第四話「しっかりしなきゃって」
「それでは、今日はもう遅いですし、明日ギルドが空いてきたころ、またここに集合しましょう」
レイがそう切り出したタイミングでカイのおなかが鳴った。
「あ、そういえば僕ら夕飯まだだったね」
カイが顔を赤らめながら言った。
「ちょうど良かった!実は私たちも夜ご飯がまだだったんですよ。どうですか?ここは親睦を深めるという意味でも一緒に食べませんか」
「そうするか。いいよな、カイ」
「ああ。というより、断る理由がないもんな」
カイとレイはカウナの提案に賛成し、四人は下の階の食堂へと向かい、空いている席に座った。ギルドの食堂は昨日と同じくらいにぎわっていた。レイはメニュー表を取りながら二人に尋ねた。
「お二人はふだん、どういったものを食べるんですか」
「ええと、私たちはふだん食材を買ってコモナが料理したものを食べてるんです。この子の料理はとてもおいしいんですよ」
「料理は好きでやっていることですけど、得意というほどでは...」
「そんなことはないよ!コモナの料理は本当においしいんだから!」
「お姉さんがそんなに褒めるということは本当においしいのでしょうね。いつか食べてみたいものです」
「ありがとうございます。でも、同じパーティメンバーになったから近いうちにごちそうできると思います」
「それは楽しみです!」
「はい!楽しみにしていてください!」
そう答えるコモナの表情はかわいらしかった。
「お二人はふだん何を食べているんですか」
カイとレイがコモナの表情に見とれていると、カウナから質問を返された。
「あっ、ええと僕らはいつもギルドの料理か買い食いかな。自分で料理をするなんて考えもしなかったな」
「それに食べるものも毎回同じようなもので、あまり健康に良いとは言えないな」
「そう考えると、カウナさんたちとは雲泥の差かもしれないね」
こういった雑談が料理を注文し、来た後にも続いた。
それからしばらくして、今度はお酒に酔っていないケインがカイたちのところへ来た。
「よお、サファイア!珍しいな、おまえらが女子とご飯を食べてるなんて。まさか、お見合い中だったか」
「からかわないでよ。そんなんじゃ、ないってば。ええと、紹介するね。この人たちは僕たちの新しいパーティメンバーのカウナ=ラサロさんとコモナ=ラサロさん。ついさっきサファイアに加入したんだ。で、今は親睦を深めるために、一緒にご飯を食べてるところなんだ。そして、こちらはケイン=ホガース。僕たちの先輩冒険者で師匠でもある人なんだ。僕たちがまだ新米だったころに、冒険者のノウハウを教わったんだよね」
「あなたが噂のホガースさんだったんですね。この街で屈指の強さを誇るとか。あ、申し遅れました。私はカウナ=ラサロです。そしてこちらが」
「コモナ=ラサロです」
「もしかしたらこれからお世話になることがあるかもしれませんので、そのときはよろしくお願いしますね」
「ああ、そのときはどんどん俺、ケイン=ホガースに頼ってくれ。てか、君たちめっちゃ礼儀正しいな。ここまで礼儀正しい冒険者はなかなかいないぜ」
「ふふ、ありがとうございます」
「これからはサファイアとしてこいつらと仲良くしてやってくれ。実力と性格は俺が保証する。悪い奴らじゃないからさ」
カウナが「はい、もちろん」と返事をし、コモナも笑顔で縦に首を振ったのを見たケインは「おまえら、少しいいか」とカイとレイの顔を近づかせた。
「いいか、おまえら。女子が新しくパーティに入るってことはいろいろ大変になるから少し覚悟しておいたほうがいい。特に色恋沙汰になると面倒だからな」
「お、おう」
「分かった」
ケインは二人に忠告を終え、ラサロ姉妹にほうへ向きなおり「じゃ、俺はもう行くから。またな」と言って帰っていった。
「噂どおり、ホガースさん、いい人そうでしたね」
「ああ、俺たちも頭が上がらない人だよ」
