第七話「もう、どうでもいい」
なんだかんだで、あの日から二週間が経過していた。大して寝ても食ってもいないのに、前よりも筋肉がついている。それに二丁拳銃使いの腕前も上がった。しかも、怪我の痛みもあまり感じていない。相変わらず、治癒用のポーションは効かないが。しかし、その代償に金とギルドの信用を無くし、まわりから奇異な目で見られていた。
ふん!クソ喰らえ。
そんなことを考えながらギルドの扉を開けると、受付カウンターの前に知らないジジイがこっちを見て立っていた。誰だあいつ。俺は無視して依頼の掲示板の方に向かっていると、ジジイから声をかけられた。
「お前が噂のカイ=ランフォードか。お前に話がある。付いてこい」
なんだこいつ。まず、そもそもお前は誰なんだよ。どうせ、着いて行ったら面倒臭いことになるに決まっている。それに今は他人と関わりたくないんでね!俺は無視することに決めた。しかし、あいつは俺の近くに来て、
「来い」
と、低い声で軽く脅してきた。こいつには逆らえないと直感が告げた。俺は渋々ついて行くことにした。
連れて来られたのはギルドマスターの部屋だった。なんでここに呼ばれた。俺は少し警戒していたが、あいつは話し出した。
「悪いなぁ、呼び出してしまって。自己紹介がまだだったかな。儂はギルドイースタリアン支部のギルドマスター、ファトレ=ベネッリだ」
名前を言っただけで感じるこの重厚感に俺は唾を飲み込んだ。だが、俺は声を出した。
「それで、俺はなんで呼ばれたんだよ」
「人の話を遮るでない」
(く?!なんだこの威圧感!これがギルマスか?!)
「お主を呼び出したのは、他でもないお主のためだ。お主、最近寝ず食わずの生活を続けているのではなかろうか。儂はお主の身体に配慮して、ギルドの空き部屋をひとつお主に貸そうと思っているのだが……」
「はっ!そんなのどうせ建前だろ!本音は俺の監視なんじゃねえのかよ!」
「ほう、鋭いな。ギルドとしては不正受注を繰り返し、前科持ちの冒険者を野放しにできなくてなあ」
「俺は何もしてねえ!」
「……まあ良い。お主には暫くギルドで寝泊まりしてもらう。これは決定事項だ。お主に拒否権は無い」
「……ちっ」
「それに加え、お主には暫く儂からの指名依頼を受けてもらう」
「……」
「もちろん、前金は報酬金の2割増しだ」
「5割だ。それなら考えてやる」
「……良かろう。そして、魔物の素材だが、儂が買い取ろう。」
「……?」
「解らぬか。ブレル=ムーナンのところで散々苦しめられたのであろう」
「?!本当だな。適正価格で買いとるんだな」
「ああ、もちろん。状態が良ければ割増で買い取ることも有るだろうな」
(どうする、ここまでの話、俺にメリットしかない。だけど、指名依頼とやらが引っかかる。なにか裏でもあるのか?いや、そんなこと考えても仕方ない。今はこいつの話に乗ろう、直感もそう告げてる)
「わかった、ギルマス、お前の提案を飲もう」
「ほう、噂と違って話の通るやつやのう」
「それで、俺は何をすればいい」
「先にも話したが、あ主にはギルドに残っている指名依頼をこなしてもらう。手始めにこの依頼に行ってもらおう」
そう言って、ギルマスは1枚の紙を俺に渡してきた。
「……ブラックスネークの討伐か」
「ああ、Bランクレベルの魔物だが、あ主なら問題ないだろう。それとも、何か問題でもあるのか」
「……は!舐めるなよ、この俺を。今日中に帰ってくる」
俺はそう言い捨て、部屋を出て行った。
「今日中に帰ってくるとは、大きく出たな」
ギルドマスターの呟きはどこか期待が込められていた。
俺は部屋を出たあと、すぐにブラックスネークが住まう森へと向かった。ブラックスネークは体長が5mを超え、毒性の牙を持ち、刃の通らない皮をも備えている。それゆえ、討伐想定ランクはBランク以上となっている。俺はそんな相手に一人で立ち向かうのだか、勝機がない訳では無い。ブラックスネークにも明確な弱点が存在する。それは、目と口の中だ。そこを魔法などの高火力で叩けば、負けることはほぼない。
