第一話「ありふれた日常」
「右からゴブリンが二体!」
「了解!」
洞窟でゴブリン退治をする二人の冒険者がいた。一人は大盾を構え、一人は拳銃を撃っていた。
大盾使いがレイ=ベートマンで、拳銃使いがカイ=ランフォードだ。
カイはレイの後ろにしゃがんで身を潜ませ、襲い来るゴブリンを撃ち殺していた。
カイは迫り来るゴブリンのうち右側のほうのゴブリンの眉間を、正確に狙って撃ち殺した。そしてすぐに隣のゴブリンも同じようにして殺した。
「よし!」
とガッツポーズをする。
「油断するな!左から三体、まだ来るぞ!」
カイはレイの体の左側に素早く移動し、二体のゴブリンを同じようにして殺せたが、一体だけ間に合わなくほぼ目の前まで来ていた。
「悪い、一体殺し損ねた」
「しょうがねぇな!任せろ!」
レイはそう言って盾で迫ってきたゴブリンを跳ね返し、盾に隠し持っていた短剣でゴブリンの右首を切り、殺した。
「これで十体目、予想以上にいたな」
とカイが額の汗を拭い、立ち上がりながら言った。カイはほっとして、大きく息を吐いた。
「ギルドの依頼だと八体と言っていたのにな」
レイが周りを気にしながら言った。
「どうした?そんなに警戒しちゃって、もうゴブリンはいないんだからさ」
「いや、俺はまだゴブリンが残っていると確信している。どこにいるかは分からないが」
「まじか、レイがそう言うならまだどこかに……!」
カイの直感が働いた。背後の岩陰にまだゴブリンが残っていると。
カイが振り返ったと同時に背後からゴブリンが、勝ったと言わんばかりの不敵な笑みと笑い声を発しながら飛び出してきた。
しかし、カイは反応していた。銃口をゴブリンの眉間に合わせ、ゴブリンが持っている棍棒を振りかざすより前に引き金を引いて撃ち殺した。ほぼ一瞬の出来事だった。
「あっぶねぇ、まさか本当に残っていたとは」
「大丈夫か⁉︎よく反応できたな」
レイがカイを心配そうに言う。
「ああ、直感が働いたからなんとかな」
「おまえの直感、いつ見てもすごいな」
「それはどうもありがとう。……さすがにゴブリンはもういないよな」
二人はあたりを見回す。
「よし、さっさとゴブリンの耳回収しようぜ」
カイはそう言って腰につけた短剣を取り出し、レイは手に持っていた短剣でそれぞれゴブリンの耳を黙々とマジックボックスに回収していった。
「やっと終わったぁ」
「割と時間かかってしまったな」
のびをするカイとレイが洞窟から出てきた。日は落ちかけ、あたりは赤く染まっている。季節が春の五月半ばだからか、まだ少し暖かい。
「速く帰って飯食おうぜ、僕もうおなか減ったよ」
「そうだな、俺も腹減った」
二人は足速にイースタリアンのキルドへと向かった。
二人がギルドに着く頃には日は完全に沈み、あたりは暗く、家々の明るさと上弦の月の明るさだけが頼りだった。
ギルド内は夕食を食べている冒険者で溢れかえり、酒を浴びるように飲み、酔い潰れている。
二人は依頼達成の報酬を受け取り、ゴブリンの耳を換金して、空いている席に座り夕食を済ませることにした。二人の予想通り誤情報の謝礼金も貰えた。
「誤情報の謝礼金も貰えたし、レッドブルのステーキ、食おうぜ!」
「そうだな……って、結局レッドブルのステーキにしたんだな」
「うん、やっぱりレイと同じものが食べたくなって」
「なるほど、そういうことかよ、飲物は麦酒でいいよな」
カイが「ああ」と答えるのを聞いて、レイは近くにいたウエイトレスを呼んだ。
「麦酒二つ、あとレッドブルのステーキ二つ、お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
二人は注文を終え、装備を下ろした。すぐに麦酒が来た。
「今日もお疲れ様!乾杯!」
「乾杯!」
二人は一気に飲みいれた。
「ああ、魔力の切れた体に効くぅ!」
この世界の銃は自身の魔力を弾として撃つものである。
「お疲れ様」
レイがカイを労うように言った。
「本当にそうだよ。僕の魔力は少ない上に薄いから急所狙わないと殺せないんだよ、だから集中力が使われて余計に疲れるんだよ!」
カイは泣き崩れるように言った。
「うん、そうだな。それでも、おまえのおかげで俺たちはここまで来られたんだ。感謝している」
「何だよ、急に、照れるだろ。つか、そんなこと言うなら僕だってレイに感謝してるよ。いつも盾になってくれてありがとな、レイが守ってくれないと僕は戦えないからさ。それにさっき言い忘れてたけど、レイの確信がなかったらワンチャン死んでたんだから。本当にありがとう」
「そう言われると、確かになんか照れるな」
「レイが先に言い始めたんだろ」
カイは意地悪い顔で言った。しかし、次の瞬間には笑顔になって
