第三話「ラサロ姉妹と再会」
オークの群れを倒し終え、イースタリアンに帰ってきた頃には、もう日が傾き辺りは赤くなっていた。
「いつも通りの時間だね。でも、疲れたあ」
カイが少し疲れた声をしながら言った。
「オークの群れを二人で討伐するのは割と大変だったな。本当にお疲れ様」
二人はギルドに戻りながら話をしていた。
「そう言えば、昼間のやつ、どうなったかな」
「さすがに何の進展もないだろう。まだ初日だし、誰も来てくれないだろ」
「まあ、そうだよね……」
そんな会話をしていると、いつのまにかギルドの前に来ていた。
二人は中に入り、ギルド嬢に依頼達成の報告をしていたら、奥からサファイアを呼ぶ声が聞こえた。
「良かった、実はお二人にご報告があるんです」
「えっ!僕たち何かやらかしちゃいました!?」
カイが困惑と驚きの混じった声で聞き返した。
「いえいえ、昼間の件のことですよ。実はもうあなた方のパーティに入りたいという方が二人いるんですよ」
「本当ですか!」
カイとレイの声が重なる。
二人にとって予想外のことだった。初日のうちに、パーティに入りたいという人が二人もいたこと。そして、それ以前に、そもそもパーティに入りたいという人が、本当にいたことが驚きだったのだ。
「その人たちは今どこに」
レイが珍しくうれしさを隠しきれていないらしい。少し興奮混じりの声だった。
「彼女たちは、今は二階の応接室で待っていてもらっています。今から会われますか」
「もちろん!」
二人はギルド嬢に案内に従ってついていった。
「なあ、さっきギルド嬢、『彼女たち』って言ってなかったか」
「ああ、まさか女性が俺たちのパーティに入りたがっているだなんてな」
「でも、男と女のペアって可能性も……」
「どちらも女性の方ですよ。しかも姉妹。年もあなた方と近そうでしたよ」
「本当ですか、教えてくれてありがとうございます」
カイが面食らった声で答える。(この人、地獄耳だ)カイは心の中で思った。
しかし、年の近い女性が二人となるとカイはうれしさやこの先の不安などが、心の中に混じっていた。
ギルド嬢が応接室の扉をノックし、サファイアの二人を連れてきた旨を話した。すると中から返事が聞こえ、ギルド嬢は扉を開けた。
扉を開ける瞬間、カイたちはかなり緊張していた。初対面で、どんな人なのかかなり気になっていたからだ。
しかし、扉が開かれ、待っていた女性から開口一番に聞こえてきたのは意外なものだった。
「お久しぶりです!サファイアのお二方!」
金髪で髪は肩くらいのボブヘアーで、背の高いほうの女性がかわいらしい笑顔で、かつ、明るい声で二人に向かって話しかけた。
そのため、二人はかなり面食らってしまった。彼らは初対面だと思っていた女性二人とどこかで会っているが、覚えておらず、尚かつ、あまりのかわいさに動揺してしまったのだ。
「あの、俺たち、以前どこかでお会いしましたか?」
レイが当然の疑問を口にした。もちろん、カイも気になっていた。
「やはり覚えていませんでしたか。改めまして、私はカウナ=ラサロです。そして、私の後ろにいるのは妹の……」
「コモナ=ラサロです。これから、よろしくお願いします」
後ろから出てきた女性は姉と同じ金髪だが、ロングヘアーで髪を左側でまとめている。
緊張しているのか、恥ずかしいのか少し俯きながら小声で話した。顔はよく見えなかったが、カイの直感は、彼女の顔は少し赤くなっているのだろうと告げた。
女性陣の挨拶が済んだところでカウナ=ラサロは続けた。
「私たちは三か月ほど前に、あなたたちにイースタリアンの東の草原でコボルトから助け出していただきました。あの時は本当にありがとうございました」
「あっ、思い出した!確かにどこかで見た覚えがあると思ったら、あの時の人たちだったんですね」
どうやらレイは思い出したようだが、カイはあまりピンときていないらしい。
「ええと……、僕はまだ思い出せてないんですけど……」
「ほら、三か月くらい前に何の依頼かは忘れたが、それが終わった帰り道で……」