それを知っていた俺は上手く立ち回り、ブラックスネークをあっさり倒した。こんな所で死んでたまるかよ。俺はブラックスネークを解体し、ギルドに戻った。
「……まさかとは思うが、倒してきていないという訳ではあるまいな」
「んな訳あるかよ!これが証拠だ!」
本当に今日中に帰ってくるとはギルマスは思っていなかったのか、俺が帰るなり驚いた顔をしていた。ブラックスネークを討伐していないと疑われたから、俺はブラックスネークを解体したものが入っている袋を乱暴に投げつけた。
「……ああ、確かに討伐してきたようだな。いや、すまない。お主の実力を疑っていたわけではないが、まさかここまでとはな思わなんだ。約束通り、報酬の5割増しをお主にやろう。少し待て」
「……早くしろ」
それから、少しして、お金が入った袋を持って、ギルマスが戻ってきた。
「お主に朗報だ。討伐分と資材代を合わせて板金貨5枚だ」
俺は乱暴に受け取った。
「どうした。喜ばしいことではないか」
「俺にとって金はあってないようなものだ」
「そうか、そんだけありゃ、半年は生活に困らないんだがな」
ギルマスはそれ以上追求することは無かった。
そして、これから俺の変な生活が始まった。寝る場所と食い物は確保できたが、食事は味がしなく、美味しくない。それに寝る気も起きず、結局、場所が変わっただけで、やることは以前と大して変わっていなかった。変わったことといえば、報酬が上がったことくらいか。
ギルマスから初めての指名依頼を受けた日から1週間後、いつも通り指名依頼を終え、ギルドに帰っていた道中、俺は奇妙なものを見つけた。
これは……何かの卵か。
それは、明らかに卵だったが、何の生き物の卵かは検討がつかない。とりあえず、ギルドに持ち帰ってギルマスに聞くとしよう。
「ギルマス、こんなものを見つけたんだが」
帰路で拾った卵をギルマスに見せると、驚いた顔をしていた。
「お主!それをどこで拾った?!」
「は?近くの森の前の道で拾っただけだが、それがどうした」
「お主、気づいておらぬのか。これはホワイトドラゴンの卵だ」
俺は耳を疑った。なんで、そんなものがあんな道端の途中に落ちてるんだよ。
「……どうやら、本当に気づいておらぬようだな。お主が今手に持っておる卵は紛れもなくホワイトドラゴンの卵だ」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「……長年の知恵というやつじゃ。……ホワイトドラゴンはドラゴン種の中で唯一人族に友好的な種だ。もし、その卵が孵化したのなら、お主を助ける存在になるやもしれんな」
「…………どうだか」
ギルマスの話を聞いた俺は直感が働いた……気がした。少しだけ、面倒をみるとするか。もしかしたら、面白いことになるかもしれないし。
「ちなみに、どうやったら孵化するんだ」
「すまないが、儂にはわからん。おそらくだが、暖めていれば、そのうち孵化するであろう」
「んな、適当な……」
仕方ねえ。ギルマスの言う通り、適当に暖めておけば何とかなるだろう。とりあえず、卵を支えるものとタオルを用意しよう。
それから、卵が割れる音に気づいたのは卵を暖め始めてから3日後の朝だった。てか、早!こんなに早く孵化するものなのか?!くそ!こんなに早く産まれるなんて想定してねぇよ。
俺がそんなことを考えている間にも卵のひび割れは進行する。そして、ついに小さなホワイトドラゴンが姿を現した。
それは愛くるしく、どこか母性本能をくすぐるような可愛らしい姿で、ドラゴンの威厳はどこにも無かった。
「……きゅう?」
ドラゴンはそう鳴くと、俺の胸元に飛んできて、頭を胸に擦り寄せた。俺はあまりの可愛さに言葉を失っていた。こんなこと今まであっただろうか。