その後も雑談は続き、いつの間にか周りの冒険者の数もまばらになっていた。そして、四人の食事会はお開きとなり、宿へ戻ることになった。
「俺たちの宿はこっちですけど、お二人は……」
「反対方向ですね」
カウナが少しだけ残念そうに答える。
「分かりました。では、また明日、ここで会いましょう」
「はい、分かりました。ではまた明日。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
カウナとコモナがそう告げ、カイとレイも、
「おやすみなさい」
と返した。そして、それぞれの帰路へとついた。カイとレイは今までになかった感覚だからか体がふわふわしているように感じていた。
「なんかいいな、この感じ」
「ああ。それに二人とうまくやっていけそうで、ひとまず安心したかな」
「うん、そうだね。僕もとりあえず安心したよ。二人がいい人そうだし、それに一回会ってるしな」
「そうだな」
二人は雑談を交わしながらいつもの宿へと向かっていった。その間、カイはレイが何か分かったような表情をしていることに気づいたが、確信がなかったため、そのことについてレイに聞くことはなかった。
次の日の朝、二人はいつも通り朝食を済ませ、闘技場へと向かい、朝の日課をして過ごした。二人がギルドにつく頃には既にカウナとコモナはそこにいた。
「二人とも早いですね。まだ、それほど日は昇っていないのに」
「お二人との初依頼が楽しみすぎて早く来てしまいました。あ、ちなみにもう依頼は受注してありますよ」
カウナが答えながらポケットから依頼の紙を取り出した。その依頼の内容は野生のケッコーの群れを討伐するものだった。
ケッコーはその卵とともに食用として人気が高い反面、極めて攻撃的な性格をしており、野生となるとそれは凶暴度が増す。それが群れとなると、駆け出しの冒険者ではすぐにやられてしまうほどだ。
そんなケッコーだが、ふだんは森に生息している。しかし、時々人里に降りてきては、農作物を食い荒らす害獣でもあった。だから、こうしてギルドに討伐依頼が下りてくるのだ。
「ケッコーの群れの討伐か……」
「どうしましたか、ランフォードさん」
カウナが不思議そうに聞く。
「ああ、いえ、実は僕、動物型の魔物はちょっと苦手なんですよね。すばしっこい上に弱点も小さくてなかなか当たらないんですよね」
「そういえば、ランフォードさんって拳銃使いでしたね。でも弱点というのは何ですか?」
「ええと、詳しいことは道中、歩きながら話します。それに依頼で示されている場所もここからそれなりに離れているから今すぐ出発してしまったほうがいいと思ったんですけど、どうしますか」
「いや、今すぐというのはまずいだろう。お二人も身支度ぐらいはしたいだろうし」
「お気遣いありがとうございます、レイさん。ですが、私たちは今すぐ出発で大丈夫ですよ。これでも私たちは冒険者になってそこそこたちますし、それに、最近Cランクになったばかりですので、いつでも冒険の準備はできています」
カウナがそう言うとコモナも小さくうなずいた。
「そうですか。では、道中で食事を買って、向かいましょうか」
レイがそう言うと四人はギルドを後にした。
しばらくたった後、四人は既に依頼の場所についており、道中にある程度の作戦も立てていた。そして、目標のケッコーの群れも目の前にいる。想像以上のその数に少し圧倒されていたが、レイは冷静だった。
「では、陣形は話したとおりで。少し数が多いようですが、落ち着いて、さっさと依頼を終わらせてしまいましょう」
「はい!では、いきます!」
カウナがそう言うと同時にカウナとコモナがケッコーの群れに向かって飛び出した。それに気づいたケッコーの群れのうちの一匹が応戦態勢に入ったが、すかさずカイの銃に撃ち抜かれた。