と、レイは三か月前の出来事を話し始めた。
――三か月前――
二月の中旬、真冬の夜空の下、カイとレイはいつも通り依頼を終え、帰路についていた。そんな中、どこからか悲鳴のようなどこか甲高い声が聞こえてきた。
レイはあまり気にするようなことではないだろうと思っている様子だったが、カイは違った。その悲鳴は助けを求めていると直感は告げていた。
カイは辺りを見回したが薄暗いこともあり、すぐにはどこから悲鳴が聞こえるのか判断できなかった。
そんな様子を見てレイもただ事ではないと察し、辺りを見回す。すると、異変に気付いたのかカイに声をかけた。
「おい、カイ。あそこにいるの、コボルトの群れじゃねえか?」
そいつらはカイたちの先にある岩のさらに先に確かに存在していた。しかし、ほぼシルエットで、ぎりぎりコボルトだと分かる程度だった。
「……!?」
カイの直感が再び告げた。そこに助けを求めているものがいると。それをすぐに理解し、カイはそこに向かって全速力で駆け付けた。レイも少し出遅れたが、その後を追う。
カイがそこにたどり着いた時には正にこの瞬間、コボルトの前にいる二人の人物(一人は地面に倒れこみ、もう一人はその人の近くでしゃがみ込み、完全にコボルトに背後をとられていた)に対して、鈍器のようなものを振りかぶすところだった。
カイはそれをさせまいと、手に持っていた銃でコボルトの右手を打った。コボルトは打たれた反動で手に持っていた鈍器を離してしまった。
予想外のことが起こったからか、打たれたコボルトはもちろん近くにいたコボルトも含め、驚いた声を出したが、すぐにカイの方を向いた。
「レイ、あそこにいる人たちは任せた!やいコボルト!お前らの相手はこっちだ!」
「ああ、こっちは任せろ!お前も無茶すんなよ!」
カイは後ろからついてきているレイの存在に気づいていて、レイには回復魔法が使えるため、二人の人物を任せ、コボルトは自分が引き付けることにしたのだ。
五体のコボルトはカイに引き寄せられ、レイはその間に二人の人物に近づき、声をかけた。
「どうしましたか!?」
「お、お姉ちゃんが目を、覚まさ、なくて……!」
「分かりました。少しいいですか」
倒れている人物をお姉ちゃんと呼ぶ女性は泣いているらしく歯切れが悪い。ただ事ではないと判断したレイは倒れている女性により近づき、容態を診ることにした。
そして、体に複数箇所の大きな切り傷やおでこに大きな打撲痕があることに気づき、急いで持っていたローポーションを切り傷にかけ、おでこ包帯を巻いた。その後、
「彼の者の痛みを癒し賜え、ヒール」
と言い、彼女に回復魔法をかけた。外見的には何も変わっていないように見えるが、倒れている女性の表情は苦しそうなものから徐々に安らぎのものへと変わっていった。
「ええと、あの、終わった……のですか?」
近くにしゃがみ込んでいた恐らく妹であろう女性がレイに尋ねた。
「ええ、応急処置はしておきました。ただし、このローポーションも俺の回復魔法も痛みを和らげる効果しかありませんので、すぐに病院に連れていきましょう」
と、切り傷に包帯を巻きながら答えた。直後、倒れた女性をお姫様抱っこの要領で抱きかかえて、カイに向かって叫んだ。
「カイ!俺はこの人を抱えて病院に行く!だからお前も、早急に片づけてこっちに来い!いいな!!」
「ああ、分かった!」
カイの返事を受け、レイはもう一人の女性に出発することを促し、病院へと向かった。
(返事をしたものの、どうしたものか……)
コボルトを引き付けたは良いものの、依然として状況は変わっていなかった。なぜなら、暗くてコボルトの弱点を正確に見極めるのが難しく、かつ、いつもは盾になってくれるレイもいないため、カイにとってはかなり不利な状況だった。
いや、コボルトの弱点の大まかな位置は分かっていた。しかし、カイの攻撃は弱点を打ち抜かないと致命傷にならないためかなり焦ってもいた。だからか、カイはさっきから逃げ惑っているだけだった。
(考えろ、何か、何か手はあるはず……!)