我に帰った俺は急いでギルマスの元に向かった。とりあえず、報告に行こう。
「ギルマス!卵、孵化しちまった」
「お主、それはどういう冗談……どうやら本当のようだな。儂もホワイトドラゴンの幼体を見るのは初めてだ。まさかこんなに早く産まれるとは儂も考えていなかった」
「これからどうすれば」
「どうするも何も、お主が育てるのだ。おそらくそいつは既にお主を親だと考えているようだが」
「まじか」
一人で生活するのさえ大変なのに、なんか増えたんだけど。しかしまあ、拾ったものは責任持たないとな。生き物だし。……なんで、こんなこと考えてるんだ……。
とりあえず、俺が育てることになり、ギルマスに名前はどうするのか聞かれたので、白いし「パール」と名付けた。もしかしたら、あの時の直感が実現するかもしれない。
ギルマスに今日の指名依頼はどうするかと聞かれたが、俺はパールを連れて行くことにした。ドラゴンだし、何かしら戦闘の助けになるかもしれないし。産まれたばかりだけど。
指名依頼の場所についた時、出発前の考えは杞憂だったことがわかった。こいつ、火を吹きやがるうえ、普通にちゃんと戦えていやがる。本当に産まれたばかりなのか?それとも、ドラゴンがそもそもこういうものなのか……。
それから数日、俺とパールは共に指名依頼をこなしていた。案外、ドラゴンと一緒に戦うのは楽しかった。ケインにも見せる機会があったけど、かなり驚いてた。
そして、ある日。俺はパールと共に洞窟に住まうジャイアントゴリラの討伐に向かった。ジャイアントゴリラはBからAランク相当の魔物だ。周りのハームモンキーが邪魔になりそうだが、あまり問題にはならないだろう。
……俺は数時間前の自分をぶん殴りたい。完全に油断していた。この場所は相手の領地、完全アウェーの状態だった。ここ最近、上手くいっていたからか気が緩んでいた。
俺の死角から飛び出してくるハームモンキーに何度もやられかけ、その隙をジャイアントゴリラが詰めてくる。その繰り返しだった。
パールがいなかったら確実に死んでいただろう。そう思う。俺は頭から血を流した状態で洞窟の出口へと向かった。歩みはもたつき、フラフラしていた。視界もぼやける。
そんな俺を嘲笑うように洞窟の出口が見えた途端、大地が揺れた。こんな時に地震かよ!しかもかなり大きい!それと同時に嫌な予感が頭を過ぎる。洞窟が崩れる……!
その予感が的中してしまった。出口が瓦礫で崩れ始める。俺の頭上も危ない。けど、動けない。なんだか、パールが喚いてるけど、何も分からない。ああ、そうか。
俺、死ぬのか。もう、どうでもいい。
僕は、辺境の小さな村に生まれた。僕の親は宝石を扱う商人の家系で、この村では裕福な家庭だった。だけど、物心がついた時には母親がおらず、父親だけだった。父さん曰く、母さんは仕事に出かけているらしい。
なので、僕は父親に育てられた訳だが、特に不自由することは無かった。幼なじみのレイと一緒によく遊んでいた。よくレイと冒険者ごっこしてたなあ。懐かしい。
でも確か、僕が8歳のとき、父さんの出張について行ったら、山賊に襲われたんだっけ。雇っていた冒険者は役に立たなくて、父さんが頑張って応戦してたけど、さすがに耐えきれなかったみたい。あっけなく殺られちゃった。僕は運良く見逃してくれたけど、しばらく立ちすくしていたと思う。確かあの時、父さん何か言いかけてたけど、忘れちゃった。
それからのことは、何も覚えていないけど、母方のおじいちゃん、おばあちゃんに育てて貰っていた気がする。父さんが死んだのに、母さんは仕事から帰ってくることは無かった。結局、父さんがやっていた商会は僕に引き継がれず、父さんの古い友人に任されることになった。
おじいちゃん曰く、僕には自由に生きて欲しいらしい。後から聞いた話だけど、父さんは婿養子で、この商会は母方の家系のものなんだと。
それから、僕は父さんが死んだこと