それを皮切りにケッコーの群れが鳴き声をあげ応戦態勢に入り、カウナとコモナを目掛けて走り出した。それを確認したコモナとカウナは剣を構え、向かってきたケッコーの首を切り落とした。
「すごい、ランフォードさんの言うとおりあっさり切れちゃった」
カウナが少し感動したように言った。コモナも同じように感じたのか、小さく驚いた表情をしていた。実は、ここに来るまでの道中、カイはカウナたちに魔物の弱点について教えていたのだ。
「油断するな!どんどん来るぞ!」
レイが怒鳴るように大声で言った。その声を聞いて、カウナとコモナは真剣な表情になり迫ってくるケッコーの群れの中に飛び込んだ。
その後は一方的だった。カウナとコモナがケッコーの群れを狩り、たまに二人のどちらかが危険な目に遭いそうになるとレイがすかさずガードに走る。そして、カイが遠くのケッコーを狩る。この繰り返しだった。
その後、みるみるうちにケッコーの数は減っていき討伐し始めてから数十分で片付いてしまった。レイが周りにケッコーが残ってないか確認しながら
「四人でやるとこんなに早く終わるんだな」
とつぶやいた。それにはカイも共感していた。
「だな。僕ら二人でやったらもっと時間かかってた。やっぱりちゃんとした前衛がいると効率が上がるな」
「はい!私たちもお二方の助けになれてよかったです。これからもっと活躍できるよう頑張りますね!……ところで、これからどうしますか。もうギルドに戻りますか」
カウナは活躍できたのがよほど嬉しかったのかかなりハキハキしながら答えていた。
しかし、カウナの言う通り予定の時間よりもかなり早く終わってしまったため時間が余っていた。
「そうですね……早いですがもう戻りましょう。無事に、帰ることに越したことはありませんからね」
レイが三人に顔を見ながら答えた。
「そうだ!確かイースタリアンの中央広場の近くにバーベキューができるところがありましたよね。そこで夕ご飯にしませんか?昨日の夜に言ったコモナの手料理も食べていただきたいですし」
カウナはそう言うとコモナの方をチラリと見た。コモナは笑顔で首を縦に振っていた。
「コモナもこの反応ですし、どうでしょうか」
「うん、僕はそれでいいよ。コモナさんの料理、楽しみだな」
「ああ、俺も異論はない」
「じゃあ、夕飯の材料だけど……ここに転がっているケッコーの肉でいいかな。確かギルドで頼めば魔物の解体をしてくれるはずだから」
「はい、それでいきましょう。他の材料に関しては私たちが買って直接持って行きますね」
「わかりました。では、肉が傷まないうちに回収してしまいましょう」
レイがそう言うと、四人はギルドから預かっている魔物回収用のマジックボックスにケッコーを詰めていった。
その後、四人はイースタリアンに戻りカイとレイはギルドに精算をしに、カウナとコモナは夕ご飯の買い出しにそれぞれ、向かっていた。
数十分後、四人は約束通りバーベキューができる広場に集まり、夕食の準備に取り掛かった。
カウナの言う通り、コモナの料理は手際良く準備され、十分もたたないうちに最初の料理が来た。ケッコーの肉を味付けして焼いただけのものだったが、二人はここ最近に食べた肉料理で一番美味しいとかなり絶賛し、一品目からだいぶ満足していた。
その後、次々とコモナの手料理が振る舞われ、二人のおなかがいっぱいになったところでお開きとなった。
「こんな美味しい料理をこれからも食べられるって考えると、毎日、頑張ろうって思えるんだけどなー」
「そうだな。うまい料理は人を幸せにすると言うし、毎日とは言わずとも何度かごちそうしてほしいものだ」
カイとレイは宿に向かう帰路で少し雑談をしていた。そして、宿に着きそれぞれの部屋で眠りについた。これからの毎日を思いながら……。
それから一週間、似たような日々を送っていた。朝は起きたら闘技場に向かい自主トレ、昼は四人で依頼をこなし、夜は四人で夕ご飯。ここまでは調子が良く、四人はすごく楽しい充実した日々を送れていると感じていた。
