第八話「だから、言っただろう」
カイが探索をしていた洞窟の近くの草原にあるパーティがいた。
「お前ら、大丈夫か!?かなり揺れたな」
「ええ、私たちは大丈夫よ。ケインこそ大丈夫?」
「ああ、俺も平気だ。まさかこの地域で地震が起こるとは驚いたな」
そのパーティはケインが所属するタイガーズだった。彼らもまた、地震を感じていた。
すると、メンバーの一人、ハンナがある違和感に気づく。
「ねえ、あそこの洞窟、さっきの地震でかなり崩れたみたいだけど」
「確かにそうだなあ、入口が完全に塞がっていやがる」
「私、なんだか嫌な予感がするんだけど、気のせいかな」
「……いや、それは気のせいじゃねえかもしれねえな。よく見てみろ。入口にホワイトドラゴンが飛んでいやがる。あれはカイのペットだ!」
そう言ったケインは一目散に崩れた洞窟の入口に向かって走り出す。残りの三人もそれに続いた。
「おい!どうした!ドラゴンのやろう!カイは一緒じゃねえのか」
「きゅう!きゅう!」
パールは助けて欲しいという一心で鳴き叫ぶ。その気持ちに気づいたのはロビンだった。
「もしかしてこの子、助けを求めてるんじゃないかな」
「助けだと」
「例えば、カイくんがこの洞窟に閉じ込められてる……とか」
四人はハッと気づいた。おそらくパールが鳴いている理由はそれだろうと。
「お前ら、急ぐぞ!」
ケインがそう言ったのを皮切りに四人は瓦礫を片付け始める。
しばらくすると、カイが瓦礫の下敷きになっているのをアレンが発見した。
「いたぞ!カイが下敷きになってる!早く助け出さないと」
「わかった!アレン、お前はそっちを持て!俺はこっちを持つから」
四人は協力してカイを救出した。しかし、カイの意識は無く、頭から血を流していた。
「くそ!大丈夫かよ!カイ!ロビン!治癒用のポーションは残ってるか!」
「ええ!」
そう言い、治癒用のハイポーションを取り出し、ケインに渡す。受け取ったケインはカイにかけたが、効果が無かった。
「くそ!こいつなんでポーション効かねぇんだよ!仕方ねえ、魔法だ!」
「彼の者の痛みを癒し賜え、ハイヒール!」
ロビンがそう唱えたが、やはり、効果は無かった。
「はあ!?こいつ魔法もダメなのかよ!」
「ケイン、すぐにギルドに戻りましょう」
「ああ、そうだな。お前ら急ぐぞ!ドラゴン、お前もついてこい」
「きゅう!」
ケインがカイを抱えながら、四人と一匹はギルドへと急いで戻った。
「カイ!死ぬんじゃねえぞ!」
そう、願いながら。
四人と一匹は駆け足でギルドに入った。
「おい、ギルマスはいるか!カイが一大事なんだ!」
「儂はここにおる!二階に上がってこい」
それを聞いたケイン達は、ギルマスがいる部屋へと急いで向かった。
「さあ、カイをここに寝かせてくれ」
ケインは慎重にカイをベッドに寝かせた。
「ギルマス、カイの様態はどうだ……」
「……全身傷だらけで、しばらく目を覚まさないかもしれん」
「なあ、ギルマス、カイは治癒魔法やポーションが効かなかったが、何か知っているか、とはいえ、俺もあらかた予想はついているが」
「ケイン、ふたりで話せないか」
それを聞いたケインは三人に断って、ギルマスと二人で話すことにした。パールはカイに寄り添っていた。
ギルマスとケインはギルドマスターの部屋に入り、椅子に座って、話始めた。
「ケイン、お主はカイのことについてどこまで知っておる」
「一ヶ月前から突然、俺のことを避けるようになった前までなら知っている」
「そうか、その理由もお主なら予想はついておろう」
「ああ、同時期にレイと他二人の女が居なくなったことが関係しているならな」
「よかろう。カイが突然一人で活動しだしたのは、お主の予想通り、レイに裏切られたからだ。その原因が、二人の女冒険者によるものだ」
