 でも、もし……。いや、考えるだけ無駄だ。気にしないでおこう。そんなこと、有り得るはずがない。


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