しかし、それから数日、カイはある不安感を抱き始めた。
(最近、魔物との戦いであまり僕が活躍できてない気がする)
と。
だから、時間が空いた時にケインに相談することにした。
「多分あれだな、前衛が二人も追加で入ったんだから、後衛のおまえが活躍できる場面はかなり限られてくる。それに加え、戦ってる魔物が弱ければ尚更だ」
「やっぱりそうだよね。レイも二人が魔物に不意を突かれそうになったら、守りに走るということも増えてきて、今は岩陰とか木陰とかに隠れて魔物を撃ち抜くってスタイルになったんだ」
「なるほど……それでおまえの聞きたいことはこれだけか」
「いや、もう一つ……だからさ、僕、二丁拳銃使いになろうと思ってるんだ。やっぱり僕もメンバーから遅れを取らないようしっかりしなきゃって思うんだ」
「うん?なら、なればいいだろう。二丁拳銃使いに。逆になんで今までならなかったのか不思議なくらいだ」
「えっそうなの?僕に二丁拳銃使いになれる素質があるか聞こうと思ってたんだけど」
「おまえには二丁拳銃使いになれる素質が十二分にある。右手でそんだけ撃てりゃ左手でも同じくらい撃てんだろ。俺の目を信じろ」
「確かに。ケインの人を見る目は本物だからね。ありがとう、おかげで二丁拳銃使いになる決心がついたよ。早速練習してくる!」
「おう、いってらっしゃい」
カイはケインに相談事を終え、闘技場へと移動した。
それからカイの特訓は始まった。始めは左手で撃つことがなかなか慣れず苦しんでいたが、数日間、撃ち込んだだけで慣れていった。
実戦でも次第に使えるようになっていき、特訓を始めてから二週間たたないうちに両手で撃てるようになった。既に月が変わり、今は六月の上旬だ。
しかし、カイはこの数週間、ある事実に気づいていなかった。いや、気づかないフリをしていたのかもしれない。レイとカウナの仲が日に日に良くなっていることに。そして、カイのパーティの扱いが少し雑になっていること、またそれが二人によるものだということも。
カイは最近パーティでの居心地が悪いと感じていたが、二丁拳銃使いになればその状況が変わることに賭けて、日々特訓していた。その様子をコモナは遠くで見守っていた。
結局、カイは二丁拳銃使いと呼ばれても遜色ないくらいに成長した。その後、ギルドのジョブチェンジ試験を突破したことを報告し、新しいギルドカードを作ってもらった。
「これで晴れて二丁拳銃使いになれた!ケインの言う通り、思ったよりも早く習得できたな。まあ銃が二つに増えたから魔力消費量も二倍に増えて余計疲れやすくなったけど……その辺はなんとかするしかないな。てかあいつら遅いな。いつもならもういるはずなんだけど」
カイは他のメンバーがまだギルドに来ていないことを疑問に思っていた。仕方なく、カイは入り口近くの机で銃の手入れをしながら三人の様子が少しおかしいことについて考えていた。
(そういや、あいつら朝の特訓に来てたっけ。最近、あまり見てないような。それにレイのやつ、朝、宿にいなかったし、どこ行ったんだろう。来たら聞いてみよ)
そんなことを考えていると、入り口の扉が開き、三人が入ってきた。
「あ、やっと来た。随分と遅かっ……」
「カイ、おまえに大事な話がある」
「……え?どうした、そんなに改まって」
カイはそう言ったと同時に直感が働いた。今から自分にとって最悪なことが起きると。それを認識した途端、カイの背中に氷のような冷たいものでなぞられたような寒気を感じた。
(こいつ、今から何を言い出すんだ!)
その時、強い風が吹いたのか窓の格子がガタガタ鳴っている。今日は曇天だ。しかも暗い。
レイは小さくため息をつき神妙な面持ちでこう言った。
「俺たち三人で、この街から出ていくことにしたから」