「だろうな。おそらく、俺や他の人を避けるようになったのは、他人を信用しなくなったからだろう。それで、カイに魔法が効かなかったことについては知っているのか」
「儂も具体的には知らされていない。カイからも何も聞いていない。ただ、儂の予想では、レイが治癒魔法を使えたことが関係していると考えておる」
「なるほどな……しかし、その状態でよく冒険者を続けられたな」
「儂もそれについては疑問に思っておる。何でも、傷の治りが早いとカイは言っておったわ」
「そうか」
しばらく沈黙が走る。
「それにしても、カイ、だいぶ変わったよな。見た目にしても、気持ちにしても」
「それほど、彼にとってはショッキングな出来事だったのだろう。儂が受けた報告だと、寝ず食わずの生活を続けていたそうだ。しかも、依頼の不正受注を繰り返し、ブレムのところで換金をしておったわ」
「まじかよ」
「……実は、レイがカイに別れ話をしている最中、儂もあの場におったのだ。冒険者の間でよくある追放劇だと思い、いつもなら無視をしていたのだが、あの日だけ胸騒ぎがしてな、様子を二階から見ていたのだ」
ケインは静かに耳を傾けた。
「その時に持っていた、指定した者の心の声を一度だけ対象者に聞こえるようにする魔法具をカイとレイに対して使ったのだ。カイにレイの心の声を聞かせるために。それを使った瞬間、カイはギルドを飛び出してしまった。あの時は、今でもカイに悪いことをしたと思っている。だから、こうしてカイを匿っている」
「そうか。ギルマス、そのことはカイに伝えたのか」
「いや、伝えておらん。カイに嫌な思いを思い出させたくはないからな」
「……ギルマス、俺の勝手な予想だが、カイが目を覚ましたら、一ヶ月前のカイに戻ると考えている。闇堕ち前のカイに。だから、目が覚めたら、カイに全てを伝えてみたらどうだ」
「そうだな。遅かれ早かれ、いつか伝えねばと考えていた。それがもうすぐ来るというだけか」
「俺も、闇堕ち中のカイに何もしてやれなかったから、少し負い目がある。最近、話してくれたことはパールを飼い始めたことだけだった。それ以外のことは何も話してくれなかったな」
「……実はもうひとつ、カイのためを思って考えていることがあるのだが、カイ自身に奴隷を買わせるということだ」
「奴隷か!そうきたか」
「ああ、奴隷なら、主人の言うことを聞き、従順だ。カイの人間不信を治すのに最適やもしれぬ」
「だが、奴隷を買うだけの金をカイは持っているのか」
「その点は儂は心配していない。実は、カイが受けた依頼の報酬金を儂が預かっておる。それにカイはあまり金を使っていない。だから、奴隷を買うだけの金は足りていると儂は踏んでおる」
「しかし、驚いたな。まさか、ギルマスがそういうことを言い出すとは思わなかったぜ」
「儂はカイに同情しておる。それに、カイはこの街で有望な若手でな。手放すには惜しい人材なのだよ。Bランク相当の魔物を一人で狩るからな」
「まじかよ。あいつ、一ヶ月でそんなに成長したのかよ」
「ああ、だから、もう冒険者を辞めたいと思わせたくないのだ。もちろん、本人の意志は尊重するつもりだ」
「そうか、俺も手塩にかけた後輩があんな目にあっちまったのはあまり気分が良いものでもないしな」
「この話はカイが目覚めた時にまたしよう」
「ああ、そうだな。あと、今思い出したが、今日、俺らが依頼に出かける前に、カイに何かあったらここに来いと言ったのはどうしてだ?まさか、こうなることがわかっていたのか」
「……たまたまだ」
「そうか」
ケインはそれ以上追及しなかった。
画して、ケインとギルマスの対談は幕を閉じた。カイが眠っている間、噂を聞いて駆けつけたジムや他の冒険者仲間がカイの見舞いに来ていた。
二週間後、カイが目を覚ました。
「あ、あれ僕はどうしてこんな所に……それに何をしてたんだっけ」