「これからもお互い、頑張っていこうな!」
と言い、右拳を突き出した。
「おう!」
とレイが答え、左拳を突き出し二人でグータッチをした。そんなやりとりをしているうちにレッドブルのステーキが来た。
「お待たせしました。レッドブルのステーキです」
ウエイトレスが順番に置いた。二人は待ってましたと言わんばかりにステーキにがっついた。
「うま!!」
二人は声を揃えて叫んだ。満足そうだ。
ある程度食べ進めたとき、冒険者仲間のケイン=ホガースから声をかけられた。
ケインは二人の先輩冒険者で、Bランク冒険者であり、師匠でもある人で、二人が行き詰ったとき、よく相談に乗ってくれる。
しかし、今のケインは少し酔っているらしい。顔が赤い。
「よう!サファイアのお二人さん。元気にしてっか」
サファイアとは二人のパーティ名である。
「おうよ!おかげでこんなうまい飯が食えてんだからな!」
カイが皮肉めいた笑顔で答えた。
「いいよな、おまえらは出世街道まっしぐらでよ、依頼失敗続きの俺たちとは雲泥の差だぜ」
ケインたちのパーティ、タイガーズは難しい依頼を受けていることもあり、最近スランプ気味だ。
「そうだな、僕らとお前らとでは格が違うんだよ、格が!」
「おい、カイ、もう酔ってんのか、少し落ち着け」
カイは酒に弱い。それゆえ理性のブレーキが効かなくなることがよくある。それを知っていたレイはすかさず止めに入ったが、遅かった。
「おう、何だてめぇ、やろうってんのか!」
ケインがレイのなだめを掻き消す勢いで怒鳴った。だから、カイはレイのなだめを聞き取ることができなかった。
「ああ!やってやろうじゃねえか!」
カイは勢いよく立ち上がり、ケインのほうを向く。レイは呆れ顔になっていた。
「何だ、何だ?喧嘩か」「俺は茶髪の野郎に板銀貨二枚!」「俺は黒髪に板銀貨四枚!」野次馬の冒険者が集まってくる。
ギルド内での喧嘩は風物詩の一つであり、誰が勝つかを賭けあっている。
「ここは腕相撲で勝負ってのはどうだ」
「ああ、そういえば、まだ決着ついてなかったな」
お互いやる気満々だった。二人は何故かある腕相撲用の台へと移動し、二人の戦いが始まった。
これがかなり盛り上がり、白熱した。二人の力が拮抗していたこともあり、野次馬の冒険者のギャンブルに対する心を動かしてしまった。
結果として、二人の喧嘩はギルド中を巻き込み大盛り上がりを見せた。始めは呆れていたレイの顔も徐々に楽しそうな顔へと変わっていた。
かれこれ五分以上睨み合い続け、結果的に勝ったのはケインだった。
「ふん!やっぱり先輩としての格の方が上だったな!」
「あぁ、もう!クソ!納得いかねぇ!もう一回だ!」
「おういいぜ、何度やっても結果は同じだろうがよ」
ケインはそう言い、二人はまた腕相撲を始めた。次の戦いはカイが勝利を納めた。
「あっれえ、先輩としての格が上なんじゃなかったのぉ?」
カイはケインを煽った。
「おまえは一度分からせないとダメみたいだな。もう一度だ!」
そうして、二人は三度目の腕相撲を始めた。その後、二人が納得いくまで腕相撲を繰り返していくうちに、二人の気持ちは怒りから楽しさへと変わっていった。
カイはこの日々にとても満足していた。戦闘中は自分を守ってくれるレイ、悩みを聞いてくれるケイン。
そして、今こうして一緒に盛り上がってくれている同じ冒険者たち。毎日同じようなことを繰り返しているが、カイにとってはかなり充実していた。
(こんなありふれた日常がいつまでも続けばいいのに)
カイは心の中でつぶやいた。数週間後には絶望の未来が待っているとも知らずに。
二人がギルドから出てきた頃には上弦の月は高い位置にいた。
「早く宿に戻って寝たい」
カイは虚な目になっている。完全に酔っているようだ。
「おいおい、歩けるのかよ。ほら、肩持って」
レイは軽く呆れ声でカイに言った。カイはレイに抱えられ、いつも寝泊まりしている格安宿屋へと帰った。
二人が宿に着くと、宿主であるピルロおじさんがレイに話しかけた。
(あれ、なんだろう。レイとピルロおじさんの話し声が聞こえる気がするけど、よく聞こえない……まあ、重要なことなら、レイが教えてくれるでしょう)
「……わかったか」
「わかっ……た〜」
カイは何も分かってないのにそう返事をしてしまった。大事なことだったのに。
その後、レイはカイをカイの部屋へ運んだ。
「ほら着いたぞ」
レイはそう言い、カイをベッドに下ろして寝かした。
「ありがとう、また明日、おやすみ」
カイはそう言って寝てしまった。レイは鼻で息を吐き、「おやすみ」と静かに言った。
その後レイも自分の部屋に戻り、すぐに寝についた。