カイはコボルトから逃げ惑いながらも、対策はないかと思考を巡らせていた。そして、ある答えにたどり着く。
(そうか!僕はあいつらが病院に無事たどり着けるように時間稼ぎをすれば良いんだ……!無理して倒す必要ないんだ!それならあとは簡単だ!)
カイはそう思いつくと、走ることを止め、コボルトのほうに向き直り、コボルトの足に向かって銃を撃った。狙い通り、足を抱えてうずくまるのがいれば、大きく転んだのもいて、一時的だがコボルトの動きを止めることができた。
カイはその間に距離を取ろうとしたが、すぐにコボルトは立ち直し、カイを再び追いかけだした。しかし、カイは同じようにしてコボルトの動きを止め、また距離をとる。
……これらを繰り返し、カイがコボルトの足の輪郭と背景との区別がしにくくなるほど離れたあたりでコボルトはカイを追いかけるのを止めていた。
そう判断したカイはレイたちの向かった方向へ向き直し全速力でイースタリアンの病院へと向かった。このくらい時間を稼げていれば病院には着いていなくともイースタリアンには入っているだろうと思ったからだ。
そのころ、イースタリアンの病院内でレイは医者に詳細を説明し、怪我を負った少女は治療室で治療を施され、今は安静にしているところだった。
先生からしばらくすれば目覚めるだろうと聞き、二人は安心した。そして、今はレイがもう一人の少女からお礼を告げられているところだった。
「今日は助けていただき本当にありがとうございました!」
少女は深々とお辞儀をしながら礼を告げた。
「いえ、大したことはしていませんよ。それよりも、お姉さんが無事で本当に良かったです」
「はい!」
レイがそう答えた後、少女は満面の笑みで答えた。その顔はすごくかわいらしく、レイは少し顔を赤らめ、目を逸らした。
次の瞬間、少し強い風が通り過ぎた。入口の花壇に咲いている赤い花が大きく揺れた。
「今夜は少し冷えるかもしれません。暖かくして休んでください。では、またいつか、どこかで会いましょう」
レイは少し強引に話を終え、その場から離れようとした。少女もその意図を察したのかこれ以上話を続けようとしなかった。
「はい、またどこかで」
そういうと、少女はレイに向かって小さく手を振った。レイも手を振り返しながらカイが向かってくるであろう方向に歩き始めた。
「そして、病院に向かってくるカイと鉢合わせて、俺がカイに別れた後のことを説明したって感じかな」
「そういえば、そんなこともあったっけな……」
「まあ、カイがあまり覚えてないのも無理はないだろう。だって、結局最後までこの二人には会っていないのだから」
「確かに……」
カイは二人のことを覚えていなかったことを申し訳なさそうにしていた。
「あまり、気にしすぎないでください。私だって、こうして直接あなたたちとお話するのは初めてですから。それにこれからは同じパーティメンバーとして仲良くできたらうれしいです!」
カウナ=ラサロは、カイは悪くないと諭すように言った。
「そう言われたら、僕もくよくよしていられないな。あっ、そういえば、こっちの自己紹介がまだだったね。改めて僕らはサファイアっていうパーティ名で、僕はカイ=ランフォード。拳銃使いだよ。魔法はあまり得意じゃないけど、まあ、これからよろしくね」
「俺の名前はレイ=ベートマンだ。見てのとおり|大盾使い《ガードマ