カイは記憶を辿った。
「ええと、確か、パールと一緒にゴリラを何とか倒して帰ってる最中に……!そうだった、地震が起きて気絶してたのか……てか、死んでないのかよ」
カイの中に、良かったような残念なような中途半端な気持ちが混在していた。
「今、何日だろう……」
そう考えていると、カイの腕の中のパールも目を覚ましたらしい。
「……!きゅう!きゅう!」
パールはカイが目を覚ましたことについて気づき、扉の方に飛んで行き、器用にそれを開けた。数分後、ギルマスを連れて戻ってきた。
「カイ!目が覚めたか!」
「えっ、ギルマス。うん、起きたよ」
「良かった!本当に良かった!どこか痛むところはないか」
ギルマスはカイの肩を掴む。
「うん、特にないよ」
「そうか、やはりお主の回復力は目を見張るものがあるのお」
「なあ、ギルマス……」
「すまないが、カイが聞きたいことがあることは理解しておる。だが、今は儂の話を聞いてくれ」
「え?う、うん」
「まずは、お主は気絶してから約二週間経った今、目を覚ました。ちなみに今日は七月の十七日、偶然にもお主の誕生日のようだな」
「え、そうなんだ」
「カイ、今の気分はどうだ」
「気分……、だいぶ落ち着いてると思う。前までの僕はだいぶバカなことしてたなって今なら思うかな」
「そうか、実はお主に伝えねばならぬことがある。レイが別れ話をしている時、ふと、何かが聞こえてこなかったか。それはレイの心の声だ」
カイは納得したような顔をした。
「やっぱり、あれはレイの心の声だったんだ」
「なんだ、気づいておったか」
「だろうなとは思ってた。信じたくなかったけど」
「嫌な気分にさせてしまったのなら申し訳ない」
「ううん、いいよ。正直、真実がしれてスッキリしたまであるし」
「なら、よかった」
ギルマスがそう言うと同時に部屋の扉が勢いよく開き、ケインが入ってきた。
「ギルマス!カイが目を覚ましたって聞いたが、本当か!」
「ケイン、どうしたの」
「カイ!良かった、生きてたか」
「ケイン、今はこの間のお主と話したことをカイに話していたところだ」
「ああ、あの時の……それであの件については」
「それは今から話すところだ」
カイは首を傾げた。
「カイ、お主はこれからどうしたいと考えておる」
「どうしたいって、冒険者のこと?」
「ああ、それもそうだが、これからどのように生活していくかと聞いている」
「うーん……パールのこともあるし、僕はまだ、冒険者を続けようと思う。正直、まだ他人を信用できる自信はないけど、それに、冒険者以外の職業で稼げる気もしないし」
「そうか……ならば、お主に提案がある」
少し間を置いた。
「カイ、奴隷を買ってみてはどうだ」
「奴隷……」
「ああ、奴隷ならお主に従順で裏切ることはない。人を信用するためのリハビリになるだろう」
「俺もそう思ってる。出来れば、女の奴隷を買うのがいいだろう」
「……どうして、僕のことを思ってくれるの」
「お前に同情してるからだよ。だから、言っただろう、前に。同じパーティに居る女には気をつけろって」
「そっか……ありがとう」
(奴隷……か、実際どうなんだろう。奴隷を買ったからといって人間不信が治るものなのかな。でも、何かしらの変化が加わるのは間違い無いはずだし、その意味でも、奴隷を買ってみるのもいいかもしれない。直感は……働いてないみたいだね。でも、何となく、これから先の未来がいい方向に転がる、そんな気がするなあ)
カイは決意した。奴隷を買うことを。その選択が未来を大きく変えることになることは誰にも分からなかった。
イースタリアン某所。奴隷商館。この建物の地下には売れ残った奴隷が放置されていた。そこに一人の少女が眠っていた。
(どうして、私が、こんな目に……。お願い。誰か、私を……)
虚しい願いを抱えながら。




